中国政府がビットコイン取引所の閉鎖を検討?
先週金曜日、「中国政府が中国国内のすべてのビットコイン取引所の閉鎖を検討している」という記事が、中国の金融メディア「財新」に掲載されました。
それによると、2016年に中国人民銀行内に設置された仮想通貨ワーキング・グループが、このほど報告書を提出したのだそうです。現時点では、その報告書の内容は明らかになっておらず、その報告書の政策提言は、まだ検討中の段階であり決定ではありません。
このニュースとは別に、9月22には中国政府がICO(イニシャル・コイン・オファリング)、つまり新たな仮想通貨の発行を禁止する決定を下したということを「財新」が報じました。
【中国政府の決定】
・ICO⇒全面禁止
・ビットコイン取引所⇒閉鎖を検討中
最終的にどういう結論になるかは、これを書いている時点ではわかりませんが、中国政府が仮想通貨に対する規制を強化する方向に傾いている事は明白です。
中国のビットコイン取引所が閉鎖されても、
それはビットコインの死を意味しない
さて、ここで皆さんに理解して頂きたいことは「中国のビットコイン取引所が閉鎖されても、それはビットコインの死を意味しない」という点です。
ビットコインの取引に占める中国の割合が高いことは事実です。しかしビットコインは、取引所を通じなくても売り買いすることが出来ます。つまり、ビットコイン取引所が提供しているのはコンビニエンス(利便性)であり、「取引所が無くなると、ちょっと不便になる」というだけの事です。
ビットコインの仕組みである
「分散型通貨」の意味とは?
よく「ビットコインは分散型通貨だ」と言われます。今回のような事件があると、この「分散型通貨」の持つ意味をしっかり理解する必要が一段と高まります。そこでわかりやすいように噛み砕いて説明します。
ビットコインは「パスワードで保護された元帳」に例えられます。それでもまだイメージしにくいなら、ちょっと乱暴な例えになりますが、「エクセル・スプレッドシートのようなもの」を想像して頂ければ良いでしょう。
エクセル・スプレッドシートのような電子的な帳簿は、コピペや改ざんが簡単なので、何らかの方法でそのような不正ができないようにする工夫が必要です。
分散型通貨の意味は
「トラ・トラ・トラ」で理解しろ!
そこでビットコインが援用した不正防止の手法は、「ビットコインの売買があるたびに、広くその事実を世界に対して発信してしまう」というやり方です。希望する人は、だれでもその新しい取引が記帳された記録を入手することができ、それが正しいか吟味することが許されています。
この部分も、ちょっとわかりにくいと思うので、たとえ話で説明します。
第二次世界大戦初期は、まだ電信の周波数ホッピング(=周波数をこまめに変えること)技術が発達していなかったので、ワイヤレス通信は、味方だけでなく敵にも簡単に傍受されました。そのため、味方のコミュニケーションの内容を敵に知られないようにするためには、メッセージを暗号化する必要がありました。
真珠湾攻撃で奇襲に成功した場合、「トラ・トラ・トラ」というメッセージを使用することが事前に示し合わされていたのはその例です。
これと同じような感覚で、ビットコインの取引記録も、取引のたびごとに、世界中にばら撒かれているとイメージしてください。
すると、悪意を持ったユーザーが、その取引記録のひとつやふたつを改ざんしても、世界にばら撒かれた元帳のすべてを改ざんすることは、とうていムリなのです。
このように、ばら撒かれた状態を「ディストリビューテッド」、すなわち「分散している」と表現します。よく「ビットコインは分散型通貨だ」と形容されるわけですが、その意味するところは「ワイヤレス通信のように、誰にでも傍受できてしまう」ということです。
そして「ひとつ、その取引が純正かどうか、検証してやろう」と思う人は、誰でもそれを検査することが出来るのです。その検証作業を「マイニング」と言います。そのような検証作業をした結果、過半数の検証結果が「この取引は純正だ」と判断したら、その取引は正式に成立したことになります。
つまり、ビットコインの取引は、かならずしも株式市場のような取引所を介する必要は無いのです。
ビットコイン取引所は、
観光客目当ての「お団子屋」にすぎない
それではビットコイン取引所の意義は、何でしょうか?
私はこれを説明するときに、神社やお寺の前に自然発生的に出来る門前町、あるいは、お城の周辺に出来る城下町で説明することにしています。
つまり、ビットコインがお寺やお城であれば、そこへ集まってくる観光客目当ての旅籠屋(はたごや)やお団子屋が開業するわけです。
ビットコイン・エクスチェンジは「取引所」と訳されますが、それはあくまでも、民間が勝手にやっている私設の取引所です。また、ビットコイン・ウォレット会社というのもありますが、これは預かり所だと思えば良いでしょう。
これらは、いずれも仮想通貨の取引を便利にするための付帯的サービスに過ぎず、その意味において、ちょっと一息いれるお団子屋と変わらないのです。
つまり、中国政府がやっていることは「お団子屋のお取り潰し」に他なりません。門前町に出来たお団子屋を政府の意向で取り潰しにしたところで、それは周辺的かつ付帯的なサービスを取り押さえたに過ぎず、肝心のビットコインそのものを根絶させることにはならないのです。
ビットコインはひとつの国の意向に左右されない
真にグローバルな仮想通貨
すでにこれまでに説明してきたように、ビットコインには中心がありません。だからある国がビットコインを禁止したところで、取引が他の地域へ移るだけのことなのです。
もっと言えば、「お団子屋」や「旅籠屋」のサービスは、世界のどこでも出来るわけであり、それが中国である必要は無いのです。
さて、「お団子屋」や「旅籠屋」のサービスというと、スモール・ビジネスをイメージしてしまいますが、実は金融サービスというのは巨大な産業です。早い話、JPモルガン・チェースやゴールドマン・サックスだって「お団子屋の大きいやつ」に過ぎないのです!
世の中のあらゆるおカネは
「自由な方、自由な方へと流れる」
おカネの習性として、それは「自由な方、自由な方へと流れる」ことが知られています。すると、いま中国で仮想通貨ががんじがらめに規制され始めているということは、仮想通貨の付帯サービスを育もうとしている他の国々にとってチャンスです。
幸い、日本は世界でも最先端の仮想通貨法を整備しています。つまり日本政府の基本方針として「楽市楽座で、どんどん仮想通貨のお団子屋を出してオッケー!」ということが明示されているのです。
日本は、自動車メーカーなどは国際競争力がありますが、こと金融サービスになると国際競争力はありません。その証拠に、金融サービスの国際収支では日本は赤字です。
しかし仮想通貨では日本が世界に先行できる環境が整いつつあります。
そう考えると、今回の中国の仮想通貨に対する締め付け強化は、日本にとってまたとないチャンスかも知れないのです。
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