トランプ大統領肝いりの税制改革法案が
米上院での可決により大きく進展
先週末の12月2日、米上院が税制改革法案を可決しました。
上院が可決した法案は、11月16日に下院が可決した法案と細かい点で若干、相違点があります。したがって、両院の代表者から構成される委員会で一本化したあと、もう一度、下院ならびに上院で票決に付される必要があります。
ただ、全体像はほぼ固まったし、いよいよ税制改革法案成立は現実のものとなる公算が高まりました。
税制改革法案の中身と
株式市場への影響は?
この法案は、法人税を現行の35%から20%に引き下げます。また、多国籍企業が海外に貯め込んだ利益を米国に送金する場合、7%から14%の税金を課すことになります。これは企業にとり有利な税率であり、これを機会に米国に利益を戻す企業が増えることが予想されます。
諸々の改変により、今回の税制改革は向こう10年間で1.4兆ドルの減税になると言われています。それがGDPを押し上げる効果は、2018年で0.6%と試算されています。
もし法案が成立すれば、トランプ政権にとって最初の大きな立法面での勝利になります。しかし、税制改革法案の審議の過程で、当初5兆ドルからスタートした減税額は、上で述べたように僅か1.4兆ドルに矮小化されてしまいました。だから、法案成立の喜びもチョッピリだけになってしまったと言えるでしょう。
企業収益の面から見ると、今回の税制改革法案は、S&P500の1株当たり利益(EPS)を10ドルくらい引き上げる効果があると言われています。
2018年におけるS&P500のEPS予想は146.04なので、これが156.04になる可能性があるわけです。
もし、今回の税制改革が長期金利の上昇を誘発しないのであれば、EPSが増える分だけ株式市場が上昇することが予想されます。
このように、全体として米国株式市場を巡るニュースは好材料が多いです。
ロシアゲート事件に関してマイケル・フリン氏が
ウソの供述を認めたことで、NY株式市場は一時急落
しかし、上院による税制改革法案可決のニュースがもたらされる直前の金曜日、ニューヨーク株式市場は一時急落しました。その理由はドナルド・トランプと家族ぐるみの付き合いをしてきた友人であり、去年の大統領選挙の参謀のひとりとして活躍し、その働きへの見返りとして前大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたマイケル・フリン氏が、ロシアゲート事件に絡んで連邦捜査局(FBI)捜査官にウソの供述をしたことを認めたというニュースが出たためです。
ロシアゲート事件とは、去年の大統領選挙の際、ロシア政府がフェイク・ニュースやクリントン陣営の電子メールのリークなどの手法により世論を操作し、トランプが勝つように画策した疑惑を指します。
今回、トランプ大統領にとりわけ近かったマイケル・フリン氏が自分の有罪を認め、ロシアゲート事件を捜査しているモラー特別検査官に全面協力するということは、今後、去年の選挙戦に関して、いろいろな新事実が暴かれる可能性が出てきたことを意味します。
大統領選挙をめぐる不正の捜査で、特別捜査官を設置することにより独立した調査が行われるというのは、1974年のリチャード・ニクソン大統領辞任のきっかけとなったウォーターゲート事件と経緯が酷似しています。
今回のロシアゲート事件と比較されがちな
ウォーターゲート事件とは?
ウォーターゲート事件とは、再選を狙うニクソン政権の工作員が、ライバルの民主党の選挙本部のあるウォーターゲートビルに盗聴器を仕掛けようとして、警備員に捕まり、警察に逮捕された事件です。それを調査してゆくうちに、ニクソン政権のトップがこの盗聴に深く関与しており、もみ消し工作、捜査妨害などを行っていた証拠のテープが出てきたことで、弾劾されることが確実となったニクソン大統領が辞任に踏み切りました。
米国の投資家にとり、ウォーターゲート事件は、政治が株式市場に大きなインパクトを与えた稀な例として記憶されています。
上のチャートに見るように、1973年から74年にかけては、本当に酷い相場でした。ただ当時はインフレ圧力が強かったので、全てがウォーターゲート事件のせいだと言う風に決め付ける事は出来ません。
オイルショックでも下がらなかった株式市場が
ウォーターゲート事件により暴落!
ウォーターゲート事件には2回のドラマチックな展開がありました。ひとつ目は「土曜の夜の虐殺」と呼ばれる事件で、ニクソン大統領がコックス特別検査官を解任しようと動いたことを指します。ニクソン政権の手荒なやり方に仰天したウォール街は、リスクオフに傾きました。
上のチャートでもうひとつ興味深いのは、第一次オイルショックのきっかけとなった第四時中東戦争(ヨムキプル戦争)が勃発したのは10月6日であり、さらに石油輸出国機構(OPEC)が石油公示価格を70%引き上げる発表をしたのが10月16日である点です。それにもかかわらず、マーケットは下がりませんでした。
しかし10月20日の「土曜の夜の虐殺」の後で、マーケットは底なし沼に落ちてゆくのです。
ウォーターゲート事件は大統領辞任まで2年かかった
今回のロシアゲート事件でも事態はゆっくり進行しそう
ウォーターゲート事件の2回目のクライマックスは、1974年8月に、大統領執務室におけるもみ消し工作を指示する会話の録音テープという決定的証拠(これをsmoking gun、つまり発砲後「硝煙が出ている銃」と言います)が提出され、8月8日に大統領が辞任演説したことです。
普通、株式市場では、このような場合、「悪材料出尽くし」で逆に相場が上昇するケースも珍しくないのですが、8月8日に大統領が辞任演説をした後でも政治にウンザリした投資家は、株式市場に見切りをつけて、どんどん株を処分しました。
ウォーターゲート事件は、発覚後大統領辞任まで2年かかりました。最初は誰も気に留めない些細な事件でしたが、最後は国民の大統領に対する裏切りへの怒りが怒涛の如く噴出しました。
今回のロシアゲート事件も、捜査の進展の仕方などで共通点が多く、注意を要すると思います。ただ、事態はゆっくりと進行すると思われるので、「今日、明日、どうする?」というような材料ではありません。
【今週のまとめ】
税制改革法案の成立による株価上昇を期待する一方
ロシアゲート事件の動向からも目が離せない
待望の税制改革法案はあと一歩で成立のところまで来ています。この法案は企業業績を押し上げる効果があります。
その反面、ロシアゲート事件は、だんだんまずい方向へ向かっています。捜査には時間がかかると思うので、直ぐに「株は売り!」ということにはならないと思いますが、ウォーターゲート事件の忌まわしい記憶もあることだし、油断は出来ません。
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