【今回のまとめ】
1.アベノミクスの主眼はインフレを起こすことにある
2.日本だけでなく世界の中央銀行が通貨の交換価値の引き下げを狙っている
3.今は世界的にインフレではない
4.産業の現場からは既に好景気へ向けたシフトの声が聞こえている
5.原油価格が100ドルを超えるかがポイントになる
アベノミクスのねらいは「インフレ」を起こすこと
「願い事をするときは、気をつけろ(Be careful what you wish for.)」という格言があります。これは本当に自分の願いが叶ってしまったとき「こんなはずじゃなかった!」と後悔することが多いという意味です。
「アベノミクス」は緩和政策の拡大を通じてデフレから脱却することを目的としています。デフレとは、物価が下がる状態を意味します。年金生活者のように一定の収入が確実にあることがわかっている人にとっては、物価が下がることは歓迎すべきことです。
その半面、企業がデフレ下で着実に利益を伸ばしていくのは並大抵のことではありません。だからデフレ下では「守りの経営」になりがちです。
これまでのところ、アベノミクスは円安、株高の演出に成功しています。個人投資家や企業の経営者もいくぶん元気を取り戻したのではないかなと推察します。行き詰ってしまった時、今回のように何か新しいことを試してみるという態度は、私は重要だと思います。
ただ、アベノミクスの最終目的はインフレを起こすことですから、「もし本当にインフレになったら、どうなる?」 ということについて、今から考えておく必要があると思うのです。
アベノミクスは世界の後追い
まず、アベノミクスは、世界の中央銀行の金融政策の後追いであると言えます。
なぜなら、すでに米国や欧州は大胆な緩和を実施しているからです。欧米の緩和はあからさまに通貨を「ディベーシング(debasing)」することを目的としています。ディベーシングとは「ベースを下げる」という意味で、具体的には通貨の交換価値を下げることを指します。
通貨の交換価値を下げることとは、他国通貨との交換価値を下げること(=通貨安)も意味しますし、モノと交換する場合も交換価値が下がることを意味します。
たとえば同じ1kgのお米を買う場合、以前よりたくさんのお金が必要になるということです。以前よりたくさんのお金が必要になるということは「モノの値段が上がっている」と錯覚しがちですが、逆に言えばディベーシングによってお金の価値が下がったことに他ならないのです。
もっと言えば、日米欧の中央銀行がじゃぶじゃぶお金を供給して自国通貨の交換価値を下げることに腐心すれば、いずれ世界的にお金の価値が下がってしまうということです。
今は“パーフェクト”な世界だが…
それでは世界の現状はどうなのだ? ということですが、今のところ、世界的なインフレは起こっていません。下のグラフはユーロ圏の消費者物価指数ですが、むしろインフレは鈍化しています。これは欧州財政危機の関係で、まだ欧州では景気が悪いからです。

状況は米国でも同じです。米国の消費者物価指数も低い位置で安定的に推移しています。

それでは、インフレは来ないのでしょうか?
私は、そうは思いません。
先週発表された一連の製造業購買担当者指数のレポートを読むと、BRICs諸国を中心に今後の景気拡大に向けて新規受注と仕入れ拡充が増えていることが報告されています。下のグラフは2年間のスランプを経験した中国です。このところ俄然、調子を取り戻しています。

また、鉄鉱石、エネルギー、穀物などを通じて中国と関係の深いブラジルでも新規受注は好調でした。それを背景に製造業購買担当者指数は強含んでいます。

一方、米国に目を転じるとISM製造業景況指数は急伸しています。

さらに、ユーロがしっかりしている関係で、メーカーのマインドが心配されていたドイツでも、製造業購買担当者指数は思いのほか強かったのです。

このように、世界的に製造業は今、アクセルを踏み込みはじめているのです。
原油価格が100ドルを超えるかに注目
さて、インフレが起こるかどうかの見極めですが、私は典型的な「好景気の時にパフォーマンスがよくなるコモディティ」である原油価格に注目しています。
ザックリした言い方をすれば、先週末(2月1日)に97.77ドルだった「ウエスト・テキサス・インターメディエーツ(=WTI:NY原油先物)」が100ドルを超えるかどうかに注目しています。
なぜならWTIの100ドルというのは、一般の投資家がインフレを意識し始める水準ですし、WTIはチャート的にもゴールデン・クロス(=50日移動平均線が200日移動平均線を下から上へ突き抜けること)を至現したばかりだからです。
コモディティ関連株で気になるところ
一方、コモディティ関連株で見ておきたい銘柄としては、銅を生産するフリーポート・マクモラン・コッパー&ゴールド(ティッカー:FCX)、アルミニウムのアルコア(AA)、ブラジルの鉄鉱石の会社であるバーレ(VALE)、同じくブラジルの石油会社ペトロブラス(PBR)、鉄鋼のアルセロール・ミッタル(MT)などは割安に放置されています。このあたりの値動きにも注目しています。
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