みなさんは、毎月もらう「給与明細」をどのように取り扱っていますか? 紙でもらう場合もあれば、データでもらう場合もあると思いますが、いずれにせよ重要なのは、給与明細の中身にきちんと目を通すことです。
ただ、現実にはそれができていない人も非常に多いものと思われます。銀行口座に振り込まれる金額だけ見て、給与明細自体は開封すらしない人もいるかもしれません。それは一番ダメなパターンですが、「手取りや残業代をザーッと見る程度」という、よくあるパターンもNG。これだけでは、給与明細にきちんと目を通したことにはなりません。
また、「もらった給与明細をどうしていいか悩む」「振り返って見ることもないから、大掃除のときに全部捨てた」といった人もいると思いますが、給与明細を捨ててしまうのもNGです。給与明細は前年同月と比較をするため、せめて2年間分は捨てずに保管しておきましょう。
ですが、なぜそんなに給与明細が重要なのか、ピンとこない人も多いかもしれません。そこで今回は、給与明細の持つ意味について解説していきたいと思います。もうすぐ初任給を受け取る新社会人の方も多いと思いますので、給与明細の見方をぜひ覚えておいてくださいね。
税金や社会保険料など、何にいくら使われているか
きちんと把握しておくことが大切!
給与明細とは、1カ月分の給与と、手取り額が記された書面(あるいはデータ)です。ただ、そこに記されているのは、“もらえるお金”の情報だけではありません。“自分が支払ったお金”の情報も記載されています。
私たちの手元(銀行口座)に振り込まれる“手取り”のお金は、本来の給与から社会保険料や税金などを差し引いた上で決定されています。つまり、私たちの給与の一部は、自分たちのあずかり知らぬところで使われているのです。
無論、ムダ遣いされているわけではなく、会社が代わりに手続きをしてくれているだけなのですが、給与明細を見なければ天引きされている金額に気付かず、何にどれだけ“支払って”いるのかが把握できません。自分の稼いだお金の使い道くらい、自分で知っておくべきでしょう。
また、最近は「ふるさと納税」をしている人も多いですが、ふるさと納税では所得税や住民税に対して控除が受けられます。ただ、給与明細を見ておらず、住民税を自分がいくら負担しているのか把握していない人は、ふるさと納税による住民税控除のありがたみを正確には実感できないはずです。
このような人は、住民税控除で手取りが増加しても、気づかずにムダ遣いをしてしまう恐れもあります。それでは、せっかくふるさと納税をした意味がほとんどなくなってしまいます。
「給与明細」は必ず正確とは限らない!?
間違いがあると、手取りが減ってしまうことも
「給与明細には、必ず正確な内容が記されている」と無条件に思い込んでいる人も多いと思います。基本的には会社が正確に計算してくれているはずですが、たまに間違っていることもあると聞きます。経理担当者も人間ですから、たまにはそんなことも起こるでしょう(会社によっては頻繁に間違っている例もあるようですから、要注意です)。
間違いの内容は、残業の記録が間違っていたり、資格の手当が付け忘れられていたり、職責給などが加算されていなかったり、深夜残業が普通残業で計算されていたり……と、さまざまです。
こうした間違いがあると、手取りが不当に減らされてしまう危険性があります。きちんと見なかったために、手取りが減っていることに気づかず損をしてしまったら、悔やんでも悔やみきれません。そのため、基本給に何らかの上乗せがある人は、それらが加算されているかどうか、毎月の給与明細で必ずチェックするようにしましょう。
もし、間違いがあった場合には、経理担当者にその旨を伝えれば、すぐに対処してもらえるはずです。ただ、報告は迅速に行わなければなりません。何カ月も経ってから……でも、恐らく対処はしてもらえるでしょうが、基本的には給与明細を受け取ってすぐにチェックし、誤りがあれば即刻、経理担当者に連絡するのがベストです。
「給与明細」は「勤怠」「支給」「控除」という
3つのパーツから構成されている
ここからは、給与明細の見方を説明していきます。
給与明細は大抵の場合、以下の3つのパーツで構成されています。
◆勤怠
◆支給
◆控除
まず「勤怠」とは、「勤務日数」や「欠勤日数」「残業時間」「有給消化日数」「有給残日数」などを示す欄です。特に、残業時間などは間違いが発生しやすいので、きちんと確認してください。
続いて「支給」とは、会社から支給されるさまざまなお金のことです。「基本給」に加えて、「役職手当」や「家族手当」「住宅手当」「通勤手当」「時間外手当」「出張旅費」など、さまざまな手当もこちらに詳細が書かれています。
ちなみに、「給与3カ月分」などのボーナスが夏期や冬期にある場合は、原則として「基本給」をベースに計算されます。そのため、毎月の給与が職責給などで上乗せされている人は、「ボーナスが案外少ないなぁ」なんてことにもなりがちです。
社会保険料は会社と折半して負担
社会人1年目の間は住民税の負担はナシ
最後に「控除」とは、給与から差し引かれるお金のことです。「健康保険料」「介護保険料」「厚生年金保険料」「雇用保険料」「所得税」「住民税」などがあります。会社で「財形」をしている場合も、この欄に記載されます。また、「労働組合費」などが記載されていることもあります。それぞれ、ごく簡単に説明しておきましょう。
◆健康保険料
会社に入ると、原則として、その会社が加入している健康保険組合に加入することになります(小規模の会社などは、国民健康保険の場合もあります)。会社が加入している健康保険の場合、保険料は会社と自分で半分ずつ負担するので、給与明細には自己負担分が記載されています。
◆介護保険料
40~64歳の人のみが負担します。39歳までの人は介護保険料が差し引かれないので、給与明細では空欄になっているはずです。これも、会社と自分で半分ずつ負担します。
◆厚生年金保険料
通常、会社員は厚生年金に加入します。健康保険や介護保険と同様に、厚生年金保険料も会社と折半します。
◆雇用保険料
失業時の生活を安定させるための保険です。半分ずつではありませんが、会社と負担を分け合って加入します。
◆所得税
給与に応じて計算されます。本来、所得税額は1年単位で計算しますが、会社員の場合は毎月の給料から概算で源泉徴収されます。過不足は、12月の給料を受け取るときに調整が行われます(年末調整)。社会人1年目だと、払い過ぎた所得税の一部が戻ってくることが多いです。
◆住民税
前年の給与に基づき、6月から翌年5月にかけて毎月徴収されます。社会人1年生は前年の給与がないので、住民税が引かれることはなく、空欄のはずです。社会人2年目の人も、まだ住民税の全額負担ではありません。3年目になると全額負担になるので、負担が重くなります。よって、新卒1年目のときのほうが手取りが多かった――といったことも起こり得ます。
◆財形
財形とは「勤労者財産形成貯蓄制度」の略で、会社と金融機関が提携し、給与やボーナスから天引きの形で自動的に貯蓄をしてくれる制度です。導入している会社としていない会社があります。これに申し込むと、必ず給与明細に記載されます。
給与明細に書かれている内容はおおむね理解できたでしょうか? 案外、控除されるお金が多いと感じるかもしれませんね。手取りの金額は、支給される金額の約8割程度と言われます。つまり、2割前後は控除されているわけです。
「そんなに払いたくない」と思うかもしれませんが、それだけ社会保険料などを支払っているからこそ、失業したときや病気などで障害を負ったとき、将来寝たきりになったときなどに恩恵を受けられるわけですから、決してムダ遣いではありません。
1年分ずつまとめて、ファイルなどで保管を。
後日、給与明細が必要になるケースもある!
さて、「給与明細」を熟読し終えたらどうしたらいいでしょうか? おすすめは、クリアファイルやバインダーなどに入れて、1年分ずつまとめておくことです。面倒であれば、専用の箱か何かを用意して、そこに投げ込んでおくだけでもOKです。
とにかく、捨てずに保管しておくことが大切です。というのも、給与明細は年金記録などの確認のために必要になることもあるからです。年金については、「ねんきん定期便」で毎年お知らせが届きますが、転職が多い人などは、その内容が合っているかどうかよくわからなくなることもあるはずです。そんなときに給与明細があると、振り返って調べることができます。
また、年金で「過去に未納分があった」などと確認の連絡が入ることも稀にあります。給与明細があればそれを証明書代わりに使えるので、保管しているといざというときに安心です。念のため、毎年もらえる源泉徴収票も一緒に保管しておくのがおすすめです。
もし、紙面で給与明細を受け取っていない場合は、データを所定のフォルダにまとめて保管しておきましょう。社内システムでブラウザから閲覧できる形で発行されることもありますが、ダウンロードして、自分のパソコンに保管しておくのがよいでしょう。基本の閲覧期間が短い場合もありますし、退職後は確認が難しくなることもあります。
私自身、会社員時代の給与明細はずっと保管しています。今は働き方が変わり給与明細を受取ることはなくなりましたが、会社員だった頃は、直近の給与明細と1年前の給与明細を見比べて、どのような変化があるかをチェックしたりもしていました。社会保険料が増加しているなど、意外な変化に気づくことができました。
ついつい雑に扱ってしまいがちな給与明細ですが、自分の本当の収入がいくらなのか、税金や保険、年金をいくら支払っているのか、というのを意識することは大切なことです。今後は給与明細にもっと関心を持って、大切にして保管しておくようにしましょう。
(取材・構成/元山夏香)
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