年初から下げ続けた日本株は、1月21日の欧州中央銀行理事会でドラギ総裁が追加緩和の可能性を示唆したことで落ち着きを取り戻し、ひとまずは下げ止まりを見せました。この株価回復は一時的に終わるのか、それとも急回復を見せるのか!? 経済に潜む闇を白日の下にさらけ出し、独特な視点で切り込む刺激的な金融メルマガ「闇株新聞プレミアム」の見解は!?
世界でも足下の経済の悪化ぶりを
如実に示していた日経平均の下げ方
まず、世界の株価が昨年末終値からドラギ総裁の追加緩和発言前日の終値(時差の関係で20~21日の2日間に渡ります)まで、どれくらい下落していたかを見てみましょう。
・日経平均[日本]19033円→16017円(-15.8%)
・ダウ平均[米国]17425ドル→15766ドル(-9.5%)
・DAX[ドイツ]10743ポイント→9391ポイント(-12.6%)
・上海総合[中国]3539ポイント→2880ポイント(-18.6%)
・ボベスパ[ブラジル]43349ポイント→37645ポイント(-13.1%)
市場によって下落率に多少のバラツキがありますが、見事に世界同時並行で下落していたことがわかります。
もう少し詳しく見ると、日経平均の1月21日の安値・16017円は、同じように中国経済の不安と上海株式の急落に見舞われていた昨年9月29日の安値・16930円をさらに5.4%も下回っています。
ダウ平均、DAX、そして“震源地”である上海総合でさえも昨年8~9月の安値近辺で踏みとどまっていたにもかかわらず、日経平均は(ブラジルのボベスパ指数ほどではないにせよ)昨年9月の安値を下回っていたわけです。
これだけで何かを結論づけるつもりはありませんが「株価は経済状況を映す鏡」とするならば、昨年8~9月以降の日本経済はかなり悪いと見ざるを得ません。
欧州は量的緩和に踏み切る理由と
その方法が明確にされている
こうした中でドラギ総裁が突然に「下振れリスクは高まった。3月の理事会で金融政策を再評価する」と発言しました。ここで言う「下振れリスク」とは、欧州の景気や物価の先行きが厳しく、特に輸出が失速して成長が鈍化し、物価が低迷するという“悪い循環”を意味します。
欧州はずっと以前から「2%の物価上昇」(消費者物価指数の前年比上昇率)を金融政策の中心目標に掲げており、物価の低迷と景気低迷にはかなり強い相関関係があることが歴史的に検証されています。
昨年12月のユーロ圏の消費者物価上昇率は前年比で0.2%上昇していたものの、最近の原油価格急落や世界経済の低迷で上昇率がマイナス(つまり下落)に転じることが確定的なため、手遅れにならないように対策を講じたのでしょう。
ユーロ圏の消費者物価の前年比上昇率は2014年12月~2015年3月にもマイナスだったのですが、その対策として2014年12月の理事会で積極的な金融緩和を表明し、2015年1月の理事会で「初めての」量的緩和に踏み切るとして、同年3月から実施していました。
その内容とは、ユーロ圏構成国の国債を(投資適格でないギリシャは除く)ECB出資比率に準じて買い入れることを中心に、証券化した銀行貸出債権(ABS)などを加えて月間600億ユーロ(7.7兆円)を充てるというものでした。
黒田総裁も「2%の物価上昇」を
目標に掲げるが…根拠も方法も曖昧
ところで、「2%の物価上昇目標」は日銀の黒田総裁もよく口にする言葉ですが、そもそも日本の消費者物価は長い間下落していたところに「唐突に掲げた目標」でありました。なぜ2%の物価上昇が日本経済に必要なのかや、どのように実現させるのか(国債を異次元に買い入れれば実現するそうですが)など、理解できる説明もないまま現在に至ります。
黒田総裁は、先週の参議院予算委員会でも週末(1月23日)のダボス会議でも「2%の物価上昇目標達成が困難になれば、いつでも断固たる行動をとる」と息巻いて見せました。ということは、先週末時点でもまだ「困難になっていない」と考ているのでしょうか!? だとしたら、足元の日本経済の急減速には何の警戒心も危機感も抱いていないことになります。
そんな中、ドラギ発言後の日経平均は「世界最大の上昇幅」となりました。こうなると日銀が何かしらの追加緩和に踏み切ったとしてもそこからのさらなる大幅上昇は期待できず「材料出尽くし」に、逆に1月28~29日の政策決定会合で何もなければ「失望売り」になってしまう可能性が高まっています。
日銀が追加緩和に踏み切れば出尽くし
踏み切らなければ失望売り!?
はたして日銀は追加量的緩和に踏み切るのでしょうか? 踏み切らなかった場合のことを考えると、株価への悪影響が大きいので「踏み切らざるを得ないのではないか」とも考えていました。
しかし、現在の日銀を“実効支配”している財務省(旧大蔵省)は、追加緩和を消費税10%(2017年4月)を確実に実施するための「舞台づくり」としか考えていません。そのため今はまだカードを切るには早すぎ、今回は期待感を盛り上げておくだけの可能性が強いと思われます。
つまり、短期的に急上昇した日経平均は、日銀が何らかの追加緩和に踏み切っても踏み切らなくても要注意なのです。本紙はかねてより「金融緩和・量的緩和→景気回復期待→株高(そして通貨安)」が通用する賞味期限は2年程度と考えており、日本においてこの公式はもう使えなくなっていると考えています。
これは日銀がETFの買入れ枠だけ拡大したとしても(その可能性は追加量的緩和より高いと感じますが)、やはり効果は「限定的」と考えます。また、為替に関しては条件反射的に118円台まで円安に戻していますが、これもあまり持続しないと考えています。
本当の株価対策とは、使い古された量的緩和ではなく、「円高転換」で世界中の投資資金をかき集めて資本立国としての立場を強化することしかないのではないでしょうか。
【1/29追記】
この記事の公開後の1/29の政策決定会合で、日銀は当座預金のマイナス金利を実施すると発表しました。
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