ソフトバンクグループ(以下、ソフトバンク)子会社で米携帯電話第4位の「スプリント」と、ドイツテレコム子会社で同3位の「TモバイルUS」が2019年前半の合併に合意したようです。刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』が、これまでの経緯と孫社長の思惑について分析・解説しています。
Tモバイルとの合併は、ソフトバンクの
スプリント合併直後から模索されてきた
米国の携帯電話市場は「2強2弱」と言われ、ベライゾンとAT&Tがトップを争い、Tモバイルとスプリントは苦戦しています。次世代通信規格「5G」を巡っては巨額の設備投資が必要となり、Tモバイルとスプリントは単独で生き残るのは厳しいと見られています。
そのため両者はここ数年で何度かの合併交渉を行ってきましたが、さまざまな事情があって実現してきませんでした。
●ソフトバンクがスプリントを買収(2013年7月)
孫正義社長はスプリントを買収した翌年の夏Tモバイルも呑み込み「3強」になろうとしたが、FCC(連邦通信委員会)が「自由な価格競争が阻害される」と反対し断念。その後Tモバイルはスプリントを抜き第3位に浮上し差を開げた。
●孫社長がトランプ次期大統領と会談(2016年12月)
トランプが大統領に当選するとソフトバンク・孫社長はすぐに会いに行き、500億ドルの巨額投資と5万人の雇用創出を確約。トランプ大統領もFCC院長に規制緩和派のアジット・パイ氏を指名するなど、再び合併に向けた機運が高まった。
●2度目の合併交渉(2017年6月)
業績や時価総額で大きく劣るにもかかわらず、スプリント(ソフトバンク)が経営主導権の確保にこだわったために破談。
今回3度目となる合併交渉では、スプリント(ソフトバンク)があっさりと経営主導権を諦め、Tモバイル主導での合併を呑んだために合意に至ったとされています。
報道された合併案によると、Tモバイルとスプリントは完全合併して新会社に移行、ドイツテレコム(Tモバイル親会社)が新会社の株式41.7%を、ソフトバンクが同27.4%を保有。残る30.9%が両社の少数株主が保有することになっています。
経営陣は取締役14名のうちTモバイル側が9名、ソフトバンク側は孫社長とクラウレ氏(スプリントCEO)を含む4名だけとなるようです(残る1名は不明)。また新会社の株式はTモバイル1株につき新会社1株、スプリント9.75株につき新会社1株の割合で交付されるとのことです。
これを受けてスプリント株は14%下落、Tモバイル株も6.2%下落しました。両社ともに下落したのは「今回もFCCの承認が得られないだろう」との懸念があるからでしょう。今回は両社とも親会社が外国企業のため、対米外国投資委員会(CFIUS)の承認も必要で、可否は五分五分とされています。
孫社長にはすでに携帯事業に情熱がなく
AIやEVなどの新規投資に軸足か!?
ソフトバンクは経営主導権を実質放棄した代わりに、4兆円をこえるスプリントの有利子負債(年間の利払いが2700億円だそうです)を新会社に押し付け、膨大に必要となる5G関連の投資についても直接負担を免れます。直近で14兆円もある連結有利子負債は、かなり軽減できるでしょう。
ソフトバンクは本年初め、国内携帯電話事業を別会社にして新規上場させ、その3割程度を売り出して2兆円ほどを資金化する計画を発表していたのは記憶に新しいところです。この辺りから推察するに、孫社長はすでに内外の携帯電話事業に対する情熱を失っているのではないかということです。これまでの携帯電話事業に対する投資をせっせと回収して、AIやEVなど新規事業への投資に軸足を移していると見られます。
今回の案件は完全株式交換なので「投資収益」を弾くことは難しいものの、スプリント買収時はドルを80円台で事前調達していたはずで、少なくともプラスであることは間違いありません。
とはいえ、ソフトバンクの収益や財務体質の拡大を支えてきたのは「規制に守られて大儲けが約束された官製寡占事業」だったはずです。ある意味で安定的でおいしい事業のはずですが、これをも投資の回収対象としていることは、やや気がかりです。
これまで膨大な利益を提供してくれた国内利用者に十分還元をすることもなく、世界中の「まだまだこれから」という新規事業ばかりに巨額資金をつぎ込む孫社長の姿は、見ていてやや不安になります。
ソフトバンクがボーダフォンを買収し国内携帯電話事業に参入すると名乗りを上げたのは2006年3月でした。あれから12年がたちスマートフォンの普及や格安SIM会社の隆盛など国内の携帯電話事業・勢力図も大きく変わっています。孫正義社長は昨年スタートした10兆円の「ビジョン・ファンド」の投資先選定も急いでいるようで、今後の展開が大いに注目されます。刺激的なメールマガジン『闇株新聞プレミアム』では個人投資家の関心が高い企業の動向についても、新聞や雑誌では読めない掘り下げた記事を配信しています。
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