高市新総裁誕生で市場心理は明確に円安方向へ。想定通りのインフレシナリオが展開
私が以前の当コラムで描いたインフレシナリオは、想定通りに展開しています。
[参考記事]
●日本のインフレはしばらく続く。そこで起こるのは投資しない人から投資する人への富の再分配だ! 日本人があまり投資しない5つの要因とは?
高市早苗氏の自民党総裁選勝利によって、市場心理は明確に円安方向へ傾き、米ドル/円はついに150円のレジスタンスを突破、本稿執筆時点で152円台まで上昇しています。
米ドル/円 日足 出所:TradingView
金(ゴールド)の価格も本稿執筆時点で1トロイオンスあたり4000ドルの大台を突き破って上昇しており、これはインフレ時代の幕開けを象徴する動きと言えます。
金(ゴールド) 日足 出所:TradingView
インフレ圧力の背景には、政策的・構造的な要因が重なっています。
日本では、アベノミクスを想起させるような景気刺激策の再導入が見込まれ、財政出動と金融緩和の両面からマネー供給が拡大しようとしています。
アメリカでは、関税の引き上げやFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ観測がインフレを助長する方向に働いています。
さらに、地政学的な緊張の高まり(ウクライナ、中東、台湾海峡など)が、「安全通貨」としての米ドル需要を押し上げ、世界的な資金フローに歪みを生じさせています。
日本政府が円安を容認する局面が続くと考えられる理由とは?
以前のコラム執筆時から今日にかけて、円安リスクはむしろ増しています。
[参考記事]
●日本のインフレはしばらく続く。そこで起こるのは投資しない人から投資する人への富の再分配だ! 日本人があまり投資しない5つの要因とは?
今後の日本の政策の方向性を考えると、円高よりも円安を容認する局面が続くと考えられます。
その理由はシンプルです。
日本を含め、主要国すべてが「借金体質」だからです。政府債務のGDP比は日本が約260%、米国が約120%、ヨーロッパ主要国も100%前後に達しています。
これほどの債務残高を抱える国々にとって、必ずしも「強い自国通貨」が好ましいわけではありません。むしろ、緩やかなインフレと通貨安を通じて、実質的な政府債務負担を軽減する方向が政策的に選好されるのです。
したがって、日米欧すべての政府が、明示的か暗黙的に「弱い自国通貨を容認する時代」に入っていると言えるでしょう。
[政府債務に関する参考記事]
●為替の動きから考えると日本の物価は上昇余地あり! 「お金」とは何なのか、突き詰めて考えると、円を現預金のまま持っていてもヤバいことがわかる
日本株の上昇はデフレからインフレへのモードチェンジというマクロ的要因によるもの
年初から日本株は好調で、MSCI Japan指数は約23%上昇しました。これは米国の「マグニフィセント7」に匹敵するリターンです。
iShares MSCI Japan ETF(EWJ) 日足 出所:TradingView
Roundhill Magnificent Seven ETF (MAGS) 日足 出所:TradingView
一見すると日本市場がついに復活したかのように見えますが、その中身を分析すると、上昇を牽引しているのは「景気循環株(シクリカル銘柄)」です。
金属、不動産、機械、エネルギー、商社、素材、銀行など、好パフォーマンスとなっているのはいずれもインフレ局面で恩恵を受けるセクターが中心です。これらの銘柄は、資産インフレや商品価格上昇、金利上昇に連動する傾向があります。
つまり、日本市場の上昇は「構造的イノベーション」ではなく、「マクロ的転換」、すなわちデフレからインフレへのモードチェンジによるものです。
この変化は決して悪いことではありません。長年続いたデフレ心理を払拭し、日本社会が企業の値上げを受け入れる状況へ変化している点は極めて前向きです。
しかし、それはあくまで「再評価相場」であり、「持続的成長相場」とは異なります。
米国株の上昇はイノベーション主導の構造的成長によるもの
一方、米国株式市場では、構造的な成長ドライバーが明確です。
年初来の上昇を牽引しているのは、テクノロジー、公益、通信といったAI関連セクターです。
特に生成AI、クラウド、半導体、データセンター投資などが経済全体の生産性向上を支え、企業収益の新たな源泉となっています。
これらの産業が活況を呈しているのは、単なる景気循環によるものではなく、そこには技術革新が生み出す長期的成長の物語があるのです。
アメリカではイノベーションが資本市場の中心に位置しており、AIインフラへの巨額投資が今後も続く限り、企業収益と株価の上昇には持続性があるでしょう。つまり、アメリカの株高は「期待の上昇」ではなく、「構造変化の反映」なのです。
結論:インフレ相場の日本株とイノベーション相場の米国株。長期的な持続力では米国株が優位とみる
まとめると、日本の株価上昇はマクロ的要因、すなわちデフレからインフレへの移行に支えられており、米国の株価上昇はミクロ的要因、すなわちイノベーションに支えられています。
どちらも現代の資本市場における重要なテーマですが、長期的な持続力という観点では、私は米国市場の方に分があると考えます。
[イノベーションに関する参考記事]
●なぜ日本企業は株価を気にせず、イノベーションも起きないのか? 私が日本株ではなく世界株に投資する理由とは?
●米国株に投資する意義はどこにある? なぜ、イノベーションは米国で起こりやすいのか?その根本的な2つの理由とは?
日本市場にとって本当の試練は、インフレの定着を経て「次のエンジン」、つまりイノベーションの波を自ら起こせるかどうかにかかっています。
動き出した物価上昇が企業の動機を変え、動き出した企業が新たな価値を生み出す――もしも、そういった循環が実現するのであれば、真の意味での日本株の黄金期が訪れることになるでしょう。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。2025年11月に初の著書をダイヤモンド社から発売予定。
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