今回は戦争を考えるための2つのフレームワークを紹介したいと思います。現在の中東情勢についてもコメントします。また、地政学的リスクが高まる中、それに対応した投資戦略についても考えてみたいと思います。
これから地政学的リスクは高くなり、戦争が長引く可能性がずいぶんありますので、投資家としてはそれに対して準備すべきです。
個人投資家にとって、そのポイントは分散投資です。
通貨の分散、国の分散、業界の分散を行って投資することをお勧めします。プラスアルファのリターンを狙う、すなわちもう少しリスクを取れるのであれば、それぞれの業界、国、通貨の中で、一番優良な会社を安い価格で保有するのがおすすめです。
戦争を“戦争1.0”と“戦争2.0”というフレームワークで考える。イスラエルとハマスの紛争はどっち?
まず中東情勢についてですが、戦争を考えるにあたって、“戦争1.0”と“戦争2.0”というフレームワークを紹介したいと思います。
戦争1.0は昔ながらの戦争です。これは土地、資源の奪い合いの戦争です。勝利者は占領した土地の住民を殺して占領者がそこに住んだり、植民地にして占領された住民を二等国民にし、資源を本国に送ったりします。
今のイスラエルとハマス、ユダヤ人とアラブ人の戦争は戦争1.0です。
イスラエルという国は、最初、イギリスが植民地だったパレスチナへユダヤ人を移民させていくことで、少しずつ建国へ向かっていきました。そして、第二次世界大戦以降、欧米は全面的にイスラエル建国をサポートしました。
しかし、もともとその土地にはアラブ人がいましたので、戦争1.0の紛争になりました。
現代の戦争1.0の特徴は終わりづらい、解決しづらいということです。たとえば、今、イスラエルがガザ地区へ地上侵攻したとしても、ますますガザ地区の住民から反感を買って、イスラエルがガザ地区を統治できるとは思えません。戦争1.0では本当の勝利を得づらいです。時間が相当かかります。
戦争2.0は土地ではなく、市場の奪い合い。アメリカはこういう紛争の元祖
次に戦争2.0は土地ではなく、市場の奪い合いになります。
アメリカはこういう紛争の元祖です。黒船が日本に到来した時、アメリカは日本を占領したいのではなく、日本と貿易したかったのです。アメリカの条件で貿易してくれなかったら、武力を使うという話でした。
アメリカはよく戦争して、勝利して、そして市場をとれたら、その国から出ることになります。こういう紛争のあと、勝者も敗者も、経済的に繁栄することが多いです。第二次世界大戦後の日本とドイツはその好例になります。
かなり省略して説明することになりますが、第一次世界大戦は戦争1.0に近いものだったので、ドイツでは不満が蓄積されて、それが第二次世界大戦につながりました。
第二次世界大戦後、アメリカは戦争2.0の方針を導入したので、西欧と日本が繁栄する土台ができました。
近年の中国とアメリカの紛争は戦争1.0ではなく、戦争2.0になります。
[参考記事]
●中台戦争は果たして起こるのか? 領土争いの戦争はもう古い? 過度に戦争を意識して投資する必要なし
中東で起こっているイスラエルとハマスの紛争は戦争1.0なので、長引くでしょうし、この戦争が終わっても、戦場となった中東、イスラエルなどにとって、いいことはほとんどないと考えています。
アメリカにとっての地政学的リスクを考えると、戦争が終わったら、マイナスとなっていたリスクが減るだけの話で、プラスの話は特にないと思います。
日本、台湾、ウクライナ、イスラエルなどは“アメリカ帝国”の境目にあり、地政学的リスクが高い
戦争が長引き、拡大する可能性もある中、個人投資家はどうすべきでしょうか?
リスクに対応した手法は分散投資しかないです。あと、自国バイアスを持つより、地球人として、グローバルな考え方で投資すべきだと思います。
日本、台湾、ウクライナ、イスラエルなどは“アメリカ帝国”とたとえられるアメリカの勢力圏の境目にあります。境目のところなので、地政学的リスクはアメリカ本国より高いと思います。そして、地政学的リスクが高いところばかりに投資すべきではないと思います。
結局、米国、または他の先進国へある程度、分散投資するべきだと思います。
もし、戦争関連で投資の利益を得たいのであれば、iシェアーズ米国航空宇宙・防衛ETF(ティッカー:ITA)、SPDR・S&P航空宇宙&防衛ETF(ティッカー:XAR)などの防衛産業ETFを買うことも考えられます。
日本が貧困大国、プア・ジャパンになるリスクは大きい! 日本が“衰退途上国”になる前に日本人がやるべきことは?
日本にいる投資家が海外へ投資すると、急激な円高になって、為替で損する心配があるかもしれません。しかし、私は為替がその逆方向に動く可能性が高いと思っています。
日本はAI開発、デジタル化などが遅れています。新興企業、スタートアップなども活性化しているわけでもないです。少子高齢化、人口動態など、日本経済は長期的にマイナス要因を抱えています。これは日本が悪いわけでもなく、高齢化に伴って、経済のトレンドは変わるものなのです。年寄りが重視しているのは起業より、年金、医療などです。
最近、有名な経済評論家、野口悠紀雄さんが『プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」』というタイトルで本を出しました。まさにそうなるリスクは大きいです。“衰退途上国”になる前、購買力が残っているうちに資産の分散投資を行った方がいいと考えています。
円安になれば、その分、円建て資産の持つ購買力は低下する。そのような円安リスクを避けながら、日本の輸出企業株に投資する方法とは?
どうしても日本国内に投資したいのであれば、輸出企業、グローバルで競争できる企業に投資するのがおすすめです。
最近注目し始めたETFの1つにウィズダムツリー・ジャパン・ヘッジド・エクイティ・ファンド(ティッカー:DXJ)があります。
このETFは米国市場に上場されているドルベースのもので、円ヘッジをして日本の輸出企業に投資しています。1年で44%のリターンを出しています。ちなみにS&P500指数に連動するSPYは同じ期間のリターンが24%ほどです。
DXJのドルベースのパフォーマンスは相当良かったです。日本人が手持ちの円を使ってこのETFに投資したとして、円ベースで考えれば、そのパフォーマンスはもっと良かったことになります。
日本の個人投資家が日本の輸出企業の株を買おうとすれば、証券会社に円で資金を入金し、東証でその株を買うのが一般的でしょう。ただ、その輸出企業の株価が円安とともに上昇したとしても、円建て資産の持つ購買力は円安になった分、世界の中で見れば低下していることになります。
その点、このDXJというETFで、そのような円安リスクを避けながら、日本の輸出企業に投資するのは悪くないアイデアだと思います。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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