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トランプ大統領は「税制改革」への熱意を失った?突然のシリア攻撃やバノン首席補佐官の更迭の噂は「トランプ相場」が完全終了する前触れなのか!

2017年4月10日公開(2022年3月29日更新)
広瀬 隆雄
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多忙な週が終わってみると
トランプ大統領への不信感が見えてきた

 先週はトランプ大統領の周辺で、いろいろなイベントがありました。息もつかせぬ多忙な週が終わり、ゆっくり振り返ってみると、「あれ、トランプ大統領は、ひょっとして税制改革への熱意を失ってしまったのかな?」と思わせるものがあります。

 そもそも去年の11月にトランプが当選して以来、市場参加者が米国経済の見通しに強気になり、株を積極的に買ってきた理由は、30年に一度あるかないかというような税制改革というビッグ・イベントに期待を寄せていたからです。

 その税制改革が出来ないのなら、経営者や投資家のマインドも挫けますし、GDPが急成長するシナリオも狂ってきます。

2人の「トランプ政権のナンバー2」が
両方とも更迭される?

 先週話題になったことのひとつに、トランプ政権の改造があります。もっとハッキリした言い方をすれば、現在居る、2人の「トランプ政権のナンバー2」を両方ともクビにするのではないか? という噂が駆け巡っているのです。

 その二人とは、スティーブン・バノン首席戦略官とラインス・プリーバス首席補佐官です。

 このうちバノン首席戦略官は「トランプ政権がどのような特色を出してゆくか?」を構想する、ストラテジストの役割を演じています。プリーバス首席補佐官はホワイトハウス内の人事を掌握し、大統領の予定を調整する仕事をしています。

 まだ決まったわけではないけれど、この二人を同時にクビにするということは「トランプ政権が、どうもうまく行っていない」ということを認めてしまうことを意味するし、それでも更迭しなければいけないほど手詰まりになっているということだと思います。

 政権内での「足の引っ張り合い」が目に余るようになってきた……ということもありますが、それにもまして、議会と力を合わせて仕事をする能力が、いまのトランプ政権には決定的に欠如しているということが問題となっています

「経済ナショナリズム」を唱えるバノン氏は
すでに「政権のお荷物」に

 特にバノン首席戦略官は「トランプ政権のお荷物」化しています。彼は「経済ナショナリズム」という概念を考えだし、トランプが大統領選挙を戦う際の基本理念をハッキリ打ち出すことに貢献した人です。

 「経済ナショナリズム」とは、「政府たるもの、労働者の利益を最優先に考え、それに応じて関税、移民政策、財政政策などを決めてゆくべきだ」という価値観を指します。

 この考えで行くと、企業が工場の海外移転をするのはアメリカの労働者の利益にならないし、移民がどんどんアメリカに入って来るとアメリカ人の職が脅かされるという発想になります。だからおのずと経済的孤立主義に傾くわけです。しかし、そのような経済的孤立主義は、長い目で見ればアメリカのためになりません。

 また、バノン首席戦略官のごう慢な態度はあちこちで反感を買っています。

 その最大の衝突は、下院共和党ヘルスケア・プランの審議をしているときに起こりました。バノン首席戦略官が共和党財政保守派議員たちに高飛車に法案への賛成を強要し、議員たちから総スカンを喰ったのです。言い換えれば、オバマケアを葬り去り、共和党のヘルスケア・プランに置き換えるという構想を台無しにした張本人がバノン首席戦略官なのです。

 トランプ大統領は、いまでもこの事件を恨んでおり、バノン首席戦略官を国家安全保障会議(NSC)のメンバーから外しました。近日中にバノン首席戦略官が職を解かれる可能性も高いです

議会とのパイプ役をちゃんと果たせていない
プリーバス首席補佐官への信頼も失墜

 一方、そもそもトランプ大統領がプリーバス首席補佐官を抜擢した理由は、「議会と太いパイプがある」という点を評価したからです。

 しかし、下院共和党ヘルスケア・プランの審議が始まってみると、プリーバス首席補佐官は架け橋の役目を十分に果たせませんでした。また、下院共和党ヘルスケア・プラン可決の可能性に関して、あまりにも見通しが楽観的だったことは否めません。

 いまのところトランプ大統領は、プリーバス首席補佐官に関しては「もう一度だけ、チャンスを与えよう」と考えているようです。

 なぜなら、プリーバス首席補佐官はポール・ライアン下院議長と仲良しであり、今後、予算を策定し、税制改革法案を審議する上で、トランプ大統領がライアン下院議長と良い関係を維持することは、どうしても必要だからです。

 ただ、プリーバス首席補佐官の進退問題が先週、話題になったということ自体、トランプ大統領が税制改革法案への意欲を、かなり失い始めている事を物語っていると言えます

シリア攻撃により
初めて議会の賞賛を浴びたトランプ大統領

 先週は、もうひとつ重要なイベントがありました。それは、アメリカがシリアのシャイラト空軍基地にトマホーク巡航ミサイルを撃ち込んだ事件です。

 この攻撃は、シリアのアサド政権が自国民に対し、化学兵器(サリン)を使用したために行われました。化学兵器の使用は国際協定で禁じられています。

 折からフロリダ州パーム・ビーチで米中首脳会談が予定されており、トランプ大統領はフロリダに移動する大統領専用機、エアフォース・ワンの中で攻撃を決断したと言われます。そしてディナーの終わり際に習近平国家主席に「シリアを攻撃した」と耳打ちしました。

 この攻撃は、米国議会からは圧倒的に支持されました。トランプが大統領になって以来、政党を超えて大統領の行動が広く支持されたのは今回が初めてです

 また、事前に議会の承認を得ることなく、大統領の独断で攻撃に踏み切った(=法律的にはグレーです)ことで、かえって大統領としてのリーダーシップを印象付ける効果もあったと思います。

 大統領の決断力が、初めて称賛されたわけです。言うまでも無く、トランプ大統領は気分を良くしています。

政権の中でグローバリストが台頭すれば
「経済ナショナリズム」はトーンダウン?

 バノン首席戦略官は、経済ナショナリズムの立場から、国益に直接関係ない中東問題への関与に反対してきましたが、今回、トランプ大統領は、そのアドバイスをあっさりスルーした格好になります。

 このことは「アメリカは世界の経済に完全に組み込まれており、世界の問題に関与しないわけにはゆかない」とする、トランプ政権内の、いわゆるグローバリストたちの主張が勝ったことを意味します。

 そのグローバリストのグループには、ゲイリー・コーン経済担当大統領補佐官、ディナ・パウエル国家安全保障副補佐官などが含まれています。

 ここで重要なのは、ゲイリー・コーン経済担当大統領補佐官は、既存の世界の貿易や経済の秩序を重視しており、米国が極端で一方的な経済政策に傾くことを制止する立場を取っているということです。

 もしコーン経済担当大統領補佐官のトランプ政権内での発言力が増すということなのであれば、アメリカの貿易・経済政策は、これまでの伝統を踏襲する、当たり障りのないものへとトーン・ダウンすることが予想されます

 つまり、トランプ大統領は「オレは軍事・外交など、大統領の独断で迅速に動ける案件の方が自分の行動力をアピールできる」ということを発見しつつあるわけです。

 その反面、税制改革を巡る、根気の要る議会との折衝には興味を失いつつあるわけです。それと同時に「経済の運営に関しては、コーン経済担当大統領補佐官に任せてしまった方が良いのではないか?」と考えているに違いありません。

これまで期待されてきた銀行株、インフラ投資関連株の
リスクが高まる可能性も

 以上のことをまとめると、税制改革への大統領の意欲は、先週1週間の動きで大きく後退したと言えます。このことは米国経済が、オバマ政権で経験したノロノロしたペースで拡大した構図に逆戻りする可能性が強まったことを意味します。

 GDP成長率の予想が下がるということは、インフレ圧力もそれほど強くないことが予想されますし、それは長期金利もそれほど上がらないことを意味します。

 折からFRBは政策金利の引上げを始めてしまっているので、このまま長期金利が上昇しないまま政策金利を引き上げると、利回り曲線(イールドカーブ)は平坦化することが考えられます。それは景気の「つんのめり」のリスクが高まることを示唆します。

 そこでは去年の11月以来、囃されてきた「トランプ・トレード」、具体的には銀行株、インフラ投資関連株などが値を消すリスクが高まると思われます

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