闇株新聞[2018年]

米通信大手AT&Tがタイムワーナーを買収、世界の総合メディア企業は「新戦国時代」に突入か!?闇株新聞が見通す、日本にはない総合通信・メディア産業の今後

2016年10月28日公開(2026年3月18日更新)
闇株新聞編集部
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10月21日(米国時間)に「米通信大手AT&Tが総合メディア大手タイムワーナーを買収する方向で調整入り」との報道があり、翌日にはもう「買収に合意」と伝えられました。買収総額854億ドル、日本円にして約8兆9000億円。まさに電光石火の巨大買収劇です。日本では「大手通信会社と大手メディア企業の買収合併」と報道されていますが、それだけではこの買収がどれだけの意味を持つ「事件」なのかがまるで伝わってきません。経済のプロも愛読しネタ元にしている刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』が、深く・濃く・熱く解説します!
 

 AT&Tは全米最大最強の通信会社、タイムワーナーはCNNやワーナーブラザーズを傘下に持つ総合メディアグループの一角です。今回はAT&Tがタイムワーナーを買収を仕掛け、あっという間に話をまとめてしまいましたが、単に巨大企業同士だから凄いというものではありません。

 通信業界とメディア業界は長い年月をかけ合従連衡を繰り返しながら、現在の勢力図にまとまりました。ここ数年でも幾つかの大型買収がありましたが、今回の買収は通信業界の勝ち組がメディア業界の勝ち組を呑み込む、まさに地殻変動級のインパクトがあります。これが業界の垣根を超えた巨大再編の幕開けになる可能性も十分にあります。

切り捨てられた地域通信会社が下剋上
時価総額23.5兆円の米最強通信会社

 ここでAT&Tとタイムワーナーが、それぞれどういう背景を持つ企業なのか、簡単に見て行きたいと思います。まずはAT&Tからです。

 現在のAT&Tは、1877年にグラハム・ベルが設立したAT&T(以下、旧AT&T)とは別の会社です。米国最大最強の独占企業だった旧AT&Tは巨大になり過ぎて、独占禁止法に抵触したこともあり、1984年に地域電話会社7社を分離しました。「地域電話会社は最も成長性がない」と判断したためですが、これは旧経営陣の“世紀の判断ミス”でした。

 地域電話会社を切り離した旧AT&Tは長距離電話/国際電話/研究開発/通信機器製造販売/コンピュータの各事業を残し、CATV(ケーブルテレビ)会社を巨額買収するなどしましたが、結局すべてがジリ貧になってしまいました。

 一方、分離された7社の地域電話会社の中で、東海岸のベルアトランティック(現ベライゾン)とテキサス州のサウスウエスタンベル(のちのSBCコミュニケーションズ)が競争を勝ち残り他の地域電話会社を合併、長距離電話/国際電話事業にも進出して旧AT&Tのシェアを削っていきます。そしてSBCコミュニケーションズがすっかり落ち目となった旧AT&Tをわずか160億ドルで買収した上で、AT&Tの社名を引き継ぎました。これが、現在のAT&Tです。

 現在でも米国最大の通信会社で最大の勝ち組とは、このAT&Tとベライゾンの「2強」を指します。通信会社としての規模はベライゾンの方が少し大きいようですが、時価総額ではAT&Tが2263億ドル(23.5兆円)、ベライゾンが1916億ドル(19.9兆円)と、AT&Tの方がかなり大きくなっています。

米メディア業界は激しい買収合戦を経て
5大総合メディアグループにまとまった

 それでは、買収される側のタイムワーナーについても見てみましょう。米国の総合メディア業界は、ウォルトディズニー、コムキャスト、タイムワーナー、ニューズコーポレーション、バイアコムの5社が様々なメディアを傘下に収めて5グループを形成しています。

 

 

参考記事:「時価総額7000億円と目されたUSJ再上場をゴールドマンサックスが半額で譲った理由」(2015年10月5日公開)                                         表中の時価総額は参考記事執筆時のもので、現在とは異なっています。

 

 総合メディアグループの中で「さらなる勝ち組」を選ぶと、コムキャスト(先週末の時価総額が1531億ドル=15.9兆円)とウォルトディズニー(同1495億ドル=15.5兆円)が「2強」で、その次がタイムワーナー(今回854億ドルで買収される)とニューズコーポレーションとなります。

 ただタイムワーナーは全米第2位(1位はコムキャスト)のCATVであるターナーケーブルを別会社として上場させており(先週末の時価総額は596億ドル=6.2兆円)、次はこちらの行方が注目されます。

通信の勝ち組がメディア業界に進出
ついにAT&Tが「本丸ごと」呑み込んだ!

 AT&Tは総合メディアグループではありませんが、2014年5月に衛星放送のディレクTVを485億ドル(なんと5兆円!)で買収しています。超優良コンテンツであるNFLの一部放映権を有しているとはいえ、どう考えても高い買い物でした。今回買収するタイムワーナーの傘下にあるHBO(ペイテレビ)の方が有望です。

 それに対してAT&Tのライバルであるベライゾンは2015年5月にAOLを44億ドル(4620億円)で買収してメディア事業に進出しています。AOLは「ハフィントンポスト」など特色あるメディアを傘下に持ちネット広告にも強みのある存在感のある会社です。あるいは今年7月には米ヤフーのネット事業を48億ドル(5000億円)で買収するなど、さらにメディア事業を拡大していく姿勢を見せています。

 これまでは有力なメディアや媒体を巡って主に総合メディアグループが激しい争奪戦を繰り広げてきたわけですが、去年辺りから通信会社の勝ち組が「参戦」し、今回はついに総合メディアグループを「本丸ごと」呑み込んてしまったというわけです。こうなると、通信と総合メディアの垣根は一段と低くなり、今後はAT&T、ベライゾン、コムキャスト、ウォルトディズニーあたりを4強とする「新戦国時代」に突入していく予感がします。

 翻って日本では、テレビ局などメディア会社はありますが「総合メディア企業」は未だなく、通信企業は携帯電話事業を中心に規制に守られた寡占による高収益体制を守ることしか考えていません。米国のような通信企業と総合メディアの融合などは、その組み合わせすら思いつきません。

 それでは、テレビにせよ新聞社にせよ単独で将来性のある企業があるのかと言えば、これも絶望的になってきます。メディアの衰退と、規制と寡占に胡坐をかいて技術革新を忘れた通信インフラは、そのまま国家の衰退につながってしまうでしょう。日本の通信会社やメディア会社の株価を考えるとき、こういうダイナミックな世界の潮流に少しでも接点があるかを考えてみるべきなのかもしれません。

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