ザイスポ!
【第17回】 2012年5月20日 橘玲

[橘玲の海外投資の歩き方]
“歴史的”なカンボジアのIPO第1号を体験してきた

橘玲の海外投資実践編

 私が前回プノンペンを訪れたのは5年前で、そのときはスーツケースがバンコクの空港に置き去りにされてしまった。しかたがないので市場で下着や衣類など必要最低限のものを買い集めたのだが、食事をしようにも路上の屋台か、雑貨屋の片隅にテーブルを並べたような店しかなかった。ところがいまや、いたるところに地元向けのファストフードやレストランがある。 

 アシレダ証券は町の中心部からすこし離れた幹線道路沿いにあり、ビルの前に警備員が所在なげに立っていた。なかに入ると左手が窓口カウンターで、あとはがらんどうだ。

アシレダ証券の外観 ((Photo:©Alt Invest Com) )

 奥の壁にモニターを取り付けるため、工事業者が寸法を測っている。ここに株価ボードを置き、その前に椅子を並べようとしているようだ。そのうちドリルで壁に穴を開けはじめ、ものすごくうるさい。

アシレダ証券 IPO応募開始前日の内装工事(Photo:©Alt Invest Com)

 口座開設を手伝ってくれたのはもの静かなヘン君で、外国人顧客にも慣れているらしく、てきぱきと事務手続きを進めてくれる。だがそれでも、証券取引委員会への投資家番号申請書や系列のアシレダ銀行ACLEDA Bankへの口座開設申請書など、とにかく書類が多いので時間がかかる。

 しばらく携帯で話をした後、ヘン君が申し訳なさそうに、「銀行口座の開設には、カンボジア国内の住所証明が必要なんだそうです」という。

 「日本から来たから、カンボジアに住所なんてないよ」とこたえると、「それはわかっているんですが、銀行の担当者が、規則上、住所証明書類がないと口座開設できないといっているんです」と説明された。

 「だったらどうすればいいの?」と訊くと、泊まっているホテルの宿泊証明で代用できるという。それならなんとかなりそうだが、いずれにしてもいちどホテルまで戻らなければならない。

 ヘン君から、IPOの第1号案件となるプノンペン水道公社の分厚い英文の目論見書と応募書類をもらう。ここまでで1時間ちょっと。9時過ぎにホテルを出たのに、すでに昼前になっている。

 私のほかにはカンボジア人の顧客が2組ほどで、店内は閑散としている。あいかわらずドリルの音がうるさい。なんだか工事現場に来たような感じだ。