米メキシコ貿易協定の成立は固いが、
その内容は「これまでとあまり変わっていない」
8月27日にトランプ大統領が、米メキシコ貿易協定に署名すると発表しました。これは下院の承認を必要としますが、たぶん成立間違いなしだと思います。
協定の内容は、ひとことで言えば「これまでとあまり変わっていない」ということに尽きます。
たとえば、自動車に関しては「非課税扱いになるためには部品の75%が北米で生産されなければいけない」と規定されています。従来の北米自由貿易協定(NAFTA)では、62.5%でした。
また、自動車生産にあたり「コンテンツの40〜45%が、時給16ドル以上の高賃金労働者によって生産されなくてはならない」ことが規定されました。これにより自動車会社は、米国内で既に稼働している工場を維持することを強いられることを意味します。
しかし、新協定は現状維持の色彩が強く、両国間の貿易が全然無くなってしまうような内容ではありません。
アメリカとメキシコをつなぐ貨物鉄道会社
「カンザスシティサザン」とは?
さて、今回の米メキシコ貿易協定が穏当な内容だったことで、クロスボーダー取引への依存度が高い貨物鉄道会社、カンザスシティサザン(ティッカーシンボル:KSU)は大きな暗雲が晴れたことになります。同社は1887年に創業され、ミズーリ州カンザスシティに本社を置いています。
カンザスシティサザンは、メキシコ国内で鉄道を運営する唯一の利権(コンセッション)をメキシコ政府から与えられている米国企業です。このコンセッションは、2041年に契約更新を迎えます。
カンザスシティサザンの鉄道ルートは、メキシコとアメリカの国境の町、ラレードを中心として、南のメキシコは延長5310キロ、北のアメリカは延長5472キロの鉄道網を持っています。つまり、バランスよくメキシコとアメリカにまたがっているというわけです。
ラレードは、メキシコとアメリカのクロスボーダー取引の実に44%を扱うNo.1のゲートウェイです。
またメキシコでは、太平洋側の港町ラザロカルデナス、メキシコ湾側の港町アルタミラ、ならびにベラクルーズへのアクセスを持っており、アジア、欧州との貿易を可能にしています。
一方、アメリカ側のルートは米国のほぼ中央を縦貫しており、BNSF、ユニオンパシフィック、ノーフォークサザン、カナディアンナショナルレイルウェイ、CSX、カナディアンパシフィックと連結しています。
「カンザスシティサザン」は
米メキシコ間の貨物を双方向で扱う
カンザスシティサザンは、メキシコからアメリカへ向かう貨物とアメリカからメキシコへ向かう貨物の両方を扱っており、その割合は40:60です。
メキシコからアメリカに向かう積荷は、複合輸送が5割、自動車が4割などです。
アメリカからメキシコに向かう積荷は、複合輸送が4割、化学製品が2割、穀物が2割などとなっています。
メキシコには数多くの自動車メーカーの工場があり
その8割は国外へ輸出される
メキシコには日産自動車、ゼネラルモーターズ、フォルクスワーゲン、クライスラー、フォード、マツダ、トヨタ、KIA、アウディ、メルセデスベンツが工場を持っているほか、BMW、トヨタが工場を新設する予定です。
メキシコで生産されたクルマの約8割は輸出向けであり、そのうちの84%が北米に、16%がその他の国々に輸出されています。
カンザスシティサザンは、その全ての出荷に対応できる輸送網を持っています。今回の米メキシコ貿易協定では、各自動車メーカーの生産計画に与える影響は限定的だと思います。
「カンザスシティサザン」の運行状況は
毎年着実に成長!
カンザスシティサザン全体の輸送量は、過去10年間に年率2%で成長してきました。
同じ期間、売上高は、年率4%で成長してきました。
操業効率を示すオペレーティング・レシオを、着実に改善しています。
さらに、カンザスシティサザンの1株当たり利益(EPS)は、年率13%で成長してきました。
「カンザスシティサザン」の株価は
鉄道会社の中でもっとも割安な水準
カンザスシティサザンは、2019年の1株当たり利益(EPS)に基づくと、16.5倍と鉄道会社の中で最も割安に取引されています。
【今週のまとめ】
トランプ政権の方針により不安視されていた
「カンザスシティサザン」の再評価に期待!
カンザスシティサザンは、メキシコとのクロスボーダー取引に大きく依存しています。トランプ政権が「北米自由貿易協定をやめる!」と宣言していたので経営の見通しが極めて曇っていました。
しかし、今回発表された米メキシコ貿易協定の内容は現状維持の色彩が強く、ウォール街はホッと胸をなでおろしました。カンザスシティサザン株は、鉄道株の中で最も割安に取引されています。
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