FP花輪陽子のシンガポール移住日記

「老後資金」として必要な金額や準備方法を、日本と海外で比較! 個人年金保険などが充実している香港、シンガポールと違い、日本では自力での運用が必要!

【第40回】 2018年12月1日公開(2022年3月29日更新)
花輪陽子
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日本で本当に必要な「老後資金」はいくら?
単身で2000万円、夫婦で3000万円という金額は読みが甘い?

 ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。今回は、香港やシンガポールといったアジアの先進国において、「老後資金はどれだけ必要か」というテーマでお話しします。

 長期的なマネープランを考えるうえでは、「資産形成の目標」を明確にすることが大切です。目標というと「住宅の購入資金」や「子どもの教育費」に加えて、「老後資金」を挙げる人も多いでしょう。

 日本では、年金不安が取り沙汰されていることもあり、老後資金に不安を抱える人が大勢います。それは今、私が住んでいるシンガポール、それに香港などでも同様で、現役時代から「老後資金」を作る算段に頭を悩ませている人は珍しくありません。北欧のように、老後の保障が手厚い“大きな政府”の国を除いて、「老後資金」の問題はほぼ万国共通の悩みと言っても過言ではないでしょう。

 「老後資金」を計画的に準備しておくのは重要なことですが、実際問題として、いくら備えがあれば、本当に不安のない状態で老後を迎えることができるのでしょうか?

 日本のファイナンシャル・プランナーのアドバイスとしてよく耳にするのは、「(日本で定年後の生活費をまかなうには)夫婦で3000万円、単身の場合は2000万円程度あれば安心」といったもの。

 決して間違ったアドバイスではありませんが、これは「年金は現行制度のまま支払われる」という大前提が崩れなければ、の話です。前回もお話ししましたが、現行の年金制度は決して盤石ではないので、将来的に支給額が減らされたり、支給開始年齢が後ろに倒されたりする可能性は高いと言えます。
【※関連記事はこちら!】
⇒日本の公的年金は世界的に見ても低評価で、持続性に不安あり! 日本の公的年金の改善策や香港やシンガポールで利用されている「年金保険」の内容も紹介!

 年金の支給額が減らされたり、支給開始年齢が遅くなったりする可能性を想定するなら、自分で蓄える老後資金は、前述した金額より多く必要になります。世代によっては、2000万円程度を上乗せして備えたほうがよいかもしれません。

 もちろん、60歳や65歳で引退せずにもっと長く働き続ければ、そこまで用意する必要はないとも考えられます。しかし、今後は少子高齢化によって、医療、介護などもろもろの自己負担が膨らむ可能性もあり、本当に困らない「老後資金」を想定するなら、前述のファイナンシャル・プランナーの一般的なアドバイスは、楽観的すぎるということになります。

香港やシンガポールにおける「老後資金」の目安は
「年間300万円」程度というのが一般的な認識

 ちなみに、香港やシンガポールでは、「老後資金」をいくらくらい用意すべきだと考えられているのでしょうか。

 保険会社のカタログに載っているシミュレーションなどでは、よく「老後の生活費=年間300万円」という記述が出てきます。この辺りの感覚は、日本とあまり変わらないかもしれません。ただ、年間300万円が必要となると、老後を65歳から100歳までの35年間と仮定した場合、用意しておくべき老後資金は1億円以上にも及びます。

 もちろん、香港やシンガポールにも公的年金制度はありますが、日本よりももっと保障が薄いので、相当な金額を自分で準備しておかなければなりません。そのため、多くの人は個人年金保険に加入しています。個人年金保険に加入しておくと、保険会社が経費控除後5%前後の高い利回りで資金を運用してくれるので、若いうちから準備をしておけば、老後資金をそれほど無理なく貯めることができるのです。

 具体的な例を挙げてみましょう。たとえば、現在29歳の人が、香港やシンガポールで一般的な個人年金保険に加入し、毎年80万円程度を5年間払い込んで運用していくとします。捻出する金額は400万円になりますが、5年で払い済みにして放っておいたとしても、62歳のときには長期運用+複利の効果で資産が大幅に増え、1400万円超にも達します(※保険会社のシミュレーションより。経費控除後5%前後で運用したと仮定)。

 ちなみに「5年で払い済みにする」というのは、少額の保険料を長期間にわたって支払い続けるよりも、一時払いなどで保険料をドカンと支払って、なるべく保険料の支払い回数を減らしたほうが、利回りが有利になることが多いためです。

 62歳のときにまだ働いていて、資金を引き出す必要がなければ、そのまま置いておくことで資産をさらに増やせます。年利5%を維持すれば、80歳のときには2800万円程度にも達するので、老後の生活費として大いに頼れる存在になるでしょう。

 これは29~33歳の間に捻出した資金を運用した例ですが、その後また資金的な余裕ができたら、別口で個人年金保険に加入し、同じように5年で払い済みにしておくこともできます。これを繰り返すと“安心のカゴ”をいくつも持つ状態になります。ずっと少額の保険料を支払い続けることが多い日本とは異なりますが、シンガポールや香港では、わりとポピュラーな加入の仕方です。

 余裕資金をすべて保険につぎこむのは不安に感じるかもしれませんが、香港やシンガポールの個人年金保険は、中途での資金の引き出しをフレキシブルにできるプランが多いので、気軽に始めることができるのです。

 私の周囲でも、多くの人が早いうちから「老後資金」の準備を始めており、特に個人年金保険は大変な人気があります。ちなみに、10月や11月は、多くの保険会社が決算直前ということで、売上ノルマを達成するためにプロモーションを実施します。このプロモーションを利用すると、利回りの優遇などが受けられるため、この時期に大きな契約に踏み切る人が多いです。

シンガポールの私立病院でがんの治療を受けると
3000万円くらいの高額な治療費が必要になることも!

 個人年金保険に加えて、シンガポールでは医療保険に加入する人も多いです。シンガポールは医療費が高く、自己負担率は6割程度にも及ぶため、医療保険に入っていなければ気軽に病院にかかれない環境です。高齢になれば、おのずと病院に通ったり、入院したりする機会は増えますが、医療保険がなければ湯水のようにお金が出ていくことになってしまうのです。

 なかでも、近年評価が高いのは「重病保険(クリティカルイルネス)」と呼ばれる医療保険です。「重病保険」は、特定の重病の診断を受けたときに、一時金が支給される仕組み。カバーする病気の範囲が広いのが特徴です。

 病気の進行度合いに応じて、支払われる金額は異なりますが、多くは一時金として数千万円程度受け取れるプランになっているので、そのお金を利用して好きな場所で治療を受けることができます。

 日本人の感覚からすると、一時金として数千万円も受け取れるというのは、法外な条件のように思われるでしょう。日本でも、「がん保険」は診断を受けるだけで一時金が出る商品が一般的ですが、受け取れる金額はせいぜい100万円程度です。

 しかし、シンガポールに住む人にその話をすると、「それだけしか出ないの? 絶対足りない!」と言われます。実際、医療費の高いシンガポールでは、がんの治療費として100万円くらいでは心もとないのが実状。仮に1年間がんで闘病するとなると、私立病院では入院と通院治療で医療費が3000万円くらいかかってしまうのも普通だからです。

 公立病院ならもっと安価ですが、そのぶん患者数が非常に多いため、かなりの期間にわたって順番待ちをしなければなりません。治療を急ぐ病気の場合、悠長に待ってなどいられませんから、重病のときほど私立病院を利用する場合が多く、その治療費をカバーする「重病保険」が必要になるわけです。

予定利率が低い日本では、年金保険には頼れない!
勉強して自力で年5%程度の運用利回りを目指そう!

 香港やシンガポールで不安のない老後を過ごすためには、個人年金保険や重病保険といった「保険」がカギを握ることがおわかりいただけたでしょうか。逆に言うと、若いうちから準備し、「保険」をうまく活用していれば、社会保障が薄くても、それほどお金の心配をしないで済む、ということになります。

 もし、将来的に香港やシンガポールで老後の生活を送ってみたいと考えるのなら、生活費の目安は前述のとおり、年間300万円ほど。加えて、現地で医療保険に加入するべきでしょう。香港やシンガポールの保険はグローバルなので、現地在住であれば外国人でも比較的簡単に加入できます。

 老後を日本で過ごすにしても、海外移住するにしても、現役時代から「老後資金」の準備は必要になります。香港やシンガポールの保険のような高い利回りが期待できない日本では、保険会社に運用をお任せしても、資産はほぼ増えないので、自分で運用するしかありません。

 自分で運用して、毎年5%程度の利回りを目指すというのはなかなかハードルが高くなりますが、パフォーマンスの良い投資信託を選択するなど、やり方次第で達成は可能でしょう。ただし、それなりに勉強は必要になるので、「個人年金保険」や「重病保険」などの「保険」にお任せできる香港やシンガポールの人たちよりも、置かれている環境は厳しいと言えるかもしれません。

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