71年連続増配という驚異の記録を持つ米国企業はみんなが知らない小さな水道会社
カリフォルニアにアメリカン・ステーツ・ウォーター(American States Water、ティッカー:AWR)という小さな水道会社があります(※)。
(※編集部注:アメリカン・ステーツ・ウォーターは水道事業が柱だが、電気事業なども行っている)
誰も名前を聞いたことがないような会社ですが、実はこの会社は驚異的な記録を持っています。
71年間、一度も休まず、一度も減らさず、毎年配当を増やし続けているのです。
第二次世界大戦が終わって間もない頃から、ベトナム戦争も、オイルショックも、ブラックマンデーも、リーマンショックも、コロナショックも、すべてをくぐり抜けて71年連続増配。人間で言えば、ほぼ一生分の年月です。
アメリカン・ステーツ・ウォーター(AWR)3ヵ月足 1970年代前半からの長期チャート 出所:TradingView
アメリカにはこのクラスの「鉄壁配当企業」が多数存在します。
50年以上、連続増配を続けている企業群は「配当王」と呼ばれますが、このような企業は50社以上あり、それらはコカ・コーラ(ティッカー:KO)、ジョンソン・エンド・ジョンソン(ティッカー:JNJ)、P&G(ティッカー:PG)など、名前を聞けば「ああ、あの会社か」と思うような優良企業ばかりなのです。
日本の連続増配企業のチャンピオンは36期連続増配の花王だが、米国企業にはまだ遠く及ばない
日本の連続増配企業のチャンピオンは花王(証券コード:4452)です。
花王は36期連続増配で日本一の座に君臨しています。しかし、米国企業と比較すると見劣り、アメリカでは50社以上も存在する「配当王」の基準「50年」に、日本一の花王はまだまだ届いていません。
なぜ、ここまで差がついたのでしょうか?
それは単に「米国企業の方が優秀」という話ではありません。そこには、規制産業の独占的地位、ブランド力を活かした価格転嫁の力、そして経営陣が配当性向をどうコントロールしてきたかという、極めて具体的な経営哲学の違いが隠れているのです。
花王(4452)3ヵ月足 2000年代前半からの長期チャート 出所:TradingView
70年以上も連続増配を続けてきた企業の配当利回りが低いという奇妙な現象
ここで1つ、奇妙な現象を指摘しておきたいと思います。
71年間増配を続けてきた「最強の配当王」アメリカン・ステーツ・ウォーター。これだけ聞くと、同社はさぞ高い配当利回りを誇っているのだろうと思えることでしょう。ところが同社の実際の配当利回りはたった2.35%なのです(※)。
70年連続増配のドーバー(Dover、ティッカー:DOV)に至っては、配当利回りがわずか0.92%しかありません(※)。
(※編集部注:アメリカン・ステーツ・ウォーター、ドーバーの配当利回りは2026年6月30日現在)
一方で、50年増配クラブの中には配当利回りが4%を超える銘柄も存在します。連続増配年数で言えば格下のはずの銘柄が、なぜ利回りでは格上に勝っているのでしょうか。
連続増配記録では米国企業に遠く及ばない日本企業が、今現在の配当利回りでは米国企業を上回っているのはなぜか?
しかも、もっと奇妙なことがあるのです。
日本の花王など主要な連続増配企業の平均配当利回りは、米国の50年増配クラブ全体の平均配当利回りを上回っているのです。
連続増配の記録では米国に遠く及ばない日本勢が、今、この瞬間の配当利回りでは互角以上の勝負をしていることになります。
では、アメリカの連続増配企業より、花王の方が良い投資先なのでしょうか?
トータルリターンを見ると、そのような結論にはなりません。
過去41年間のトータルリターンを現地通貨ベースで比較すると、アメリカン・ステーツ・ウォーターが1万814%(年率12.05%)、花王は927%(年率5.81%)になります。
アメリカン・ステーツ・ウォーターは花王の11倍以上のリターンを叩き出しています。この比較は、厳密には同一通貨で行うべきですが、これだけ大きな差があれば、為替調整を加えても大勢は変わりません。
[参考記事]
●高配当だけに注目しすぎるな! 重要なのはトータルリターンだ。米国株への投資判断を日本株と同じ感覚でしてはいけない理由とは?
アメリカン・ステーツ・ウォーターの配当利回りが低いのは、株価がそれだけ上がったからということなのです。配当利回りだけを見て判断することがいかに危険かを、この数字は端的に示しています。
日本の増配企業が持つ構造的リスク。それは長らく低インフレ環境にあった日本の消費者がまだ値上げに慣れていないこと
さらに、日本の増配企業にはもう1つ、構造的なリスクがあります。
日本は30年以上に渡るデフレから、ようやくインフレへの転換期を迎えています。
日本のCPI(消費者物価指数)は2023年に前年比3.2%、2024年に前年比2.7%、2025年に前年比3.2%でした。長らくデフレ、低インフレに陥ってきた日本のCPIがこの水準に達したのは、1990年代前半から実に30年以上ぶりのことになります。
日本のCPI(消費者物価指数)の長期的な推移 出所:FRED, Federal Reserve Bank of St. Louis
これは日本の若い世代にとってはまったく未知の領域です。年配者にとってもかなり久々のことです。
一方、アメリカでは2~3%程度のインフレは日常であり、P&Gやコカ・コーラはこうしたインフレ環境の中で数十年に渡り、値上げを繰り返してきました。消費者も「毎年少しずつ高くなる」ことに慣れています。
しかし、日本の消費者は違います。30年以上、価格があまり変わらない世界で育ってきた消費者にとって、値上げは裏切りに近いことです。
実際、「neage.jp」という、まさに「値上げ」を意味するドメインを持つ「値上げ備忘録」というサイトには毎日2000人が訪れ、どの商品がいくら値上がりしたかを追跡しています。
花王自身が発表しているデータを見ても、日本国内の価格転嫁のインパクトが6年間マイナスだったことが報告されています。米国企業にとってインフレは数十年かけて鍛えた筋肉ですが、日本企業にとっては今まさに初めて使う筋肉なのです。
[参考記事]
●日本のインフレはしばらく続く。そこで起こるのは投資しない人から投資する人への富の再分配だ! 日本人があまり投資しない5つの要因とは?
●日本株と米国株の上昇は要因が異なる。日本株上昇はデフレからインフレへの転換による。米国株上昇はイノベーション主導。長期的持続力ではどちらが優位?
稼いだ利益を上回る金額を配当として支払っている企業が抱えるリスクとは? 「配当利回り」という数字だけで配当株を選んではいけない
そしてもう1つ、見過ごせない事実があります。
先ほどから取り上げている50年増配クラブの中には、利益の半分以上を配当に回している企業がいくつも含まれています。中には、稼いだ利益を上回る金額を配当として支払っている企業すら存在します。
これは何を意味するのでしょうか?
増配記録がある日、突然途切れる可能性があるということです。50年、60年と積み上げてきた記録が、たった一度の業績悪化で崩れ去ることもあり得ます。
逆に言えば、配当性向が極めて低く抑えられている企業は、今後何十年にも渡って、増配を続けられる「伸びしろ」を隠し持っているとも言えます。
今週のザイ投資戦略メルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」で、私は「米国の連続増配株ランキング ベスト20」と題したメルマガを配信する予定です。このメルマガでは、ここまで述べてきたようないくつもの奇妙な現象の裏側にある構造を掘り下げています。
連続増配年数が長いほど配当利回りが低くなるメカニズム、配当性向から見える次の減配候補と2桁増配のサプライズ候補、日本の増配王が米国の50年選手たちを配当利回りで上回っている理由、そして、デフレからインフレへの転換が日本の増配企業にもたらすリスク──。
このメルマガを読んでもらえば、「配当利回り」という数字だけで配当株を選ぶことが、いかに不用意なやり方であるかが見えてくるはずです。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」を配信中。著書『台湾系アメリカ人が教える 米国株で一生安心のお金をつくる方法!』発売中。
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