株ニュースの新解釈

フィンテックの次は不動産テックが到来か?
自宅売却時に「おうちダイレクト」を利用して、
不動産のネット売買について感じたこと

【第141回】 2016年3月9日公開(2016年7月1日更新)
保田 隆明
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 フィンテックが盛況な中、次なるものとして「不動産xテクノロジー」で不動産テックが登場と先般の日経ビジネスの特集で取り上げられていた。これまで、アナログな取引が中心だった不動産業界でも、インターネットを活用したサービスが相次いで登場し、消費者の利便性が高まるというものである。ちょうど最近私自身、自分の住居用の不動産を売買したこともあり、その経験を交えながら、今回は不動産テックの可能性について考えてみる。

フィンテックは1.0から2.0へ
“不動産テック”はまだフィンテック1.0のステージ

 フィンテックの原型は、ネットバンク、ネット証券、そしてネット保険である。それらはすべて既存のビジネス(銀行、証券、保険)をネット上に移管して、より消費者にとってコスト面で魅力を提供するというものだ。基本的にはネット化によるコスト低減と、店舗に行かなくて済むという時間的メリットである。これらをフィンテック1.0と位置付けよう。

 一方、最近賑わっているフィンテックは、新たなビジネスやニーズの創出、発掘を行っている。家計簿管理、資産管理などは、これまで各消費者がローテクに、やり方もそれぞれに行っていたが、それをネット上で一元管理することで新たなビジネスを創出している。クラウドファンディングや各種決済サービスにしても、従来存在しなかった新たなビジネスを作り出した。これらはフィンテック2.0と言える。

 そこに登場した不動産ビジネスのネット化。例えば、昨年登場した「おうちダイレクト」は、ソニー不動産とYahoo!Japanが共同で運営するものだが、中古不動産の売買をある程度まではネット上で実現しようとしている。

ソニー不動産とYahoo!Japanが共同で運営する「おうちダイレクト」は不動産価格の透明化を標榜している

 「おうちダイレクト」の狙いはいくつかあるが、不動産仲介会社が手数料を買い手と売り手の両方から取る利益相反を改善しようとしている点、そして、不動産価格の透明化が大きな特徴だ。売りたい人は高く、買いたい人は安く買いたいので、本来は、売り手と買い手で別々の不動産仲介会社がついて、エージェント(代理人)として機能してくれるのがあるべき姿である。そうすれば、売り手は高く、買い手は安く買うという「交渉」が理論的には可能だ。

 一方、今の業界慣行である仲介会社が売り手と買い手の両方の面倒を見る場合、「交渉」ではなく落としどころを探って取引をまとめる、という形が多い。まとめられやすい方にしわ寄せが行きやすい。おうちダイレクトの場合は、売り手の手数料をゼロとすることで、不動産仲介会社の双方代理の悪しき業界慣行に風穴を開けようとしている。消費者にとっては歓迎すべきことである。

 価格の透明性に関しては、マンションの物件名と部屋番号を打ち込めば自動的に適正な価格を提供してくれる。これは最近の取引事例などから自動的に算出されるものであり、同じ物件でも時期が経つと価格は変わる。ただし、価格はピンポイントで表示されるのではなく、上限と下限のレンジ(価格帯)で表示されるため、最終的な販売価格は売主が自分の判断で、ピンポイントで判断する必要がある。

 売買をネット上で可能にする、価格を透明化する、これらはフィンテック1.0の範疇である。しかし、これまでは、それらすらままならないぐらい不動産はネットでは扱いにくい商材だったのだ。

 その理由は、高額であること、他に同じ商品が存在しない唯一性、そして、地域性だ。

不動産の売買で一番大きい要因は「地域性」
購入者のほとんどは近いエリアに在住している

 実は昨年末、ちょうど自宅を売却することになったので、試しにおうちダイレクトに出品してみた。

 まだ同サイトがオープンして間もない頃だったので、掲載物件数も、そしておそらくサイトへのアクセス数もさほど多くない状況ではあったが、売り手の仲介手数料が無料というのはメリットが大きく、ここで取引がまとまってくれれば! とひそかな期待を抱いた。

 が、結論としては、引き合いは全くなかった。

 実は筆者は自宅用不動産を売買するのは今回で3回目であり、これまでに不動産売買についていろいろなことを体験してきた。これまでに学んだことの一つは、不動産購入者の多くが、当該物件に近い地域に住んでいる人たちであるということだ。

 そこで、早々とおうちダイレクトへの出品を取りやめて、通常の不動産仲介会社3社に売却を依頼した。すると、すぐに都合4件の内見リクエストが入り、そのうち1件からは内見後数時間で契約の申込があった。もう1件の方も契約をしたいということだったが、タッチの差で申込2番手となった。週末にチラシ掲載を予定していたが、その必要もなくなり、仲介会社が見込み客リストに電話するだけで内見、契約とすべて完了してしまった。

 内見に訪れた4件の方々はすべて近隣在住者であった。親戚がこのマンションに住んでいる、保育園のママ友が住んでいておうちに遊びに行ったことがあるので、大体の様子はわかっているなど、本マンションやこのエリアに対して皆なんらかの情報は持っている状態であった。

 また、子供のいる世帯の場合は、学校や保育園の転校、転園を考慮すると、おのずと動けるエリアは限られてくる。不動産は地域性が非常に大きく左右する商材なのである。

 通常のフィンテック商品の場合、地域性が影響するものは非常に少ない。それゆえに、ネット上での取り扱いに便利なのだ。

 クラウドファンディングの場合は、資金調達者と資金提供者の距離が近いことが海外の先行研究では明らかになっているが、その程度である。しかし、不動産の場合は、この地域性が大きく影響するため、ネットで扱うことの親和性は通常の金融商品ほどには高くない。

 また、金融商品の場合は誰から購入しても変わらないが、不動産の場合は数多くの物件を内見してきた、そして数多くの顧客の反応を見て来た仲介会社の営業マンの知見というものは、結構頼りになる。

流動性リスクが高く市況も変化しやすい
不動産は「持たないに限る」がそうも言ってられない

 毎回自宅用不動産の売買をするたびに思うのは、流動性リスクが高いことである。

 中古物件を売る側にとって、最も困るのは売れないことだ。もちろん、売却価格が下がることや仲介手数料が取られることも困ると言えば困るが、売却すると決めたなら、何が何でも早く売却したいのだ。

 不動産は売り出してから、買い手がつくまでにしばらく時間がかかる。この間に不動産市況が変動するリスクがある。買い手がついても、その買い手が金融機関に融資の申し込みをして、審査が通らない可能性もある。そうなると、また売却活動はイチからの再開となる。

 売却手数料を節約するためにネット掲載のみで首を長くして内見&購入の申し込みを待つのと、売却手数料はかかるが短期で売却できるのと、どちらを選択するかという問題に我々は直面することになる。市況が変わって売値が数パーセント下がってしまえば、手数料程度すぐに吹き飛ぶ。

 もっとも、こんなにも流動性リスクの高いものは、持たないに限る。賃貸物件にすればいい。固定資産税も維持費もかからない。

 しかし、理想の賃貸物件に出会うことは、これまた非常にハードルが高い。そうして筆者のように半ば強制的に住宅を購入せざるを得ない、という人は少なくないだろう。

唯一無二の中古物件をネットで売買するには
第三者の評価や認証があると便利

 今回、物件の売却をまとめてくれた仲介会社では、ちょうど半年ほど前に同じマンション内の全く同じ間取りの物件の仲介をしたそうだ。当然、その時の売却価格と物件の中身は知っている。

 実は、その半年前に売れた物件は、保存状態が悪かったそうである。それに比べると、今回の我々の売却物件は非常にキレイとのことであった。内見にいらっしゃった方々も、皆口々に物件の状態がよいと言って、その部分で評価が非常に高かった。

 自分たちは普通に日々暮らしていただけなので、物件の保存状態がよいと言われて初めて、そうなのか、と気づくことができた。これは、自己評価ではなかなか難しい。もし自分たちで自覚していたとしても、ネット上で「きれいですよ」と自己評価によるアピールをしたところで、なかなか信用してもらいにくい。

 このように考えると、ネットで物件を売買するにあたっては、第三者による評価や認証のようなものが欲しくなる。ただ、その評価や認証を取るコストや手間が面倒なので、これをネットの売買プラットフォーム側で簡潔に手配してくれると助かる。

 また、実際におうちダイレクトで出品した際は、物件のウリ文句を自分で書き込んだのだが、これが実は結構面倒だ。一度入力したものの、この表現はNGだ、こういう情報を加えてくれなどの指導も入る。

 一方これが、近隣の住民が潜在購入者の場合は、こまごまとした情報はいらない。ある程度の情報は、すでにそれら潜在購入者側が持っているからだ。ネットに書き込む物件情報のうち、エリアに関する情報はプラットフォーム側でまとめてくれるとより売却者は楽になるであろう。

不動産テック成功には3つのハードルクリアが必須
賃貸仲介者が新たな担い手になり得る可能性も

 以上のように考えてくると、不動産テックが成功するには、高額であることに起因する流動性リスク、地域性、唯一無二性という三つのハードルをクリアしないといけない。これは容易ではない。

 しかし、不動産仲介会社の双方代理の問題は解決したいし、不動産売買という我々の人生において最も大きな買い物の満足度をもっと上げたいというのは、消費者みなの共通の思いである。そこに風穴を開けて、新たなビジネスを作りうるのはベンチャー企業のみである。

 したがって、ウーバーやAirbnbのような破壊者が出てくればと願うのだが、ウーバーもAirbnbもサービスそのものの料金はお手軽価格なのである。その意味では、不動産業界の破壊者たるには、売買の仲介よりも、賃貸の仲介からエントリーするほうが成功の確率は高いのかもしれない。

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