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アリババ、バイドゥは「CDR(中国預託証券)」の解禁が大きな買い材料に! 中国でも米国株が売買できるCDRの仕組みから株価への影響まで徹底解説!

2018年4月9日公開(2022年3月29日更新)
広瀬 隆雄
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中国預託証券解禁により、アリババやバイドゥの株を
中国本土の投資家でも購入可能に

 先日、中国政府が中国預託証券(CDR: Chinese Depository Receipt)の試験プログラムの草案を発表しました。

 CDRが解禁されれば現在アメリカに上場されているアリババ(ティッカーシンボル:BABA)バイドゥ(ティッカーシンボル:BIDU)、さらに香港に上場されているテンセントが上海にも上場される道がひらかれます。

 これまで、中国本土の個人投資家がアメリカに上場されている中国株に投資するのは、資本規制の関係でとても困難でした。その結果、アリババなどの中国を代表する優良企業の株に肝心の中国の投資家が投資しにくい、という極めて不公平な状態が生じていたのです。

 今回のCDR解禁により、これらの銘柄が「上海に来る!」ことで新たな需要が喚起されることになると思います

CDR(中国預託証券)とは
信託銀行が振り出す「預かり札」のようなもの

 CDRの仕組みを説明します。まず外国籍の企業、あるいは既に外国市場で取引されている会社の株を中国へ持ってきた場合のシナリオを想像してください。

 どうせ上海取引所でトレードするなら、人民元建ての方が便利ですよね? さらに日頃から中国の個人投資家が使っている証券会社の既存口座でアリバババイドゥの株が「スッ」と買えるようになるので、わざわざアメリカの証券会社に口座を開設するなどの手間も省けます。

 このように、CDRという仕組みは中国の個人投資家の使いやすさということを念頭に置いた「すぐれもの」商品だという点をしっかりおさえてほしいのです。

 そのような利便性を個人投資家に届けるために、裏ではちょっと込み入った作業が必要になります。その作業は、普段からそういう業務に習熟している信託銀行の事務担当者や、証券会社のトレーダーの腕の見せ所になります。

 CDRとは、信託銀行に持ち込まれたホンモノの株券をガッチリと預かる代わりに信託銀行が振り出す「預かり札」のようなものだと思ってください。高級ホテルの宴会場で外套(がいとう)を預けたときに引換券をもらうのと同じ感覚です。

 つまり、アメリカでトレードされているアリババの株を市場で攫って信託銀行へ持ち込むと、信託銀行は、持ち込まれた株券とキッチリ同数になるようにCDRを上海で出すわけです。

CDRが振り出されると本券は保管されるので
株の希釈化は起こらない

 こうした仕組みにより、これまでニューヨーク証券取引所だけで取引されていたアリババ株が上海市場でも取引できることになります。

 ただ、上海で取引されているCDRはあくまでも「預かり札」であり、実際には本券はニューヨークの信託銀行の倉庫に保管されているのです。すると、実質的にアリババの発行済み株式数は増えた事にはならないので、株主権利の希釈化は起きません。

 CDRが解禁されたことでなにが変わるかというと、これまで取引に参加できなかった新しい地域(=中国)のバイヤーが、アリババの相場に参戦できる……つまり投資家の層が広がるのです

原株とCDRの価格差を利用した
「アービトラージ(サヤ取り)」とは

 さて、そうやってCDRが上場されると、興奮した上海の個人投資家が、ニューヨークでついた現株の値段よりかなり高い水準まで勢い余って買い進んでしまうということもおこるでしょう。つまり上海での値段と、ニューヨークでの値段に乖離が生じるわけです。

 そのような場面で登場するのが、投資銀行の自己売買部門です。彼らは上海にもニューヨークにもトレーディングルームを持っており、上海で取引されているCDRが「割高だ!」と判断すれば、それを「空売り」します。それと同時にニューヨークで割安に取引されている現株を買い、その現株を信託銀行に持ち込み「これをCDRに転換してください!」と転換請求をかけるわけです。これが「アービトラージ(サヤ取り)」と呼ばれる行為です。

 信託銀行の担当者は現株が持ち込まれると「ホイ来た!」とその請求に応じ、代わりに「預かり札」を振り出してくれるわけです。

 上海で「空売り」したCDRの受渡しは、そうやって新しく振り出されたCDRを届けることで完了するわけです。この一連の動作を「クリエーション」と言います。

 逆の場合もあります。いま上海で取引されているCDRがニューヨークの現株より大きなディスカウントになった場合、投資銀行はそのCDRを買うと同時にニューヨークのトレーディング・デスクに「現株を売っておいてくれ!」と指示します。

 次に、上海で買い集めたCDRを信託銀行に持ち込み「このCDRを現株に変えてくれ!」とリクエストします。これは先ほどの高級ホテルの宴会場でのコート・チェックの例に戻ると預かり札を受付のお姉さんに渡し、自分のコートを受け取る作業と同じです。手許に現株が戻ってくる一方で、もう預かり札引換券は用済みなので、受付のお姉さんがゴミ箱にポイすればいいわけです。このようにしてCDRを破棄することを「キャンセレーション」と言います。

中国でのCDR人気により
NY市場の原株の価格も上がる

 CDRはこのように上海とニューヨークの需要の多寡に応じて「クリエーション」と「キャンセレーション」を繰り返します。

 現株とCDRの価格の乖離が「売買手数料+取引所フィー+取引税+信託手続きフィー(20ベーシスポイント)」の合計より大きくなった場合のみ、アービトラージが行われるわけです。なにを隠そう私自身も1990年の頃、ニューヨークのトレーディング・デスクで電卓片手にアービトラージに奮闘していた頃があります。

 たぶん中国の投資家は、これまでアリバババイドゥに投資できなかったのでCDR解禁を切望していると思います。もし、この新しい買い需要がCDRに殺到すれば、上に述べたような仕組みでCDRの「クリエーション」をどんどん増やす必要が出ます。

 その場合、ニューヨークの信託銀行に持ち込まれて退蔵される現株も増えるわけです。結果としてニューヨーク市場に自由に出回っているアリババ株やバイドゥ株が減り、需給関係が引き締まり、結果として価格も“じり高”を辿るという可能性があるわけです

最近のアリババ株の下落は一過性のもの。
中長期的にはCDR解禁が大きな買い材料に

 最後に最近のアリババについて述べます。

 まず業績をおさらいしておくと2月1日に発表された第3四半期(12月期)決算では、EPSが予想1.66ドルに対し1.63ドル、売上高が予想123.6億ドルに対し127.6億ドル、売上高成長率は前年同期比+56%でした。

 2018年の売上高成長ガイダンスは、これまでの+49~53%が+55〜56%へ引き上げられました。

 部門別では、コア・コマース部門売上高は+57%の112.6億ドル、クラウド部門売上高は+104%の5.53億ドル、デジタルメディア部門売上高は+33%の8.32億ドル、イノベーション・イニシャチブ部門売上高は-9%の1.19億ドルでした。

 このところアリババが売られている一因は、米中貿易戦争です。貿易問題は直接アリババには関係ないのですが両国の関係が悪化すると、何となく「中国株を持っているのはリスキーかな?」と考えてしまうアメリカの投資家が多いのです。

 下げのもう一つの理由は、先日、テンセントの大株主が持ち株の一部を処分し、テンセントが珍しい急落を演じたのですが、それにアリババも「連れ安」したのです。

 これらはいずれも一過性の悪材料だと思います。それに比べればCDR解禁は大きな材料なので、今は積極的に買い向かうべきだと思います

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