セブン&アイ・ホールディングスを長年率いてきた鈴木敏文会長が、突然の引退を表明してから2週間。日本を代表する小売りの勝ち組が、揺れています。いったい何があったのか、そして同社はこれからどうなってしまうのか!? 経済のプロも愛読する刺激的な金融メルマガ「闇株新聞プレミアム」が解説します。
4月7日、セブン&アイ・ホールディングス(証券コード:3382 [⇒最新の株価はコチラ] 以下、セブン&アイ)の鈴木敏文・代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)が突然に引退を表明しました。鈴木氏と言えば、同社の中核事業であるセブンイレブンの「育ての親」であり「完全なるグループの支配者」だったはずです。
その鈴木氏が何故突然に引退を発表したのか? 巷間囁かれるのは業績低迷を理由に更迭されそうになった井阪隆一氏(セブンイレブン・ジャパン社長)を中心に「反鈴木グループ」が形成され、創業者の伊藤雅俊氏やアクティビストのサード・ポイントとも連携しながら、鈴木氏と次男の鈴木康弘取締役の追い落としを図った「クーデター」だったということです。
そこで懸念されることが2つあります。1つは「サード・ポイント」の存在と役割、もう1つは「指名報酬委員会」の破壊力についてです。
早くから人事抗争について知っていた
サード・ポイントとは何者なのか!?
ダニエル・ローブ氏率いるサード・ポイントは2015年7~9月にセブン&アイの株式を取得したようで、同年10月には業績が低迷するイトーヨーカ堂をセブン&アイから切り離して大幅増配することや、米セブンイレブンの米国での分離上場などを要求していたようです。
この手のヘッジファンドは株式を海外の証券会社からデリバティブを相対で取得するなどして、短期的な値上がり益を追求するスタイルです。この場合、対抗手段としては「のらりくらりと時間稼ぎ」をすることです。時間が経つほどコストが嵩み、負担に耐えられなくなって勝手に撤退していくからです。
ところがローブ氏は3月27日にセブン&アイに書簡を送り「我々サード・ポイントは井阪氏が最有力候補であるべきと考える」と指摘していたようです。これはアクティビストの発言とは思えないほど「稚拙」です。そもそも外部の株主が(その後に露呈する)人事抗争について知っている方がおかしいのです。
サード・ポイントのセブン&アイ株取得コストは5400~5500円と推測されます。本年3月下旬には株価が4800円台まで下落して焦ったローブ氏と、反鈴木グループが「通じていた」と簡単に想像できてしまいます。
だからこそ、鈴木氏があっさり引退してしまったことに「大変に嫌な感じ」がするのです。鈴木氏は自身が手掛けてきた事業に「もうそれほど伸びシロがない」と肌で感じていたのではないでしょうか。
強大な権限を持つ「指名報酬委員会」
他企業でも起こり得る“懸念”とは?
「指名報酬員会」についてはセブン&アイに止まらない問題です。実は今回の騒動、取締役会に先立って「指名報酬委員会」が鈴木氏の人事案(井阪社長を更迭など)を否決していたようです。
「指名報酬委員会」とは、代表取締役、取締役、監査役、執行役員の指名や報酬について社外取締役を含む「委員会」が決定するシステムで、従来の株式会社とは異なる新しい企業統治形態として採用する企業が増えています。
セブン&アイの指名報酬委員会は3月8日に設置されたばかり。委員長を含む2名の社外独立取締役と鈴木・村田紀敏(セブン&アイCOO)両氏の計4名で構成されています。
この委員会は見れば見る程強大な人事権限を有しています。というのも、決定には過半数(つまり4名中3名)の賛成が必要となるため、少なくとも2名の社外取締役が賛成しないと人事案が一切認められないのです。
最近はコンプアライアンス重視の流れもあり、どの企業も社外取締役を最低1~2名は選任するよう指導を受けます。が、実態は「肩書きが立派でいかにも経営を厳しく監視しそうに見えて、その実あまり煩いことを言わない人材」が重宝されひっぱりダコになっています。
普通、上場会社を外部から支配するためには莫大な資金を使い発行株式の過半数を握るか、大株主や一般株主の賛同を得て取締役会の過半数を握らなければなりませんが、ここに「社外取締役を若干名だけ送り込んで指名報酬委員会メンバーに就けばよい」という、金も要らない大変に簡単な方法が新たに加わったことになります。
社外取締役候補を操り、これを悪用する勢力が(別に反社会勢力とは特定しませんが)、たくさん出てこないことを祈るしかありません。
カリスマ経営者が去った
セブン&アイはこれからどうなる?
さて、今後のセブン&アイはどうなっていくでしょう。取締役会は4月19日、井阪氏を社長に昇格する人事を決定しました。鈴木敏文氏はすべての役職を解かれ「名誉顧問」に就任する方向で調整を進めるとされていますが、事の次第から一切の関係が断たれる気がします。
こう言ってはなんですが、セブン&アイはもともとセブンイレブン以外は「ガラクタ」ばかりの企業です。それをまとめ上げここまでに業容と株主価値を拡大させてきたのは、鈴木氏の経営手腕に拠るところが大であったのは間違いありません。
新社長である井阪氏は野村證券・元副社長の井阪健一氏のご子息ですが、1980年にセブンイレブン・ジャパンに入社、2009年から同社の代表取締役社長兼最高執行責任者(COO)に就任した「初の生え抜き社長」でもありました。
手腕は未知数ですが、煩く言う実力経営者がいなくなった後のサラリーマン経営者は、得てして途端に緊張感がなくなり、新たな抗争に現を抜かして業績拡大などどうでもよくなってしまうものです。井阪氏がそうであるとは言いませんが、セブンの成長神話と一人勝ち状態は鈴木氏の引退と共に急速に終焉を迎えるような気がします。
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