上場するプノンペン水道公社の職員が団体で申し込み
翌29日は、IPO応募期間の初日。午前10時過ぎにホテルを出て、トゥクトゥクで証券会社に向かう。
店内に一歩入ると、昨日とはうって変わってものすごい熱気だ。工事現場のようだったスペースにはパイプ椅子が置かれ、30人以上の顧客がカウンターに群がっている。呆然としていると、ヘン君が気づいて手招きしてくれた。制服姿の3人組に応対していたのだが、その合い間に私の申込みも処理してくれるらしい。礼をいって、昨日の夜、ホテルで書いた応募書類を渡す。
プノンペン水道公社の分厚い目論見書にもちょっと目を通してみたのだが、プノンペンで水道事業をしているということしかわからなかった。そもそもなんで、IPO第一号が水道局なんだろう。だが今回は、投資というよりも記念受験のようなものなので、たくさん並んでいるリスク項目も気にしないことにする。
プノンペン水道公社の公募価格は1株6300リエル。1円が約50リエルだから1株およそ126円になる。応募倍率は高くなりそうだが、とりあえず1000株=630万リエルを申し込んでみることにして、ホテルのATMで1600ドルを下ろした。
カンボジアのATMが面白いのは、リエルと米ドルの2種類の通貨に対応していることだ。これはカンボジアがドル経済で、リエル以上に米ドルが決済通貨として広く使われているからだが、100ドル札がATMからふつうに出てくるのはちょっとびっくりする(米ドルで下ろしたのは、リエルではATMの引出し上限を超えてしまうからだ)。
外貨両替はどうするのかと思っていたら、ヘン君はキャッシャーのようなものが置かれたカウンターの奥を指差した。そこがアシレダ銀行の出張所になっていて、外貨両替や応募資金の入金もできるのだという。ただし、このカウンターで入金するのは私のような“小口”の顧客だけで、後から来たポロシャツ姿のカンボジア人男性は、手提げカバンから輪ゴムでとめた100ドル札の分厚い束を取り出したところ、丁重に奥の部屋に案内されていった。
1600ドルを約640万リエルに両替し、そこからIPOの証拠金630万リエルをアシレダ証券の口座に入金する。応募受付票をもらえば手続きは完了で、あとは抽選結果が発表される4月11日を待つだけだ。結果は証券取引所のホームページに掲示されるという。
私が帰るときも、ヘン君はまだ制服姿の3人組の相手をしていた。気がつくと、店内にはほかにも同じ制服を着たグループがいる。みんな、左腕に「PPWSA」の肩章を付けている。プノンペン水道公社(Phnom Penh Water Supply Authority)の職員が団体で、勤務時間中にIPOの申込みに来ていたのだった。
なにかが間違っている気もしないでもないが、職員がIPOに応募するのは将来性があるからだろうと前向きに解釈することにする。
証券会社の前にはピカピカの新車が並んでいて、トゥクトゥクを待たせていたのは私だけだった。ちょうど昼時になったので、“プノンペンの表参道”240Streetにカンボジア料理を食べに行く。
食事の後、ホテルで荷物をピックアップして空港に向かう。トゥクトゥクのエンジンがずっと変な音を立てていて、大丈夫かと思っていたら、空港のゲートが見えたあたりで突然ものすごい音がして止まってしまった。どうやらエンジンが焼き切れたらしい。
道路の真ん中で立ち往生したトゥクトゥクを、運転手といっしょに押して路肩に寄せる。けっきょく、空港までスーツケースを引きずって歩くことになった(あの運転手、商売道具を壊してしまって大丈夫かな)。
こうして、“歴史的”なカンボジアIPO第一号の申込みは無事に終わったのだった。
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