ソフトバンク(9984)が2018年3月期の通期連結決算を発表しました。売上高は前年比2.9%増の9兆1587億円、営業利益は同27.1%増の1兆3038億円(過去最高)、最終純利益は同27.2%減の1兆390億円となりました。この巨大企業は現在、経営の軸足を国内外の携帯電話事業から「戦略的投資事業」へと移す変革期にあります。そのことで決算はますます中身の見えにくい複雑怪奇なものになると、刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』が解説しています。
脱・携帯電話会社化が着々と進行中
ソフトバンクは戦略投資会社になる
ソフトバンクが経営の軸足を「国内外の携帯事業会社」から「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」(以下、SVF)を始めとする「戦略的投資事業」に移し始めています。
携帯事業は国内携帯会社「ソフトバンク」を別会社にして新規上場する計画や、傘下の米携帯会社「スプリント」とTモバイルとの合併交渉(交渉成立後の経営はTモバイルが主導)を進めるなどして携帯事業会社の「切り離し」が着々と進行中です。
一方、軸足を移す「SVF」とは、昨年5月に孫正義社長がサウジアラビアのムハンマド副皇太子(当時)らと10兆円の資金を集めて立ち上げた投資ファンド。発足以来、自動運転、ロボット、ネット通販、最先端医療、産業用IoT、屋内農業など、次世代技術を開発する株式非公開企業に次々と巨額資金を投資しています。
ソフトバンクはSVFが保有する株式の価値を四半期決算ごとに時価評価し、取得金額との差額を連結決算に取り込むことになっています。この「戦略的投資事業」がこれからのソフトバンクの中核事業になります。そのことで、ソフトバンクの経営内容は一般株主にはうかがい知れないものとなりつつあります。
デルタ・ファンドの投資実態と
アリババ株資金化に係る損失の謎
2018年3月期の通期連結決算では、SVF事業として3030億円が営業利益に計上されています。またSVFの保有株式の評価益は3460億円であるとも発表されています。
SVF事業には、SVFと関連する「デルタ・ファンド」が含まれています。ソフトバンク本体がSVFに出資している資金は、すべてこの「デルタ・ファンド」を通じて投資されているようです。当初から懸念されている利益相反を覆い隠すための迂回措置と思われますが、情報開示が少なすぎてSVFの事業の実態はほとんどわかりません。
もっとも複雑怪奇なのは、当期純利益に4248億円もの「アリババ株式の資金化に係るデリバティブ損失」が計上されていることです。
ソフトバンクは2016年6月にアリババ株を100億ドル分売却した際、34億ドル分は単純売却でしたが、66億ドル分については「2019年6月の償還時に現金で償還するかアリババ株で償還するかを“ソフトバンクが選べる”他社転換社債」を発行して現金を得たのです。
つまりアリババ株の資金化でソフトバンクに「デリバティブ損失」など発生するはずがないのになぜ累計7141億円ものデリバティブ損失を計上しなければならないのでしょうか(ソフトバンクは2017年3月期にもこの件で1574億円の損失を計上しています)。
このデリバティブ取引は2016年6月の株主総会前日に辞任したアローラ副社長が主導していたはずで、「何かが隠れている」ような気がします。
携帯事業会社ほど先行きが読めない
投資会社ソフトバンクの株価の行方
国内携帯電話事業は5%の減益だったとはいえ6830億円の営業利益が出る「規制に守られた高収益の寡占事業」であり、米スプリントも経費削減効果が出てようやく増益となったところでした(Tモバイルとの合併が決まり連結対象から外れれば3.4兆円の有利子負債が消え利息支払い負担が減るのは「朗報」ですが)。
これを切り離して投資事業を中核に据える方針に転換したソフトバンクの強気の戦略は、はたして成功するでしょうか? 少なくとも投資会社としてのソフトバンクの株価は、保有ポートフォリオの価値を大きく上回ることはないはずで、携帯電話事業の伸びしろが反映されてきた今までに比べると評価が難しくなります。
参考記事:
・米通信会社スプリントとTモバイルが合併合意。ソフトバンクが経営権をあっさり諦めた理由(2018年5月3日)
・ソフトバンク(9984)傘下の携帯事業会社、上場にはちょっと「問題」がある!?(2018年1月22日)
・孫正義社長は相変わらずの強気だけれど…ソフトバンク(9984)は大丈夫なのか!?(2018年8月15日)
本連載は刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』から一部を抜粋・要約してお届けしています。本編メルマガではソフトバンクの決算内容をさらに詳しく分析していますので、興味のある方はぜひお読みください。
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