投資家はもとより経済・金融のプロも愛読する金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』は4月4日付で「新年度入りにあたり考えておくべきポイント(マクロ編)」と題し、1万1700字におよぶ大激論を展開しています。内容はアベノミクスの検証、ECB・FRB・中国人民銀行の次なる動き、為替の行方、そして世界経済に深刻な影響を及ぼし得る震源地について…等々。本連載では全容をお伝えしきれませんが、今回は今後の注目ポイントとなりそうな安倍政権と旧大蔵省の消費税増税をめぐる攻防について、コンパクトにお届けします。
「アベノミクス」を巡る安倍首相と旧大蔵省、
それぞれの思惑とは?
現在につながる相場の潮流は2012年11月14日、野田前首相(当時)が党首討論で発した「衆院解散宣言」から始まりました。民主党政権の経済政策と日銀の金融政策が不十分で株安・円高に振れていた相場は、これを機に一気に株高・円安に向かいます。ちなみに衆院解散宣言直前の日経平均は8664円、為替は1ドル=80.24円/1ユーロ=120.82円でした。
いわゆる「アベノミクス」は安倍政権発足が確実となったここがスタート地点になります。2012年末の日経平均は1万395円、為替は1ドル=86.74円/1ユーロ=102.17円。安倍政権の発足直後、具体的な政策がまだ何も見えていない段階でここまで動いたのは、いかに市場が閉塞感に苛まれていたかを示します。
2013年3月、黒田東彦氏が日銀総裁に就任し「異次元の量的緩和」に舵を切りました。日銀総裁のポストは日銀出身者と財務省(旧・大蔵省)出身者が交互に就く「たすき掛け人事」が長年(1974~1998年)続いてきましたが、1998年の日銀法改正で「日銀の独立性」が重視されるようになってからこの慣行が廃されました。財務省出身の黒田総裁の誕生は、旧大蔵省が15年ぶりにそのポストを奪還したところに最大の意味があります。
さて、ここで安倍首相と旧大蔵省の思惑について整理しておきましょう。
安倍首相は「衆参両院で3分の2以上の勢力を得て憲法を改正すること」に意欲を示しています。そのためには強い政権基盤と高い支持率が必要で、景気回復と株高は生命線であると言えました。
一方、旧大蔵省の至上命題は「消費税10%を確実に実施すること」にあります。民主党・野田政権時の2012年には「消費税関連法案」が成立しており、税率を2015年10月までに5%→8%→10%と段階的に引き上げていくことは決まっていました。が、それを確実に実現するには政権が高い支持率に支えられているほうが好ましく、異次元の量的緩和はそのための「アシスト」だったのです。
消費税8%で景気回復が腰折れ
首相と旧大蔵省の関係に生じた変化
しかし、消費税が8%に引き上げられると景気は見事に腰折れし、安倍政権の支持率も下がってきました。法律で決まっているとはいえ次の8%→10%の引き上げを確実に実現したい旧大蔵省は、ここで「ダメ押しのアシスト」として必要のない追加量的緩和に踏み切りました。消費税10%が実現したあかつきには早々に打ち切ってしまえばいいと簡単に思っていたのでしょう。
ところが、安倍首相は2014年12月「消費増税延期の民意を問う」として衆院解散総選挙に打って出ます。これは旧大蔵省にも完全に寝耳に水でした。そして選挙に勝った安倍政権は8%→10%への引き上げを2017年4月まで延期してしまったのです。これにより日銀は量的緩和を最低でも1年半は長く続けなければならなくなりました。旧大蔵省の官僚たちは「何としても2017年4月の増税は実現しなければならない」と危機感を募らせたことでしょう。
そこで出てきたのが「軽減税率導入」の議論です。「何を対象品目とするか」「どのように還付するか」という議論は、消費税10%が前提になっており、増税を既成事実化しようという旧大蔵省の思惑が見えます。「安保関連法案」を巡りすっかり勢いの衰えていた安倍首相はこの時、旧大蔵省と対立することを完全に諦め、如何にして参院選で公明党の協力を得るかに関心が向いていました。
そうして2016年1月、中国経済の混乱や原油株安などをきっかけとして、ついに株高・円安の流れが逆流を始めます。アベノミクス後半、すなわちGPIFをはじめ本邦機関投資家の資金を総動員してまで株高・円安に持ち上げていたところからの上昇分が、剥落し始めました。実力を超えて買われ過ぎていた部分が修正されるだけなら良いのですが、その間に日銀は量的緩和の拡大と、マイナス金利導入まで踏み込んでしまっています。
ここに消費税10%が予定通り導入されでもしたら……日本経済は完全に沈没、民主党政権時代よりも遥かに悪い状態に落ち込んでしまうでしょう。
消費増税再延期を問う衆参同時選挙で
首相vs旧大蔵省の壮絶なバトルが始まる!
最近、安倍首相は「消費増税再延期」を問うて衆議院を解散、衆参同日選挙に踏み切る腹を固めたようです。聞こえてくるところでは再延期にとどまらず増税そのものの中止、さらに税率8%のままでの軽減税率導入(実質的な減税)まで考えているとも言います。
もちろん旧大蔵省からすれば「とんでもない話」です。そのため旧大蔵省側は、国家権力の全てと大手マスコミまで動員して排除にとりかかろうとしています。官僚組織は普段は省庁間で勢力争いを繰り返していますが、こういう事態には見事に連携するものです。検察庁まで動員して安倍首相およびその周辺を徹底調査する可能性もあります。
読者の皆さんは「そうまでして旧大蔵省は税率を引き上げたいのか? 無理に増税しても、税収そのものが減ってしまえば意味がないではないか」と思われるかもしれません。しかし、大宝律令(西暦701年)から存続している旧大蔵省にとって「そんな目先のこと」などどうでもいいこと。一度引き上げられた消費税率は元に戻ることは絶対にないので、未来永劫の財源を確保することが最優先なのです。
日本が大恐慌に陥ろうが、国が沈没しようが、自らの所属する省の利権をどこまでも守り抜く、それが官僚組織の本質です。決して大げさに言っているのではありません。これから安倍首相vs旧大蔵省+全官僚組織の壮絶なバトルが始まります。
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