【今回のまとめ】
1.先週は地政学面の良いニュースで相場が反発した
2.アメリカのクルド自治区に対する支援は中途半端にならざるを得ない
3.ロシアはクッションとしてのウクライナを失いたくない
4.目先イラク、ウクライナからのニュースが好転すれば、今度はFRBが爆弾を落とす
5.FRBの観測気球が上がれば、相場は下がる
米国株式市場は反発した
先週の米国株式市場はアメリカがイラクの過激派の進軍を食い止めるため空からの限定的な攻撃を始めたというニュースで反発しました。週間ベースでは、ダウ工業株価平均指数は+0.4%、S&P500指数は+0.3%、ナスダック総合指数は+0.4%で終わりました。
イラクの情勢
先週金曜日にニューヨーク市場にもたらされたイラクからのニュースは、投資家を「ほっ」と安堵させる内容でした。なぜなら過激派の動きは止まったように見えますし、山岳地帯に孤立した難民への救援物資の投下もちゃんと届いたし、アメリカ軍の犠牲も出なかったからです。
しかし良いニュースが、今後もずっと続くという風には考えない方が良いと思います。
オバマ大統領は「過激派が兵を引けば、アメリカは空からの攻撃を止める」と発言し、作戦の幕引きは、過激派のキモチ次第という風に判断を相手に委ねています。
普通、合理的に考えればハイテクを駆使した空からの攻撃に、勝ち目は無いですから、過激派は引き下がると思いがちです。
でも、そうならない可能性もあります。
なぜならアメリカは過激派を根絶するために必要な、徹底的で全面的な支援をクルド自治政府に対して行わないと思うからです。
その理由は、クルド自治政府が力をつけて、過激派を蹴散らせば、クルド人は、ますますバクダッドのイラク政府とは別の道を歩みたいと考えるに違いないからです。
これは「ひとつのイラク」を強く奨励しているアメリカの意図とは、正反対です。このためアメリカのクルド自治政府に対する支援は、中途半端なものにならざるを得ないのです。
またクルド自治政府が守らなければいけない国境線は1000キロメートルもあり、その大半は砂漠です。兵力に限りがあるクルド軍は、したがって今後も過激派のゲリラ的な奇襲攻撃に悩まされると考えるのが自然です。
本当に過激派のゲリラ的な奇襲を根絶しようと思えば、絶え間ない空からの監視と攻撃が必要になり、それを実行できるのはアメリカ軍しか無いのです。これはドロ沼的にアメリカが北イラクでの紛争に巻き込まれてゆく可能性があることを示唆しています。
一方、ウクライナでは
さて、先週金曜日にニューヨーク市場が急騰した、もうひとつの理由は、ロシアがウクライナ国境近くに集結していたロシアの兵を引く命令を出したというニュースがもたらされたからです。
ただ、このニュースも「これで紛争が終わる」という風に即断しない方が良さそうです。なぜならロシアは以前にも今回と同様のカタチで兵を引き、様子を見るということを繰り返したからです。
ロシアは「ウクライナは、ウクライナとして、現状のまま、とっておきたい」と考えています。それは言い換えれば緩衝(かんしょう)地帯、つまりクッション、ないしはバッファー・ゾーンとしてのウクライナということです。
ロシアがいちばん嫌うのは、ロシア軍とNATO軍が、国境を挟んで直接対峙するような状況です。ウクライナに関して言えば、もしウクライナが100%、EU側につけばそういう状態になるし、逆にロシアが100%ウクライナを盗ったら、そういう状態が起こります。
ウクライナ国内には歴史的にロシアに親近感を寄せる東ウクライナと、EUに親近感を持つ西ウクライナという二つの勢力がありました。いまロシアに親近感を寄せる、いわゆる親ロシア分離主義者と呼ばれる勢力は、ドネツクとルハンスクというロシア国境に近い二つの町に追い詰められています。この両方の町が陥落すると、上で書いた「ウクライナが100%、EU側に行ってしまう」というシナリオが起きてしまうのです。ロシアとしては、これは何としても避けなければいけません。
実際、ドネツクとルハンスクに立て籠もっている親ロシア分離主義者は、すでにロシアから送り込まれた戦争経験豊かなアドバイザーの指揮下にあると言われています。つまりロシアが簡単にウクライナを諦めるということは、ありえないシナリオなのです。
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