クレジットカード決済のスクエアが、
2つのニュースをきっかけに株価が急騰
おかげさまで2008年春にスタートした「世界投資へのパスポート」は、今回で第500回を迎えました。毎週ご愛読頂き心から感謝しています。引き続き「世界投資へのパスポート」をよろしくお願いします。
さて、11月6日の本コラムで、スクエア(ティッカーシンボル:SQ)を紹介しました。その後、スクエアの株価は36ドルから48ドルへ急騰しました。その理由は、(1)好決算が出た、(2)ビットコインへの参入を検討していることが報じられた、ことによります。
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スクエアの決算は
事前の期待を裏切らない内容
まず11月8日に発表された決算では、EPSが予想5セントに対し7セント、売上高が予想2.45億ドルに対し2.57億ドル、売上高成長率は前年同期比+44.6%でした。取扱高(グロス・ペイメント・ボリューム)は+31%でした。要するに、決算は期待を裏切らない内容でした。
「スクエアがビットコイン・アプリをテスト中」
という報道が波紋を呼ぶ
次に、11月15日に「スクエアが一部顧客を相手に、ビットコイン・アプリをテスト中だ」という報道が出ました。こちらの材料は、解釈が難しいです。また場合によっては、ビットコインの価格形成に大きな影響を与えます。
スクエアは、スクエア・キャッシュというアプリを展開しています。スクエア・キャッシュは送金アプリです。
今回、スクエアがテストしているビットコイン・アプリは、とてもシンプルなもので、最低限の機能性だけを具備しています。つまりアプリからビットコインを購入し、売却できるだけです。
その後の報道では、スクエア・キャッシュで購入したビットコインを、家族ならびに友人に送金することも出来るようになるとされています。しかし、たくさんの人にビットコインを送金するためには、別に「法人口座」が必要になるそうです。
スクエアの提供するビットコイン・アプリの
サービス内容とは?
スクエアは、レストラン、商店主、コンサルタント、大工さん、その他のスモール・ビジネスが、顧客から代金の支払いを受けるとき、クレジットカードなどの決済手段を利用することを可能にする、決済端末を提供する企業です。
その後、単なるクレカ読み取り装置だけでなく、ハードウェア、ソフトウェア、売上管理、仕入管理、会計、運転資金の融資など、スモール・ビジネスが日々の業務を行う上でこなさなければいけないあらゆるサービスを追加しました。
今回、スクエア・キャッシュのアプリでテストされているビットコインのサービスは、それらのスモール・ビジネス向けサービスとは統合されていません。つまり「いまのところビットコインで買い物の支払いを済ませる事はできない」のです。
今回テストしているビットコイン・サービスが正式にスタート出来るかどうかは、現時点では不明です。「テストした結果、やっぱり導入を見合わせる」という可能性もあります。ましてや、ビットコインでの支払いをOKにするのは、かなりハードルが高いと思われます。
それを断った上で、もし、将来、ビットコインによる支払いが、スクエアの決済システムの選択肢に組み込まれたら、ビットコインに大きな影響を与える可能性があります。
「通貨」の役割をあらためて整理すると
ビットコインの評価はどうなる?
通貨には、次の3種類の役割があると言われています:
・価値を貯蔵する手段
・決済の手段
・勘定単位
具体例で説明します。スーパーでの買い物の支払いを、金の延べ棒で済ませようとする人は居ないでしょう。このようにゴールドは決済の手段としては不便です。
しかし、お金持ちがゴールドを買い込んで、それを銀行の地下金庫に退蔵するには適しています。つまりゴールドは価値を貯蔵する手段としては利用価値が高いのです。
ビットコインの場合も、それが使えるお店が少ないので、決済の手段としてはゴールド同様、極めて不便です。これが現在のビットコイン大きな弱点です。
しかし、発行数が数学的に厳格に管理されているので、希少価値があります。つまり価値を貯蔵する手段としてのビットコインは、ゴールド同様、かなりいい線いっているのです。
万が一、ビットコインが違法になっても、
通貨としての価値が失われるとは限らない
しかし、ビットコインの悪口を言う識者は、後を絶ちません。たとえばJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは、金融界の重鎮ですが、「ビットコインは違法だ!」と批判しています。
ビットコインが使える場所が極めて限られているということは、ビットコインがいつでも必ず円やドルなどの法定通貨に換金できるという保証がなくなると、言い換えれば「違法だ!」と断定されれば、無価値になってしまうリスクが残っていることを意味します。
実際、中国では「ビットコインは違法だ!」として、取り締まりが行われたことは我々の記憶に新しいです。
でも、国がそれを「違法だ!」と決め付けても、幅広く市民がそれに価値を見出し、それによる決済がどんどん行われれば、ビットコインの価値は失われにくいです。
その国が法定通貨と認めてないものが、市民の日常生活でまかり通り、結果として二重、三重の決済機構が出来てしまうということが、実際に可能なのでしょうか?
これは可能です。
日本では円への信頼が確立しているのでそういうことはありませんが、新興国ではその国の正式な通貨以外に、ドルなどの他の通貨が事実上、決済手段として市民から利用されている例は、たくさんあります。それらのケースで、国の指定する法定通貨以外の通貨の使用を取り締まるのは、かなり難しいです。
通貨はネットワーク、つまり利用者の「輪」です。ネットワークは、それを利用する人が多ければ多いほど、利用価値が高まります。これは「メトカーフの法則」と呼ばれる概念です。
ビットコインの場合も、それで支払できるお店が増えれば、それはビットコインという通貨の価値を補強します。
スクエアに対する信頼性が
ビットコインの弱点をカバーする
残念ながら、商店主はビットコインによる支払いに消極的です。その理由は、ビットコインは処理速度が遅いからです。
商店では、来店客の支払いが、現金であろうが、クレカであろうが、ちゃんとしていることを瞬時に確かめる事が要求されます。ノロノロしていると、レジに行列が出来てしまいます。また買い物した客が去ったずっと後で、その支払いが詐欺だったとわかると、取り返しがつきません。
その点、スクエアは商店主から熱烈に支持されており、信頼されているブランドです。もし将来、スクエアの決済端末に「ビットコインで支払いを受ける」というボタンが実装されたら、商店主は喜んでビットコインによる支払いを受け付けるようになるでしょう。なぜなら「なにかトラブルが発生したら、スクエアが何とかしてくれるだろう」という信頼感があるからです。
実際、スクエアと商店主の関係は、すでに大変親密になっており、スクエア端末でクレカ決済が処理されると同時に、その売上情報をベースにスクエアが商店主に運転資金を用立てるというような与信サービスすら実施されています。これはおカネを貸しているのだから、「銀行業務」に他なりません。事実、スクエアはバンキング・ライセンス(銀行免許)を持っています。
仮に、ビットコインによるお店での支払いが、処理に時間がかかったとしても、スクエアは喜んで商店主に与信するでしょう。
金融関係者がスクエアのビットコイン戦略を、息を詰めて見守っているのは、このような理由からです。
【今週のまとめ】
スクエアのビットコイン・アプリの
今後の展開に期待
スクエアは、好決算とビットコイン事業参入検討のニュースで急騰中です。いまのところスクエアのビットコイン・サービスのテストは、原始的でシンプルな機能しかありません。テストの結果、導入しないという結論になる可能性もあります。
しかし、技術的ハードルは高いですが、もしスクエアがビットコインを支払のメニューのひとつに組み込めば、ビットコインで支払できるお店が激増するので、ビットコインの利用価値は増大するでしょう。
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