【58】1970年
来るコンビニ時代を予見
米国流の“直訳導入”に警告

 高度成長期は大量生産・大量消費の始まりでもあった。小売りの現場では、「流通革命」と呼ばれる大変化が進行した。セルフサービス方式のスーパーマーケットが急速に普及し、伝統的な商店や市場に取って代わっていった。また、ダイエーやイトーヨーカドーなど、全国展開するスーパーマーケットチェーンが登場し、地域を越えた規模での競争が激化していく。

 1970年代に入ると、コンビニエンス・ストアという米国発祥の新業態が知られるようにもなる。「ダイヤモンド」では70年7月6日号から9月14日にかけて「流通革命の新星 コンビニエンス・ストア」という全8回の連載が展開されている。執筆者は評論家の河村嘉一郎で、米国のコンビニチェーンの本社を訪ね、幹部にインタビューを重ねた貴重なレポートだ。

 各回のタイトルを抜粋すると以下の通り。「小さな巨人」「クイック・ショッピングの秘密」「個性あるマーチャンダイジング」「巧妙なフランチャイズ・システム」「フランチャイザー操縦法」「コンビニエンス・ストア導入の問題点をさぐる」「〔座談会〕コンビニエンス時代をこう考える」と、現在に通じるコンビニビジネスの要諦に関しては、ほぼ網羅しているといってよい。

 ただし、米国取材で得た知見を、そのまま“直訳”して日本に導入するのは危険も伴うと著者は述べている。

8月31日号「コンビニエンス・ストア導入の問題点をさぐる」8月31日号「コンビニエンス・ストア導入の問題点をさぐる」
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『いま、アメリカのコンビニエンス・ストアに“お手本”を見いだすとして、まず配慮しなければならないのは、その正確な直訳から取りかかるということであろう。
 本誌7月6日号でも報告したように、アメリカのコンビニエンス・ストアとひとくちにいっても、バラエティに富んでいる。それは各社独特のプログラムをもって展開されており、しかも、抽象化され、普通妥当性をもったコンビニエンス・ストア一般理論は、まだ構築されていないと見られる。
 したがって、私たちの目に見ることができるアメリカのコンビニエンス・ストア、語り伝えられるアメリカのコンビニエンス・ストアは、それぞれの内的外的条件によって具体性をもっている。
 その具体的なアメリカのコンビニエンス・ストア見聞を、わが国に語り伝える過程で、コンビニエンス・ストア一般理論であるかのような錯覚に陥る危険は、極力避けなければなるまい。
 いうまでもなく、マーケティングの技法や理論は、アメリカで生まれ育ったものである。それをアメリカに学ぼうとしたのは、むしろ当然であった。そしてものごとを外国に学ぶ第一歩は直訳である。
 もちろん達意の訳ができれば申し分ないが、それを初心者に望むことは無理である。初心者がそんなことをすれば、とんでもない間違いを犯すことになるのは、見えすいている』

 日本では、73年11月にイトーヨーカ堂が米国サウスランド社(現セブン‐イレブンInc.)とライセンス契約し、ヨークセブン(現セブン‐イレブン・ジャパン)を設立。74年5月に東京都江東区豊洲に「セブン-イレブン」1号店をオープンした。その成功は他の企業にも影響を与え、ローソンやファミリーマートなどの競合他社が参入するきっかけとなった。

 今振り返れば、セブン‐イレブンの成功は、サウスランドのノウハウをそのまま“直訳導入”したのではなく、あくまで日本の市場に合わせて発展させたことにあった。90年代、セブン‐イレブン・ジャパンは経営危機に陥ったサウスランドの再建に乗り出し、かつての“師匠”にさまざまな独自ノウハウを導入して、見事に業績を回復させ、2005年には完全子会社化したのである。