世界投資へのパスポート

中国のシャドー・バンキング信託ファンドの補てん問題に注目

【第300回】 2014年1月27日公開(2025年6月4日更新)
広瀬 隆雄
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【今回のまとめ】
1.中国経済の減速に対する懸念から、世界のマーケットが荒れている
2.中国政府のバブル抑制政策が、景気を殺している
3.月末に償還を迎える信託商品の補てんを巡って不安が出ている
4.補てんがあっても、無くても、それは波紋を呼ぶ

荒れる世界の株式市場

 先週のダウ工業株価平均指数は-3.5%、S&P500指数は-2.6%、ナスダック総合指数は-1.7%下落しました。株価の下落はアメリカだけではなく、日本を含むアジア市場、欧州市場でも見られました。

 グローバルな株安の引き金になったのは、先週発表された中国の購買担当者指数(速報値)が予想以上に悪化したというニュースです。

 それによると1月の製造業購買担当者指数は、景気が拡大しているか、縮小しているかの分かれ目である50の水準を割り込み、市場予想50.3を大きく下回る49.6にとどまりました。

 さらに調査結果の細目を検討してみると、新規輸出受注が減速している、雇用が減速している、出荷価格が下落しているなど、中国経済の弱さを示唆する兆候が随所に見られました。

 新興国の多くは貿易を通じて中国経済と密接な関係にあります。先週、新興国通貨が軒並み急落したのは、そのためです。

金利政策によるバブル抑え込みが失速の原因

 こうした中国経済の失速の原因は、中国人民銀行が、きつめの金利政策を堅持していることによります。

 どんよりとした景気停滞感が漂っているにもかかわらず、中国人民銀行が手加減する様子を見せない背景には、政策当局の手を離れて、勝手にひとり歩きしているシャドー・バンキングを、何とか抑え込む必要があると彼らが考えており、その結果として、わざときつめの金利政策を維持するという選択が取られているからです。

シャドー・バンキングとは?

 それでは一体、シャドー・バンキングとは何なのでしょうか?

 シャドー・バンキングを直訳すると「影の銀行」ということになります。これは銀行の帳簿に載らない、迂回(うかい)的な融資を指します。

 中国政府は不動産バブルを回避するために銀行に対して「ある一定量を超えて、融資してはいけない」という指導をしています。つまり総量規制です。また地方政府と大手銀行が癒着関係になることを防ぐために、お互いが直接、融資取引の相手方になることを禁止するルールがあります。

 これらの行動規範はいずれも「未然にバブルを防ごう」というキモチから打ち出された政策であり、それ自体は間違っていません。

 ところが「ルールがそういうことなら、何とかそれをすり抜ける手は無いか?」とずるいコトを考える業者や金融関係者が沢山居て、彼らはペーパー・カンパニーをどんどん設立し、「信託商品」と銘打って、間接的に信用供与を続けたのです。

 下は米国の金融安定監督評議会(FSOC)の資料ですが、この中で赤の信託商品というのがシャドー・バンキングだと考えてよいです。

 つまり中国政府は総量規制により信用追加の総量を抑えようとしている(青の部分)にもかかわらず、非正規の部分が増えているので、全体としてはブレーキがかかっていないのです。

 銀行のローンであれば、当然、監督当局の検査の対象になるし、焦げ付きなどの事態に備えて、しかるべき引当を取るとか、そういう指導も出来ます。

 しかし信用追加が闇の世界へと逃げてしまうと、情報開示もありませんし、不健全な実態は国民や投資家には伝えられなくなってしまうのです。

 現在、そのような信託商品の残高は491兆円あると言われています。これはザックリ言って中国のGDPの60%に相当します。

ゾンビ会社のファンドを補てんするのか?

 そこで今、問題となっているのが1月31日に償還を迎える、山西省の石炭会社の出した信託商品です。

 この会社は既に1年以上前に倒産しているので、このままだとこの信託商品を購入した投資家は元本の返金を期待できません。そこで発行をアレンジした中国工商銀行に「お前が尻拭いしろ!」と要求しているわけです。

 中国工商銀行は、難しい立場に立たされています。なぜなら投資家からの要求に応え、補てんすれば、すくなくともタテマエ上は「無関係」になっているはずの、信託商品への同行の関与を公に認めてしまうことになるからです。

 もし銀行が関与を認め、その責任を取るべきだという議論になれば、同様のコトをしている銀行は多いので、現在の引当金の水準は全て不適切ということになりかねません。

 かといってデフォルトを容認すれば、それが今後の同様の信託商品の組成・販売を困難にし、連鎖的な倒産を引き起こしかねないからです。

 つまり中国工商銀行が補てんするという決断をしても、逆に補てんしないという決断をしても、どちらも波紋を呼ぶことは必至なのです。

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