株を買って上がるのを待つだけでは、なかなか利益をあげるのが難しい時代。それに呼応するように、新たな金融商品が人気を集めている。
その1つが、値動きが小さい相場環境でもリターン率が高く、上がっても下がっても利益を出すことが可能な「ブル・ベア型」と呼ばれる商品だ。
相場の世界では、ブル(牛)は強気の象徴、ベア(熊)は弱気の象徴とされる。ブル型の商品は、相場が上昇する時に大きく利益が出る。一方、ベア型の商品は、相場が下落すれば利益になる。ブル・ベア型商品は、今、なぜ人気が出ているのか。実際に、どのような取引がされているのかを探った。
日経平均の過去3年間の状況を表したチャート【図表1】を見てほしい。引かれたトレンドラインが、緩やかに右肩下がりになっている。
詳しく見ると、4カ月前後で上昇と下落を繰り返している。値幅を見ると、右肩下がりなので、上昇幅よりも下落幅の方が大きい。
円高やユーロ危機、中国経済の減速など、日本経済にとっては問題山積の状況が続く。こんな時代に、株価の上昇を待つだけの投資戦略では、なかなか収益機会は巡ってこない。ブル・ベア型商品の人気の秘密は、この長期チャートの形に端的に表れている。
高いリターンが狙える「ブル・ベア」ファンドとは?
大手ネット証券のWEBサイトを見ると、最近人気が高い投資信託のランキングをチェックすることができる。たとえば最近では、米国のリート(不動産投信)に連動するファンドの人気が目立つ。また「ブル・ベア」ファンドも人気ランキングに登場している。
たとえばマネックス証券の投信月間販売ランキングでは、ブル型ファンドが2012年4月から8月まで常にベスト5にランクインしている。楽天証券の8月月間買付ランキングでは、「新光Wブル・日本株オープンII」が4位、「楽天日本株トリプル・ベア」が5位。さらに、カブドットコム証券で過去1年のリターンで検索すると、「新光Wブル・日本株オープンII」が1位となっている(8月31日時点)。
【図表2】に、現在販売されているブル・ベア型ファンドを掲載した。「トリプルブル」の場合、株式市場の市場平均に対し、3倍の値動きをする。逆に「トリプルベア」は市場平均に対して3倍かつ反対の値動きをする。
ファンドとETFはどちらが有利?
ブル・ベア型商品はファンドだけでなく、2012年の4月にはETFも登場した。東証と大証でブル型、ベア型それぞれ1銘柄ずつ、合計4銘柄が上場している。商品の特徴を【図表3】にまとめた。また、各商品の値動きを示したチャートが【図表4】だ。どの商品も最近は、ETFの売買代金ランキングでベスト5に入っており、人気化している【図表5】。
ETFなら株式市場で通常の株式と同様に取引できる。そしてファンドと比べた場合、手数料(コスト)が圧倒的に安い。
たとえば、「楽天日本株トリプル・ブル」の申込手数料は2.1%で、100万円分買えば手数料は2万1000円となる。一方、楽天証券でブル型のETF「日経レバレッジETF」を約100万円(100万円以下)分買った場合、手数料は639円。かかるコストは段違いだ。
次に、日経平均とブル・ベアファンド、ブル・ベアETFの値幅と騰落率の例を示したのが【図表6】だ。ファンドの場合、指標に対する値動きは、トリプルブルで+3倍、トリプルベアは-3倍。一方、ETFの場合は、ブル型は+2倍、ベア型は-1倍となっている。
ブル・ベア型商品をETFとファンドで比べた場合、ファンドの方がさまざまなレバレッジの商品がそろっている。より大きな利益を狙いたいなら、指標の3倍の値動きをするファンドがETFよりも大きな利益を狙える(予想と逆に動いた場合は損失も大きくなる)。
ただし、ブル・ベアETFはどれも「貸借銘柄」なので、信用取引を利用すれば、ブル・ベアETFでも自己資金よりも大きな金額を扱うレバレッジ取引が可能だ。
ブル・ベアファンドは短期売買向き?
人気が上昇しているブル・ベア型商品だが、投資家たちは、これらをどのように利用しているのだろうか。
マネックスグループ社長室の町田夕子さんによれば、マネックス証券では「日経平均の推移と比較すると、株価水準が大きく下がったタイミングや、そこから上昇する局面でブル型の売買が増加する傾向があります。8月は弱気を反映しベア型の売買が増加しました」とのこと。
具体的なブル・ベア型商品の使い方を考えてみよう。ここ3年間、日経平均の動きは、上昇の場合は小幅で期間も短かった。そんな時は、小さい上昇幅でも、2倍、3倍の値動きをする「ブル型」を買う。
一方、値幅が大きく、期間が長い下落の時期は、「ベア型」のファンドに乗り換える。こうすれば上昇・下落、両局面で利益が狙える。
「ブル・ベアファンド購入者の3分の1が40代のお客様で、日経平均の波動に合わせて機動的な売買を行っているようです」(町田さん)。ブル・ベアファンドの利用者のなかには、短期や中期で、積極的な売買を行っている人もいるようだ。
今後も、日経平均のトレンドが崩れない限り、安くなったら「ブル型」を買い、高くなったら「ベア型」を買う、という作戦は有効かもしれない。
ブル・ベア型はもみあいには弱い!?
ブル・ベア商品では、指標に対して「Wブル」なら2倍、「トリプルブル」なら3倍の値動きをするが、その際、基準となるのが前日の価格だ。そこで、実際に3日以上の日数でまとめて計算すると、単純に2倍、3倍にはならないケースが多い。
試しに、もみあい時のシミュレーションをしたのが【図表7】だ。ここでは、市場の3倍の値動きをする「トリプルブル」と「トリプルベア」で試算してみた。
指標はもみあいの結果、10日後に元の価格と同値に戻ったのに、ブル型は-0.5%、ベア型は-1.0%の含み損となった。こういうケースがあることから、ブル・ベア型商品は「もみあいに弱く、短期間の投資に向く」と言われている。
ただし、-1.0%程度の差ならば、それほど気にする必要はないかもしれない。もみあいによる損失を心配するよりも、注意するべきは、ボラティリティ(値動き)の高さだろう。
たとえば、上場して5カ月もたっていない「日経レバレッジETF」だが、最高値から最安値までは28%も下落している。うまく安いところで買えれば大きな利益が見込める反面、大きな損失につながる危険性もある。思惑と逆方向に動いた場合には損切りを早めにするリスク管理が重要だろう。
為替連動のブル・ベアファンドも人気
株だけでなく、為替の動きを対象としたブル・ベア型ファンドもある。
SBI証券の投資信託コーナーには「SBIカテゴリ」という独自の分類があり、その中に「ブル・ベア」の項目がある。ここの人気ランキングを見ると、為替に連動したファンド「野村ブル・ベア セレクト5」がランクインしている。
この商品は、為替に対して2倍の値動きをするよう設定されていて、対象とする為替の種類はさまざま選べる。円安ドル高になれば利益につながるファンド、逆に円高ドル安が利益につながるファンド、他にも、円高ユーロ安、円高豪ドル安が利益につながるファンドなども人気が高い【図表8】。
米ドル/円は、2007年の夏頃から現在まで円高の流れが継続してきたが、2011年10月に75円35銭の円高をつけて以来、円安に向かう流れもあり、今後の値動きの見方が分かれるところだ。円高ドル安、ドル高円安、両ファンドの人気が高いことから、やはり比較的短期・中期的な売買が行われていると考えられる。
相場の上昇だけに期待して利益を追求するのは難しい時代、レバレッジをかけたり、長い下落の期間でも利益を狙える商品で機動的な投資を考えるべきだろう。「ブル・ベア型」のような商品を上手に活用して投資成績のアップにつなげてほしい。
(取材・文/久保田正伸)
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