ネット通販の次の主戦場と言われる
「ミール・キット」とは?
ミール・キットとは、生鮮食料品をレシピとともに毎週自宅に送り届けるサービスを指します。ネットで注文した品物が宅配業者により自宅に届けられるわけですから、これはネット通販の一形態と言えます。
ミール・キット企業には、今日紹介するブルーエプロン(ティッカーシンボル:APRN)の他、ハローフレッシュなどの業者があります。
消費者は、まずそれらのウェブサイトに行き、家族の数や1週間に自宅でクッキングしたい回数を選びます。それに応じてミール・キット企業が献立を自動的に選んでくれるわけです。もちろん、ベジタリアンなどの特別なニーズにも対応できます。
ブルーエプロンの場合、家族構成を「2名」、「4名」という風に選び、1週間に「2回」ないし「3回」クッキングするコースを選択できます。コースにもよりますが1回の1人当たりのコストは約10ドルです。すると夫婦が週3回クッキングするコースと選択すると1週間で60ドルになります。
「1回10ドルというコストが高いか、安いか?」ということについては色々な意見があると思いますが、ミール・キットの料理は、普通のレストランで食べれば軽く20ドルくらいの値打ちがあると思います。つまり、味も外見もゴージャスなのです。
消費者がこうした条件を選択すると、後はミール・キット会社のシェフが考案したレシピに従って、クッキングに必要な食材を、調味料まで含め、すべてセットにして届けます。後は、写真入りの手引書に従って調理するだけです。
消費者目線で見たとき
なぜミール・キットが魅力的なのか?
ミール・キットの良い点は、スーパーに買い出しに行く回数が減ることです。毎週きまった時間に大きな段ボール箱に詰まった食材が自宅に届けられるので、買い物の時間が節約できます。
この食材は保温シート、アイスパックなどによって護られており、ドアの外に放置されていても腐ることはありません。ミール・キットを受け取ったら、中味を冷蔵庫へ移すだけで良いです。
ブルーエプロンのメニュー例。公式サイトには、このような「インスタ映え」する料理の写真が並ぶ(出典:ブルーエプロン公式サイト)
もうひとつの魅力は、野菜、肉、調味料などが、1回のクッキングに必要な量に合せて、予め分量を測ってある点です。だから食材がムダになりません。
そして最大の魅力は、毎回、失敗することなく、レストランのシェフ顔負けの美味しい料理を自分で作ることができる点です。これは家族や来客に大いに自慢できますし、盛り付けた時の美しさまで考え抜かれたレシピになっているので、「インスタ映え」もします。
近年、消費者の嗜好が、たんなる消費から「経験、行動型」のアクティビティに移ってきていると言われますが、ミール・キットは、そのような自分で作る喜びを提供しているという点で、最近の流行に乗っているサービスと言えそうです。
投資家目線で見たとき
なぜミール・キットのビジネスが重要なのか?
投資家目線でミール・キットのビジネスを考えた場合、これはリピート・ビジネスであり、ネットフリックス(ティッカーシンボル:NFLX)に似た、サブスクリプション(定期購読)型ビジネスです。しかも金額的にはストリーミング・ビデオなどに比べると最高で20倍近い金額を毎月払うことになるので、これはビッグビジネスに育つ可能性を秘めています。
この点は、当然、アマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)なども注意深く観察していると思います。アマゾンの場合、「アマゾン・フレッシュ」を通じて生鮮食料品のネット通販を試みてきました。しかしアマゾンの野望の大きさから比べると生鮮食料品をネットで販売する試みは、あまり成功しているとは言えません。
だから、アマゾンがブルーエプロンなどのミール・キット業者を買収する、あるいはクローガーのような既存のスーパーマーケットのチェーンがミール・キット業者を買収するというシナリオは、当然、想定されます。
ミール・キット業界最大手の
ブルーエプロンはどんな会社?
ブルーエプロンは、2012年にニューヨークで創業されたミール・キット会社で、業界最大手です。
ブルーエプロンは農家などの食材のベンダーから直接野菜などを購入し、中間業者を介しません。食材のフレッシュさ、安全性などに特別気を配っています。同社は独自の集荷販売網を構築しており、全米の人口の99%をカバーしています。
米国のグローサリー市場は7800億ドルであり、そのうちネット通販は97億ドル、すなわち1.2%に過ぎません。つまりネット通販が、過去に何度も挑戦したけれど成功していない「最後のカテゴリー」なのです。
ブルーエプロンは、「消費者から熱烈に支持されているカルト的なブランドです。また、新しいライフスタイルを提案しており、それに共鳴する消費者もどんどん増えています。
ブルーエプロンの四半期売上高は、下のチャートのように急成長してきました。
2017年第3四半期に売上高が下がっている理由は、2017年6月に当初20ドルで売り出される予定だった新規株式公開(IPO)が、半値の10ドルで値決めされ、予定の調達金額を大幅に下回ったので、慌ててマーケティング費用を絞り込み、その結果、新規顧客の獲得が鈍化したためです。さらに、それと同時に一部顧客の離反があり、それが売上減につながりました。
なお、ブルーエプロンのレシピに対するユーザーの評判は極めて高いです。
しかし、どんなに美味しくて消費者からの満足度が高くても、やっぱり1週間に3回クッキングするのは骨が折れます。だから「とてもじゃないけれど、そんなに頻繁にクッキングできない」という人は、ミール・キットをしばらく試した後、サブスクリプションをキャンセルするわけです。
平均注文価格は、大体57から59ドルあたりで安定的に推移しています。
同様に、顧客当り売上高も安定しています。
ブルーエプロンは、マンハッタン島の対岸のニュージャージー、サンフランシスコの対岸のリッチモンドなどに配送センターを所有しています。現在はそのようなインフラストラクチャを整備し、さらにミール・キットのコンセプトを消費者に広めるためのマーケティング支出が嵩んでいるため、業績的には赤字を垂れ流しています。
下のグラフは、ブルーエプロンのEBITDA(利払い、税金、償却前利益)です。
また、IPOによる資金調達が予定を大幅に下回ったこと、さらにIPO後の業績が悪化し、株価が低迷したことの責任を取ってCEOが辞任しました。CFOを務めていたブラッド・ディッカーソンが次期CEOになります。この関係でブルーエプロンは現在、後任のCFOを探しています。
【今週のまとめ】
ブルーエプロンはIPOの不始末により混乱中だが
M&Aのターゲットとしては魅力的
ミール・キットのビジネスは、巨大なポテンシャルを秘めています。
リーダー企業のブルーエプロンはIPOを巡る不始末で、現在、経営が混乱しています。しかし、同社のサービスやブランドは消費者からカルト的に支持されています。ブルーエプロンのブランドが毀損したわけではないので、同社はM&Aのターゲットとして魅力的です。
ブルーエプロン(APRN)チャート/日足・6カ月(出典:SBI証券公式サイト)※画像をクリックすると最新のチャートへ飛びます。
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