元フィデリティ投信のアナリスト、ポール・サイ氏。彼がメルマガで配信した銘柄で組んだポートフォリオは約半年で、S&P500 ETFに対し為替込みだと約24%、為替を含まない米ドルベースだと約28%もの差をつけた。以下のパフォーマンスを示すグラフでは、赤のS&P500 ETFに対し、黄色のポール氏のポートフォリオが着実に差を広げてきたのがよくわかる。
そんなポール氏の人物像と好パフォーマンスのヒミツに迫る本記事シリーズ、第2回はポール氏が総悲観の中にあったネットフリックスやメタをなぜ買いに出られたのか、その理由を探っていく。
[第1回の記事]
●米国株なら何でも儲かると聞き2022年の下落で損した投資家必見! S&P500に28%もの差をつけたポール・サイ氏のポートフォリオ、好成績のヒミツとは?
1日で35%も下落! 総悲観の中にあったネットフリックス。それを果敢に買いに出て、利益を出せた理由とは?
1年ではなく、1日で35%もの下落!
2022年4月のその日、それまでもかなりの下落基調にあったネットフリックス(ティッカー:NFLX)は投資家の絶叫が聞こえてくるかのような激しい暴落に見舞われた。その模様をブルームバーグは以上のように報じていたのである。
ネットフリックスのストリーミング会員数がマイナスとなったのは実に2011年以来、11年ぶりのこと。一般にこのようなグロース株(成長株)にとって、成長性に陰りが見えるのは大きな懸念材料だ。通常はかなりネガティブな印象を持ってしまうところだろう。だからこそ、株価は1日で35%も下落したのだ。
しかし、市場に見放されたと感じられるような、そんなネットフリックス株をポール氏はしっかりウオッチしていた。そして、ある時、静かにポートフォリオへ組み入れたのだった。
2022年8月にスタートしたメルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」にて、テクノロジー株の中では一番最初にポール氏がポートフォリオに組み入れたのがネットフリックスだった。「米国株!ドリーマー株と推奨銘柄」と題された2022年8月26日配信のメルマガである。
その中でポール氏はネットフリックスのファンダメンタルズ的な注目ポイントを以下のように挙げていた。
●アマゾン創業者、ジェフ・ベゾスが言う「弾み車(フライホイール)」をネットフリックスは備えている。いったん回り始めたら止まらない。
●ヒット作を出せており、コンテンツに問題はない。
●ウクライナ戦争勃発により、ロシアでサービスを停止したこと、コロナ禍で会員数が急増したことの反動などが会員数減少の要因であり、これは一時的なもの。
●動画配信サービスには、競合他社が続々参入しているが、過剰投資でそれらの会社も苦しくなっているため、激しい競争状態は緩和されつつある。
このようにネットフリックスはファンダメンタルズ的にはそこまで悲観視することはなく、同社の強みが失われていないことをポール氏はまず確認した。その一方で株価は大きく下落していた。ポール氏はその両者の乖離にチャンスがあると考えたのだ。
実際、2022年通年で見れば、ネットフリックス株は大きなマイナスパフォーマンスになるのだが、2022年春以降はジワジワと上昇している。いや、「ジワジワ」というのは違うかもしれない。ジワジワというのは下落があまりに大きかったからチャートがそう見えるため、いったんそう書いてみたのだが、実際には安値から直近高値まで、その上昇率を測ってみれば約133%。2倍を大きく超えて上昇しているのだ。
そしてポール氏は、苦戦する主要大型テクノロジー株を尻目に、反転上昇するネットフリックス株の波をうまく取っていたのである。
前回の記事で触れたとおり、ネットフリックスはFANGには入っていても、GAFAやGAFAMには入っていない。
[参考記事]
●米国株なら何でも儲かると聞き2022年の下落で損した投資家必見! S&P500に28%もの差をつけたポール・サイ氏のポートフォリオ、好成績のヒミツとは?
そのことは米国大型テクノロジー企業という括りの中で、ネットフリックスの存在感が薄れつつあることを示唆している。ネットフリックスのファンダメンタルズがそれほど悪くはないのだとしても、ポートフォリオに組み入れるなら、もっと王道の主要大型テクノロジー企業にしようとポール氏は思わなかったのだろうか? その点をポール氏に聞いてみると…
「ネットフリックスのことはみんな、すごく悲観視していました。ネットフリックスは終わりだと強く言っていました。一方、アップル(AAPL)は終わりだ、マイクロソフト(MSFT)は終わりだとは誰も言っていませんでした。チャンスは悲観視されているところにこそあるのです。
ネットフリックスのセンチメントはすごく弱かった。それはいろいろな記事を読むと、肌感覚でわかるのです。だから、ネットフリックスが一番悲観的だな、悪材料を一番織り込んでいるのだなと思いました。けれど、ネットフリックスのコンテンツには実は問題はない。そのことが信じられるなら、買いに出ていいと考えたのです」
ネットフリックスは元々、郵送でDVDをレンタルする会社だった。社員ほぼ全員をクビにして、環境激変を乗り切り、有料動画配信サービスの雄となった
ネットフリックスは有料動画配信サービスの代表格である。競合はたくさん出てきているものの、そのこと自体は揺らいでいない。
「ネットフリックス=動画配信」というイメージはとても強く、ネットフリックスという会社は、有料動画配信サービスから始まったように感じられるぐらいだが、実はそうではなかった。ネットフリックスは元々はDVDを郵送でレンタルする会社だったのだ。
それが今では有料動画配信サービスの雄にすっかり変わってしまった。そのことからネットフリックスという会社は組織的に強いところがあるともポール氏は指摘する。
「インターネットが高速化する中、ネットフリックスが郵送でDVDをレンタルするビジネスから、ストリーミングに移行する過程では、社員ほぼ全員をクビにするようなことも行って、一気にビジネスを転換させました。そして、近年では自社で質の高いオリジナルコンテンツを制作するまでになっているのです。
社員ほぼ全員クビなんて、ある種、残酷な会社なんですが、資本主義の権化のような会社とも言えます。給料は高いけれど、あなたのスキルが会社にとって不要になれば、明日からバイバイね、ということ。人事システムが特別で、環境変化に強い会社と言えます」
アメリカという国は、労働市場の流動性が高く、会社都合でいきなりの大量解雇もあり得ると前回の記事で書いたが、ネットフリックスの歴史にはまさにそのようなことがあったのだ。労働者にとってみれば大変なことだが、会社としてのネットフリックスには環境激変を乗り切るたくましさがあったとも言える。
[参考記事]
●米国株なら何でも儲かると聞き2022年の下落で損した投資家必見! S&P500に28%もの差をつけたポール・サイ氏のポートフォリオ、好成績のヒミツとは?
考えてみれば、日本にもDVDを宅配でレンタルするサービスはツタヤ系のTSUTAYA DISCAS、ゲオ系のぽすれんなどのサービスがあったし、実は今でもある。それらのサービスから派生した動画配信サービスもあるが、ネットフリックスのような動画配信サービスの代表格になるような発展は遂げていない。
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