【今回のまとめ】
1.期待された米欧中央銀行の緩和策は出なかった
2.市場はそれにもかかわらず崩れなかった
3.中央銀行が“実弾”を温存できたことは、相場にとってプラスだ
4.ドラギ総裁が金利伝達メカニズムに言及したことは、国債買い入れの決意の表れ
期待された緩和策は出ずじまい
先週は8月1日(水)に米国のFOMC(連邦公開市場委員会)が、そして2日(木)にECB(欧州中央銀行)の政策金利の発表がありました。
米国の場合、QE3(追加的量的緩和政策第3弾)、ユーロ圏の場合、欧州中央銀行もしくは欧州の救済ファンドを通じてスペインやイタリアの国債の買い入れが発表されるのではないか? という期待があったのですが、どちらも見事にスルーされてしまいました。
ただ、その割には米国の株式市場も欧州の株式市場も比較的堅調でした。
米国のS&P500指数は週初に4日連続安を記録した後、金曜日に+1.9%と上げたことで、結局、週間ベースでは+0.4%でした。つまり過去4週間に渡ってラリーが続いているわけです。

一方、ドイツのDAX指数も6月以降の上昇トレンドを維持して先週の取引を終えています。

言い換えればFRB(米国連邦準備制度理事会)やECBは最後の「切り札」を温存するという決断を下したにもかかわらず、マーケットは何とか持ち堪えたということです。それはバーナンキ議長やドラギ総裁の勝利に他なりません。
なぜならFRBやECBが切れる“カード”は残り少なくなっており、実弾は温存できればそれに越したことはないからです。
「QE3が死んだ」と考えるのは早計
米国の場合、次に重要な日程としては8月の末にワイオミング州ジャクソン・ホールで開催される経済シンポジウムでのバーナンキ議長の発言があります。
このジャクソン・ホールでのシンポジウムでは、過去に連邦準備制度理事会の重要な方針変更が打ち出されることが多かったため、注目されます。
先週金曜日の7月の非農業部門雇用者数の発表で、+16.3万人と予想を上回るいい数字が出たので「これでQE3が遠のいたのではないか?」という声も一部にはあります。

しかし過去の実績を見るとジャクソン・ホールでの会合の直前に発表された経済指標は、余り影響を与えていないことが指摘されています。
したがって今回の雇用統計で「QE3が死んだ」と結論付けるのは早計だと思います。
なお次回の連邦公開市場委員会は9月12日と13日です。
ドラギECB総裁は金利伝達メカニズムの機能不全に言及
先週、ECBのマリオ・ドラギ総裁は「ユーロを守るためには、できることは何でもやる」と発言したにもかかわらず国債買い入れプログラムの発表を見送りました。
このため「話が違う」と感じた投資家も多かったことと思います。
しかし欧州の場合、アメリカと違って新しい経済政策を打ち出そうとすれば、事前に根回しを必要とする関係部署(たとえばドイツのブンデスバンク)が多いのです。だから機動的に動けない面があります。投資家はその点を加味する必要があります。
ドラギ総裁は欧州財政危機問題の影響で、金利伝達(トランスファー)メカニズムが上手く作動しなくなっている点を指摘しました。これは重要なポイントです。
金利伝達メカニズムとは、中央銀行(この場合、ECB)が政策金利を利下げすれば、それに呼応するかたちで市中の長期金利も下がってこなければいけないという理論を指します。
ところが、下のスペインやイタリア国債の5年債金利のグラフに見られるように、投資家がそれらのマーケットに不安を抱いているときは、ちゃんと長期金利が下がってくれない現象が起きる場合があります。

それは言いかえれば中央銀行の利下げが「空回り」していることを意味します。
そのような状況では、ただ利下げするだけでは問題国の借入コストの低減はできません。
ECBが直接、市場でスペイン国債やイタリア国債を購入し、それらの価格を支える必要があるのは、そのためです。
このような問題点をドラギ総裁が明快に市場参加者に対して意思表示している以上、ECBはある程度具体的な長期金利のターゲットを想定して、金利水準の是正に遅かれ早かれ乗り出してくると考えるべきでしょう。
それは投資家のスタンスとして、ここで弱気になってはいけないことを意味します。
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