<今回のまとめ>
1.米国株のバリュエーションは適正
2.高PER株を見る投資家の目は厳しくなる
3.米国の消費は堅調と予想
4.大統領選挙の年の株式市場は堅調
5.米国では利上げ後、ドル安になるのが通例
6.ゴールド、原油、新興国には強気
7.工業株に注目せよ
■2016年の予想
2016年の米国株は堅調な消費とドル安による企業業績の伸長に支えられ+8%前後上昇すると見ています。
ドルは対円で-3%程度のドル安になると予想します。
ドル安局面では、ドル建てで取引されているゴールドや原油の価格は反発しやすくなると思います。したがってそれらについては強気です。
日本株は円安が株価の支援材料になってきたので、円高になると上昇しにくいと思われます。2016年は±0%程度に終わると考えています。
■米国株は割高でも割安でもない
現在、米国の株式市場は21倍の株価収益率(PER)で取引されています。下は1990年までさかのぼった、米国の株価収益率のグラフです。
上のグラフのうち、2008年はリーマンショックで企業業績が落ち込み、その結果、株価収益率が異常に高くなりました。2001年はドットコム・バブルの崩壊と、9/11同時多発テロがあった年です。
この二つの年は特殊事情があったので、それらを除外して考えると、S&P500指数のこの期間の平均PERは22倍になります。つまり現在の水準とほぼ一致しているわけです。このことから現在の米国のPERは、特別割高でもないし、割安でもないと言えると思います。
■株価評価は今後下がる
なお、米国の株価評価は今後下がる、別の言い方をすればPERは下がると思います。これは専門用語では「マルチプル・コントラクション」といいます。
その理由は12月16日の連邦公開市場委員会(FOMC)を皮切りに連邦準備制度理事会(FRB)は利上げに転じているからです。
一般に、株式と金利は競争関係にあると理解されます。なぜなら株式投資というリスクをわざわざ取らなくても、銀行にお金を預けただけで魅力的な利子が付くのなら、そちらの方が有利だからです。金利が上がるのであれば株式の相対評価が下がる……それがマルチプル・コントラクションという概念の理論的な根拠です。
ただ現状としては預金に付く利子はスズメの涙ほどです。だから利上げが開始されたからといって株式から得られるリターンが、銀行預金に負けるということは、いまの時点では心配する必要はありません。
だから気を付けないといけない点としては高PER株を見る投資家の目は、2016年には厳しくなるという点です。
下はレラティブPERのグラフです。計算方法は、その年の個別株の平均PERをS&P500指数の平均PERで割算します。その結果が「1」であれば、個別株のPERは市場平均と一致していたという風に解釈するわけです。
するとレラティブPERが「1」よりも大きければその株の評価は高くなっていると言えるし、逆に「1」以下なら低評価に甘んじていると言えるわけです。
リーマンショック後の世界的な景気の停滞期には、景気全般が同であろうと、個別企業の勢いの強さで、自らの運命を切り拓いてゆける企業に市場は高い評価を喜んで付与しました。上の例で言えばスターバックス(ティッカーシンボル:SBUX)やアルファベット(ティッカーシンボル:GOOGL)がそれに該当します。
しかし今回、FRBが利上げに踏み切れたということは、米国経済全般が元気を取り戻してきていることに他ならないわけですから、個々の企業の成長が以前ほどの希少価値を持たなくなると予想されます。
したがってひとつの投資戦略として高PER株の組み入れを減らし、低PER株を増やすということが考えられます。
■消費は堅調と予想される理由
消費は米国経済の70%を占める極めて重要な要素です。2016年の消費は、それなりに堅調だと予想されます。
そう考える第一の理由は失業率が5%と、低い水準にある点です。また平均時給もだんだん上昇し始めています。消費者は、職が安定し、お給料が上がりはじめている局面では将来に対し楽観的になります。
加えて現在、全米平均レギュラー・ガソリン価格は、ちょうど2ドルで取引されています。これは低い水準です。
日本の首都圏で通勤といえば電車が一般的ですが、アメリカ人はもっぱらクルマ通勤です。そのことはガソリン代が高いからといって運転を止めることは出来ないことを意味します。逆に昨今のガソリン価格の下落は、消費者にとってプラスです。
これらのことから米国の消費の先行きに関しては、楽観的で良いと思います。
■大統領選挙と株式市場
2016年は大統領選挙がある年です。過去の大統領選挙の年の株式市場は、平均して+5.8%上昇しました。
つまり大統領選挙のある年の米国株のパフォーマンスは総じて良いわけです。
■ドル
ドル/円相場が変動相場制に移行したのは1971年のニクソン・ショックの後です。それ以来、FRBが金融緩和から金融引締めに転じたケースは8回ありました。そのうちの6回は利上げ後1年でドル安になっています。
平均すると-8.5%のドル安でした。
このうち変動相場制移行直後の1970年代のドル安は、構造調整の意味合いが強かったので下落幅がとりわけ大きかったです。現在はこのような大幅なドル安は起こりにくいと思いますので、最近の例の方が参考になるでしょう。
今回もドル安になるのであれば、過去2年間ドル高に苦しんできた米国企業はほっと一息つけることを意味します。
■ドルとコモディティ価格
ゴールドや原油はドル建てで取引されています。この関係でドルが弱含むと金価格や原油価格は上昇しやすいです。つまり逆相関の関係があるわけです。
もし2016年はドル安の年になるのであれば、この理屈からいけばゴールドや原油は反発することが予想されます。
■ドルと新興国
米国の投資家はドル高局面では海外投資、とりわけ新興国への投資を絞り込むことで知られています。逆にドル安になるのであれば新興国への投資には積極的になります。
2015年を通じて新興国通貨は大きく売られました。このことはそれらの新興国の輸出競争力は逆にUPしたことを意味します。米国の景気が良いのであれば、米国に対する輸出も拡大することが期待されるわけで、これは新興国株式にとっても強気材料です。
■どんな銘柄が良いか?
さて、2016年はどんな銘柄に投資すれば良いのでしょうか?
一般に米国の景気が現在のように拡大基調にあり、金利が上昇しはじめる局面では、工業、素材、消費循環、エネルギーなどのセクターがアウトパフォームしやすいことが知られています。
そこで二つ銘柄のアイデアを出します。
一つ目はプラクセアー(ティッカーシンボル:PX)です。
同社は窒素、酸素、水素などの産業用ガスの大手です。半導体、飲料、医療などが顧客になります。製造業では金属の切断や溶接の過程で同社のガスを使います。食品では冷凍や飲料向け炭酸などで同社のガスが活躍します。
ガスのビジネスは、それをどうやって顧客に届けるか? というロジスティクスが重要になります。プラクセアーの場合、下に見られるような分散された経路でガスを顧客に届けています。
産業用ガスのビジネスは、他の化学会社よりも需要が安定しています。その関係でプラクセアーの業績も安定的に推移しています。
次の銘柄はインターナショナル・ペーパー(ティッカーシンボル:IP)です。
同社は世界最大級の製紙会社です。段ボールなどの工業向け梱包、印刷用紙、紙コップなどの消費者向け紙製品が主力です。
このうち工業向け梱包の北米でのマーケットシェアは32%で首位です。同社の工場は最もローコストで、競争力があります。それは税引き・利払・償却前利益マージン(23%)にも反映されています。
段ボールの需要はリーマンショック後、横ばいを続けていますが、価格はじりじりと上昇しています。今後、ボリュームは着実に増加してゆくものと思われます。
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