チャートではわからない相場解説
2018年10月30日 岡村友哉

株価が暴落したとき、個人投資家が買っているのは
この銘柄! 信用買い残から見えてくる個人投資家の
動向と「マザーズ市場が盛り上がらない原因」とは?

「新興株が上がらないと個人の投資マインドは上向かない」
は本当か?

 マザーズ市場などの新興株が上がらないと、個人の投資マインドは上向かないと言われています。10月26日に東証マザーズ指数は900ポイントを割り込み、年初来安値を連日更新。すでに年初から3割程度下げています。それでもまだまだ底が見えず、埒が明きません。

「マザーズが上がってくれさえしたら……」。そう考えている個人投資家も多いかもしれませんが、はたして本当にそうなのでしょうか?

 マザーズの売買シェアは約7割が個人投資家で、東証1部のそれと性格が異なります(東証1部は外国人が約7割)。その7割シェアの個人のうち、約7割が信用取引で売買しています。そのためマザーズが急落すると、懐具合を痛める個人投資家はたしかに増えます。

 ただ、そうしたマザーズで信用取引をするタイプの個人投資家が、今は過去に比べてはるかに少なくなっています。つまり東証マザーズ指数を、個人投資家全体の体感温度を測るモノサシにするのは誤りなのです。

 一体なぜなのでしょうか? それは、個人投資家の大勢が買いに動くタイミングで、どの銘柄を買っているか調べてみると見えてきます。

今年、個人が本気で買いに動いたのは
急落のあった「2月第1週」と「10月第2週」の2回

 今の個人投資家の趣向は、以前と比べると驚くほど変化しています。

 個人投資家は、急落が起きたとき、ここぞとばかりに逆張り買いに回る傾向があります。では、逆張りで買い向かった銘柄は何かを想像してみてください。以前のように、マザーズのそーせいで(4565)しょうか? それともIPO後、全く冴えないメルカリ(4385)かでしょうか? 正解は、それらとは全く毛色の違う銘柄なのです。

 今年、個人が本気で株買いに動いたのは2回あります。VIXショックのあった2月第1週と、10月11日の日経平均株価急落(一時1000円安)があった10月第2週です。

■日経平均株価チャート/週足・1年
日経平均株価チャート/週足・1年日経平均株価チャート/週足・1年(出典:SBI証券公式サイト)
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 個人が大きく買い越しに動いた局面で、いったい何を買っていたのか、全上場銘柄(株式)、さらにETFも加えて確認してみましょう。

2月第1週に一番買われた銘柄は
ダントツで日経平均株価に連動するETF

 個人投資家が、個別株の何を買い越し、何を売り越していたか、それを調べる方法はひとつしかありません。信用買い残(株数)の増減です。株数の増減に株価を乗じ、信用取引を使った個人投資家の資金流出入を計算してみました。

 まず、のちにVIXショックと呼ばれた2月第1週(2月5日~9日)に信用買い残(金額ベース)が増加していた銘柄トップ5は、以下の通りでした。

■2月第1週(5日〜8日)の信用買い残増加銘柄
順位 銘柄名 コード 2月9日終値 信用買い残増加額
1 日経平均レバレッジ上場投信 1570 1万8220円 502億円
2 JT 2914 3200円 70億円
3 三菱UFJフィナンシャル・グループ 8306 779円 67億円
4 日経225連動型上場投資信託 1321 2万1980円 39億円
5 任天堂 7974 4万3330円 38億円

 「この当時はこんな感じ」程度に見てください。この時点で、日本株全体が急落したタイミングでの突っ込み買い銘柄は、ダントツの1位が日経平均株価の変動率×2倍動く日経平均レバレッジ上場投信(1570)で、4位がプレーンな日経平均型ETF・日経225連動型上場投資信託(1321)と、日経平均株価“に関連するものが一番でした。

 意外なのが2位のJT(2914)。安値更新を続けていたタイミングで配当利回りが5%に接近し、値ごろ感から買いが集まったわけですが、「信用取引を使う個人投資家が好みそうな銘柄」というイメージはないですよね。個人投資家は、急落時にこういう銘柄を買うようになっているのです。

今年最大の下落となった10月11日の週に
個人投資家が買ったのは「外国人投資家のような銘柄」

 そして、今月最大の下落となった10月11日。この日を含む10月第2週(8日〜12日)に個人投資家は何を買ったのか? これも多くの投資家がイメージしている銘柄ではありませんでした。

 直近事例のため、上から20銘柄と株価データを含めて表にしてみました。

■10月第2週(8日〜12日)の信用買い残増加銘柄
順位 銘柄名 コード 10月12日終値 信用買い残増加額
1 日経平均レバレッジ上場投信 1570 2万0800円 821億円
2 ソフトバンクグループ 9984 9976円 148億円
3 キーエンス 6861 5万8200円 102億円
4 トヨタ自動車 7203 6608円 82億円
5 ソニー 6758 6258円 63億円
6 三菱UFJフィナンシャル・グループ 8306 686円 54億円
7 任天堂 7974 4万0000円 51億円
8 日経平均ブル2倍上場投信 1579 2万1810円 49億円
9 みずほフィナンシャルグループ 8411 193円 34億円
10 JT 2914 2870円 33億円
11 ファーストリテイリング 9983 5万6070円 31億円
12 NTT都市開発 8933 1306円 31億円
13 三井住友フィナンシャルグループ 8316 4436円 30億円
14 ファナック 6954 1万9450円 30億円
15 日本電産 6594 1万4730円 24億円
16 信越化学工業 4063 9172円 21億円
17 資生堂 4911 7583円 20億円
18 日経225連動型上場投資信託 1321 2万3340円 20億円
19 武田薬品工業 4502 4394円 17億円
20 住友化学 4005 600円 16億円

 今回も2月同様、トップは日経平均レバレッジ上場投信。8位にも同タイプのETF・日経平均ブル2倍上場投信(1579)が入っていまね。信用買い残の増加額を見ると821億円と、2月の急落時(502億円)より6割強も信用買い残が膨らんでいます。前回の2月急落時にうまくリバウンド(その後に27年ぶり高値更新)した残像もあり、2匹目のドジョウを狙った投資家が多かったのでしょう。

 次いで、ソフトバンクグループ(9984)。日本屈指の人気銘柄ですが、つい先日レベルの9月下旬、高値で1万1500円まで付けていただけに、節目の1万円割れが買いのサインになったものと思われます。

 そして驚いたのは、3位がキーエンス(6861)だったということ。キーエンスといえば、外国人持ち株比率47.5%(個人投資家はわずか10.8%)を誇る、外国人投資家御用達の国債優良株。これを個人投資家が買っていたこと、しかも信用買い残は102億円増で、任天堂(7974)の2倍もあったことは興味深い現象です。

 その他でも、トヨタ(7203)ソニー(6758)ファナック(6954)日本電産(6594)などもトップ20に入っていました。つまり、今の個人投資家の趣向を表現するなら、「外国人投資家のような銘柄を選んでいる」となるでしょうか

信用買い残の増加銘柄から見えるのは
「新興市場に関与している人が今は少ない」という事実

 では、個人が好むといわれる新興株はどうだったか? 信用買い残の増加銘柄から新興株(マザーズとジャスダックに上場する銘柄)抜き取ってランキング化すると、こうなります。

■10月第2週(8日〜12日)の信用買い残増加銘柄
(マザーズ、ジャスダック上場銘柄対象)
順位 銘柄名 コード 2月9日終値 信用買い残増加額
1 ブリッジインターナショナル 7039 4500円 7.9億円
2 CRGホールディングス 7041 1654円 7.2億円
3 ハーモニック・ドライブ・システムズ 6324 3570円 7.0億円
4 メルカリ 4385 3255円 6.0億円
5 ALBERT 3906 1万2290円 4.3億円
6 プロレド・パートナーズ 7034 1万3070円 3.4億円
7 GMOフィナンシャルホールディングス 7177 711円 2.9億円
8 フィスコ 3807 322円 2.6億円
9 SHIFT 3697 4315円 2.4億円
10 エスケーエレクトロニクス 6677 2110円 2.2億円

 1位のブリッジインターナショナル(7039)、2位のCRGホールディングス(7041)は、10月第1週~第2週にIPOした銘柄。信用取引で、初値に買い向かった短期売買分で増えただけです。これを除くと、多いのは精密減速機メーカーのハーモニック(6324)ということで、新興株でも意外な銘柄が買われていることがいえます。次いで、メルカリ(4385)ALBERT(3906)など、流動性の高い銘柄が上位です。

 しかし、信用買い残の金額を見てもらえばわかりますが、絶対額としては多くありません。簡単にいえば、「新興市場に関与している人が今は非常に少ない」ということです

テクニカル分析で東証マザーズ指数の
下値メドを探っても、なんの意味もない!

 個人投資家が買いを膨らませたタイミングで買っていた銘柄を整理すると、個人主体のマザーズなど新興株が冴えない理由も見えてきますよね。個人が最近買っているのは、①日経平均型のETFと、②ソフトバンクグループキーエンスなどの大型株。そして、これらが足元で下げ止まらないことが、マザーズ泥沼化の最大の原因といえます東証マザーズ指数のテクニカル分析で下値メドを探ろうとしても、何も得るものはありません。

 マザーズの好転、個人投資家のマインド好転の最大のカタリスト(相場を動かすきっかけとなる材料)は、「日経平均株価が急激にリバウンドすること」、それしかありません。

 外国人の先物売りが買戻しに転じること、米国のハイテク株売りが収まること、米中摩擦の懸念が後退すること、中国の景気減速懸念が弱まること……、そうしたマザーズと直接的には関係無いことと、マザーズの命運は紐付いています。

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