日銀は7月の政策決定会合で、ETFの年間買い入れ額を従来の3.3兆円から“ほぼ倍増”となる6兆円に拡大しました。白川総裁時代(2010年10月)に年間4500億円の枠(別にREITが500億円)で開始してから、6年弱で約13.3倍になった計算です。個人投資家にとっては相場下落時、容赦なく売り浴びせてくる外国人投資家に買いで立ち向かってくれる日銀の存在は頼もしく映ります。が、長い目で見ればそれは決して良いことではないと刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』は警鐘を鳴らします。いったい何が問題なのでしょうか!?
資産価格に働きかける緩和策はアリか!?
日銀のETF買い入れの是非を考える
政策決定会合の「主な意見」(8月8日発表)によると、ETFの買い入れ拡大については「資産価格に働きかける緩和策が有効」とおおむね賛同されたようです。これが金融政策の最終決定機関である政策員会の多数意見であるとするなら(そのようですが)、心配になるほど無邪気と言わざるをえません。証券界出身の佐藤委員と木内委員だけが「日銀の財務健全性と株価の公正な形成をゆがめる」と反対しましたが、これが正論です。
かつて日銀の金融政策とは、短期金利(政策金利)を上下させるだけでした。それが今や短期金融市場に必要以上の資金を供給する、あらゆる年限の国債を大規模に買い入れ金利水準を押し下げる、さらには政策金利(短期金利)をマイナスにして長短金利差(利鞘)を確保するなど、どんどん過激になっています。
本紙は現時点ではこうした過激な手段に批判的ですが、「市場に大量資金を供給する手段」と考えれば、中央銀行の行動としてはわからないわけではありません。しかし、多数の審議委員が主張する「資産価格に働きかける」ETFの買い入れは、中央銀行の役割として適切ではありません。
中央銀行の役割に「金融秩序の維持」があります。株式市場が壊滅的なダメージを受ければ、適宜介入することは必要でしょう。例えば、リーマンショック直後に米FRB(連邦準備制度)がMBS(住宅ローン担保付き債券)を中心に1.7兆ドルも買い入れたケースは、まさにこれに該当します。
しかし、平常時に「資産価格に働きかける」ことは、明らかに中央銀行の役割から逸脱しています。これでは「マンション在庫が膨らんだから」というので日銀がマンションを買い入れるのと大差ありません。
百歩譲って「市場への資金供給手段の多様化」と考えるなら、年間6兆円は明らかに中途半端です。まあ「アベノミクスは失敗だ」との批判があちこちで起きているため「せめて株式市場だけでも堅調にしておきたい」との願望はわからないではないですが、明らかに本末転倒です。
このまま日銀の買い支えが続くと
日本の株式市場はダメになる!?
日銀が“異次元に”買い続けている国債は、出口戦略(市場への売却)がなくともいずれ償還になります。評論家が喧噪する「将来の含み損」の懸念についても、償還まで頑張ればいいだけです。そもそも日本経済は簡単には回復しないので、国債利回りが上昇(=単価が下落)することもありませんが……。
ところがETFには償還がないため、日銀は永久に保有し続けるか(買い増し続けるか)どこかで市場に売却するしかありません。このまま消費税が10%になる2019年10月まで年間6兆円を買い続ければ、その時点で日銀保有のETFは投資金額で28兆円くらいになって、2016年3月末時点のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の国内株保有額29兆円と変わらなくなります。
それでは日銀のETF買い入れは、肝心の株価に対する上昇効果があるのでしょうか? 当然、長い目で見れば「押し上げ効果」はあります。8月11日付『現代ビジネス』安達誠司氏の記事には「日銀がETF購入を実施した日の日経平均株価は統計的に有意に前日比マイナスになっていた」ことから「日銀のETF買い入れは株価押し下げ効果しかない」という“恐るべき記事”が出ていましたが、これは因果関係の理解があべこべで、日銀が相場下落時にしかETFを買い入れていないからです。
しかし、[相場下落→日銀の買い出動]が常態化することで、市場がだんだんと悪材料に鈍感になり、まさに現在の国債市場が陥っているように日銀の動向しか見ない、主体性のない株式市場になってしまう恐れがあります。
真っ先に考えられるのは、海外投資家の売りを日銀が「そっくり」引き受けてしまうことです。内外の自由な相場観がぶつかり合う健全な株式市場でなくなってしまう弊害は、長い目で見れば決して小さくないはずです。
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