安定した利益を上げ続け、長期で株価が上昇する株選びの秘訣とは何か。独立系としては世界最大級のヘッジファンドのひとつで運用資産が約9兆円にものぼるマン・グループの日本株ファンドマネジャーに聞いた。
商品価格が下がらないロングセラー商品を
持つ企業は設備投資が少なくて済み効率的!
原油価格や為替などの影響を受けて大きく株価が変動する日本株だが、そういった短期的な動きにとらわれないことが大事だと、世界最大級のヘッジファンドグループのマン・グループ・ジャパン・リミテッドの日本株ファンドマネジャー、山本潤さんは指摘する。
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※マン・グループは1783年創業。定量分析運用、定性判断の双方を展開する資産運用会社。独立系としては、世界最大級のヘッジファンドのひとつで運用資産は約9兆円。ロンドン取引所に上場)。
「個人投資家のメリットは、短期的な値動きに惑わされずに投資ができること。そのために長期で上がる株を選ぶ必要がありますが、その際の株選びのポイント は2つあります。まずは、その企業が提供する製品やサービスの価格が長期で見て下落していないかどうかです」(山本さん)
【選び方1】
製品やサービスの価格維持が可能な企業を買え!
総務省統計局が算出した、製品やサービスの10年前と現在の価格を比較したものを見るとパソコンやテレビなどの家電製品が大きく下落しているのがわかる。関連銘柄の10年前と2016年3月末の株価を比較しても、シャープ(6753)は90%以上、パナソニック(6752)は約60%、ソニー(6758)も約50%も下落しているのだ。
「家電は製品サイクルが短く、新機能を付けるために、研究開発や新たな設備に巨額の資金が必要。製品価格が下落すると、売上高の減少はもちろん、設備投資などに使った資金の回収計画も狂ってくるのです」(山本さん)
実際、液晶価格が韓国企業などとの競争で下落する中、シャープ(6753)はハイスペックな液晶を作るための工場へ巨額を投じたことが大きな負担となり、現在の苦境に陥った。
一方で、価格が上昇している自転車やたばこ、学習塾などに関連した株は株価も大きく上昇している。10年前と比較して自転車部品のシマノ(7309)は株価が4倍、たばこを展開するJT(2914)は2.2倍、学習塾の明光ネットワークジャパン(4668)は80%上昇した。
「製品やサービスの価格が安定していると、将来に向けた投資もしやすい。デフレが進行した過去10年で見ても、価格が安定しているのは、公共料金や家賃、衣服、医療など、生活に必須なもの。こういった製品を展開する中で、2つ目のポイントである設備投資が少なくて済む企業は、さらに利益が安定しています」(山本さん)
主要企業を過去10年間の当期利益総額に対する設備投総資額の割合と、2006年3月末と2016年3月末で比較した株価の騰落率でマッピングしたものを見ると、大きく上昇している株は、設備投資額が少ない傾向が見てとれる。
例えば、株価が10年前から80%も上昇した花王(4452)は「トイレクイックル」「マジックリン」「バブ」などの製品を展開し、どれもがロングセラー商品という特徴がある。
【選び方2】
新たな設備投資が少なくて済む企業を買え!
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「価格が安定的で製品サイクルが長い商品を持つ企業は、巨額の投資をしなくても、安定した利益を上げられ、株価も大きく上昇しています」(山本さん)
実際に商品やサービスの価格が維持または上昇中の
長期で株価の上昇が狙える誰もが知る20銘柄とは?
株式投資では、最新技術を競う企業などに目が行きがちだが、実は地味ながらも身近なロングセラー商品を展開する企業のほうが、長期では株価が上昇しているのだ。
「短期的には、株価はさまざまな要因によって変動しますが、長期で見ると株価は利益の伸びに連動します。長期的な利益を見通して、投資するには、この2つの点を重視して、銘柄を選ぶことが重要です」(山本さん)
では、価格が安定的で、設備投資が少なくて済む企業として、どこが挙げられるのか。人気銘柄の中から、設備投資額の効率性と、製品やサービスの10年前からの価格上昇率を調べ、20銘柄を厳選した。効率的な設備投資を行ない、製品やサービスの価格が安定している有望な銘柄には、エムスリー(2413)やテルモ(4543)などの医療関連株が多い。
◎安定価格&効率的設備投資で好業績が続く上がる株 | |||
10年間の株価上昇率 | 設備投資÷利益 | 10年間の価格上昇率 | 詳細情報 |
大成建設(1801) | |||
28% | 50% | -2.7% | |
【コメント】東京五輪に向けてインフラ整備関連の受注が増加。受注採算がよくなり、利益率が向上している点に注目。建設現場の深刻な人手不足には要注意。 | |||
大東建託(1878) | |||
160% | 13% | -2.7% | |
【コメント】土地の有効活用でアパート建築や賃貸経営を支援。節税手段として幅広く普及している。地方の不動産管理も多く、家賃保証リスクが気になる。 | |||
カカクコム(2371) | |||
593% | 13% | ― | |
【コメント】食べログが成長の牽引役。スマホ対応やコンサル機能、予約プラットフォームなどの新サービスを加えることで、サービス価格が上昇している。 | |||
エムスリー(2413) | |||
415% | 6% | 0.6% | |
【コメント】ダントツのシェアでドクターネットワークを日本で構築。世界各国で同様の戦略を進める。医療現場は課題山積みでそれだけ潜在的ニーズも大きい。 | |||
アサヒグループHD(2502) | |||
104% | 89% | -4.8% | |
【コメント】飲料業界はスーパーなどの買い手の力が強く、粗利益率が上がらないが需要は安定的。ビールではロングセラー「スーパードライ」が強い。 | |||
10年間の株価上昇率 | 設備投資÷利益 | 10年間の価格上昇率 | 詳細情報 |
エービーシー・マート(2670) | |||
126% | 38% | 10.1% | |
【コメント】高単価のランニングシューズが好調。出店数も着実に増加している。既存店売上高もプラスを維持している。海外での開拓余地が大きい。 | |||
セリア(2782) | |||
1034% | 98% | 14.4% | |
【コメント】雑貨を上手く取り込み、出店を拡大。100円ショップは絶対に価格は下がらない。むしろ、デフレで扱うことができる商品が拡大している。 | |||
塩野義製薬(4507) | |||
169% | 37% | -7.8% | |
【コメント】インフルエンザ治療薬などのウイルスに対する研究が得意。ウイルスは耐性を獲得するため新薬開発に終わりがない。HIV治療薬に期待。 | |||
参天製薬(4536) | |||
192% | 18% | -18.9% | |
【コメント】高齢化社会となり、目を患う人が増加中。スマホの普及によるドライアイ増加も同社には追い風。眼科領域に特化し、グローバルでの拡販を狙う。 | |||
テルモ(4543) | |||
105% | 77% | -9.2% | |
【コメント】高齢化社会では心臓疾患が増加するため、カテーテル需要が増加。血管外科という新領域が生まれ、製品開発で先行した同社がシェアを伸ばす。 | |||
10年間の株価上昇率 | 設備投資÷利益 | 10年間の価格上昇率 | 詳細情報 |
沢井製薬(4555) | |||
220% | 99% | -7.8% | |
【コメント】医療費抑制の切り札がジェネリック薬品。品質にこだわることで、シェアが向上。数量成長は確実だが、薬価が国の政策に左右されるのが難点。 | |||
オリエンタルランド(4661) | |||
361% | 102% | 28.0% | |
【コメント】ディズニーランドは値上げをしても客足が落ちない。今後も敷地を拡げてアトラクションを拡充する計画だ。今後も客数は安定して推移するだろう。 | |||
コーセー(4922) | |||
141% | 96% | 0.4% | |
【コメント】化粧水「雪肌精」の販売が国内外で絶好調。中国でもコーセーブランドは浸透している。ただし、カネボウの失速に助けられた面もある。 | |||
日本電産(6594) | |||
54% | 103% | ― | |
【コメント】自動車の電動化、ロボットの普及で今後も有望。高効率ブラシレスモータを軸にモータ分野でトップ。M&Aの上手さにも定評がある。 | |||
富士重工業(7270) | |||
427% | 96% | 1.5% | |
【コメント】米国では作れば売れる瞬間蒸発状態。配当利回り約4%は魅力的だ。ただし、110円割れの円高水準では来期の大幅減益は避けられない。 | |||
10年間の株価上昇率 | 設備投資÷利益 | 10年間の価格上昇率 | 詳細情報 |
ユナイテッドアローズ(7606) | |||
32% | 68% | 7.4% | |
【コメント】主力ブランドに加え、グリーンレーベルブランドが順調に育ってきた。暖冬の中、他社と比較すると健闘している。利益成長率が低いのは気がかり。 | |||
アシックス(7936) | |||
47% | 44% | 10.1% | |
【コメント】新興国通貨安の影響で足元の業績は芳しくない。しかし、世界的な健康ブームに乗り、高単価ランニングシューズなどで業況は拡大中だ。 | |||
エイチ・アイ・エス(9603) | |||
85% | 87% | 59.0% | |
【コメント】原油安で燃油サーチャージがなくなった点に注目。昨年はハウステンボスが、訪日外国人客数増加で絶好調だったが、足元は客数が弱含んでいる。 | |||
ニトリHD(9843) | |||
233% | 102% | 6.5% | |
【コメント】低価格ながらも、一定の品質を保った家具で商圏を拡大。現状はNクールなどの機能性寝具や生活雑貨が好調。郊外中心だったが、都心店も開設。 | |||
ファーストリテイリング(9983) | |||
190% | 54% | 7.4% | |
【コメント】機能性衣料品を軸にグローバルに展開。特に中国での出店を加速。ただ、値上げで一時的に客数が低下しているため、足元の既存店売上高は苦戦。 | |||
※「株価上昇率」は06年3月末と16年4月4日時点で比較、「設備投資÷利益」は過去10年間の設備投資と当期利益の総額から算出。「価格上昇率」は、総務省統計局の「品目別価格指数」で銘柄に関連した製品やサービスの06年2月と16年2月のデータから算出。 |
「今後は日本だけでなく、米国、欧州、中国などを中心に、世界的に高齢化が進みます。これにより医療関連の需要が伸び、価格が維持できる可能性が高い」(山本さん)
他は衣料品や食品などの生活必需品関連が多いが、同業で比べても設備投資が少なくて済む企業のほうが株価が好調だ。効率的な設備投資を行なうアサヒグループHD(2502)が10年間で株価が2倍になる中、設備投資が多いキリンHD(2503)は3%下落した。
一方で、巨額の設備投資が必要でもNTTドコモ(9437)などの通信関連は、スマホ普及で通信料が安定していたことで、株価も上昇した。
当期利益に対する設備投資額の割合が100%以内で、関連製品価格の下落率が20%以内であれば、企業努力などで業績を伸ばしている企業も多いのでチェックを。
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