2022年の株式相場は世界的なインフレと金融引き締め、ロシアによるウクライナ侵攻などで大きく揺れた。IPO(新規株式公開)を巡っても国内外で減速が報じられたが、年間データを見るとIPO株投資のメリットは引き続き大きいことがわかる。今回はそうしたデータを用いながら2022年のIPOを振り返るとともに、上場候補企業を挙げるなどして2023年のIPO市場を展望する。
2022年は前半こそ上場中止が相次いだが、
最終的に91社が新規上場して一昨年並みの水準キープ
まずは年間のIPO件数だが、2022年は91社と2021年の125社に比べ34社減った。ただ、2021年については東証の市場再編に絡んだ駆け込み上場が多かったと見られており、2022年のIPO件数が例年より少なかったわけではない。
実際、2022年は世界的にグロース株(成長株)の下落に伴いIPO市場全体が急減速したが、日本の年間IPO件数は下のグラフのように2015~2020年の水準をキープしており、IPO株投資の機会が大きく損なわれたわけではないと言えそうだ。
それに春先こそ上場を中止するIPO銘柄が相次いだが、年後半になると10月12日上場のソシオネクスト(6526:公開規模768億円)、12月14日上場の大栄環境(9336:同498億円)やスカイマーク(9204:同374億円)といった比較的大型のIPOが登場。IPO株の需要が回復し、企業が上場する環境も改善してきたことがうかがえる。
年間の勝率は約8割、初値騰落率は例年並みなど
IPOの初値パフォーマンスも引き続き堅調!
次に公開価格に対する初値の騰落状況(勝率)だ。2022年に初値が公開価格を上回ったのは72社でIPO全体の79.1%にあたる。こちらもグロース株安の影響で年初から立て続けに公開価格割れが発生したが、2022年を通して見ると「勝率8割前後」を維持している。
年前半(1~6月)に11件の公開価格割れが発生する一方、年後半(7〜12月)は7件に減少し、やはり一時的に悪化したIPO株を巡る環境が改善傾向にあることがわかる(※年後半の公開価格割れは大半が12月上場銘柄で、IPOラッシュだった影響も大きい)。実際に、通常、大型案件は株式需給の面で初値が振るわないことも多いが、年後半に上場したソシオネクスト、大栄環境、スカイマークの3社はいずれも公開価格を上回った。
■公開価格に対する初値の勝率と平均騰落率の平均(2011〜2022年) | ||||||
上場年 | 初値> 公開価格 |
初値= 公開価格 |
初値< 公開価格 |
合計 | 勝率※1 | 平均騰落率※2 |
2011年 | 19 | 3 | 14 | 36 | 52.8% | 22.2% |
2012年 | 37 | 0 | 9 | 46 | 80.4% | 49.4% |
2013年 | 52 | 1 | 1 | 54 | 96.3% | 120.8% |
2014年 | 59 | 3 | 15 | 77 | 76.6% | 91.1% |
2015年 | 82 | 2 | 8 | 92 | 89.1% | 87.5% |
2016年 | 67 | 1 | 15 | 83 | 80.7% | 71.4% |
2017年 | 82 | 0 | 8 | 90 | 91.1% | 112.4% |
2018年 | 80 | 1 | 9 | 90 | 88.9% | 104.9% |
2019年 | 76 | 1 | 9 | 86 | 88.4% | 74.8% |
2020年 | 69 | 1 | 23 | 93 | 74.2% | 129.9% |
2021年 | 103 | 2 | 20 | 125 | 82.4% | 56.2% |
2022年 | 72 | 1 | 18 | 91 | 79.1% | 51.8% |
※1 勝率は初値が公開価格を上回った件数の割合。※2 平均騰落率は各銘柄の初値騰落率の相加平均。 |
一方、初値の平均騰落率は+51.8%で、こちらも2021年(+56.2%)並みに堅調だった。勝率と利幅の両面でIPO株投資の魅力は健在と言えるだろう。
ANYCOLORが約3.1倍、ウェルプレイドRが約5.3倍など、
3社のIPO株が公開価格の3倍以上の初値を付ける
次に、個々の銘柄の初値騰落率について見ていこう。2022年を通して見ると、公開価格の2倍以上の初値を付けた銘柄は17社、さらに3倍以上の銘柄は3社あった。
2022年の初値騰落率のトップ10は以下の表の通り。
■2022年・IPOの初値騰落率トップ10 | |||||
順位 | 銘柄(コード) | 上場日 | 公開価格(円) | 初値(円) | 初値騰落率 |
1位 | ウェルプレイド・ライゼスト(9565) | 11/30 | 1170 | 6200 | +429.9% |
2位 | サークレイス(5029) | 4/12 | 720 | 2320 | +222.2% |
3位 | ANYCOLOR(5032) | 6/8 | 1530 | 4810 | +214.4% |
4位 | スマサポ(9342) | 12/29 | 800 | 2,250 | +181.3% |
5位 | トリプルアイズ(5026) | 5/31 | 880 | 2,200 | +150.0% |
6位 | ペットゴー(7140) | 4/28 | 550 | 1295 | +135.5% |
7位 | アイズ(5242) | 12/21 | 2200 | 5160 | +134.5% |
8位 | BeeX(4270) | 2/24 | 1600 | 3750 | +134.4% |
9位 | unerry(5034) | 7/28 | 1290 | 3000 | +132.6% |
10位 | pluszero(5132) | 10/28 | 1650 | 3805 | +130.6% |
特に注目されたのは6月8日上場のANYCOLOR(5032)。VTuber(バーチャルユーチューバー)グループ「にじさんじ」のマネジメント会社として市場の関心が高まり、公開価格1530円の約3.1倍となる4810円まで初値を伸ばした。さらに、10月に高値1万3790円(取引時間中)を付けており、現在では東証グロース市場の主力銘柄の一角となっている。
また、11月30日上場のウェルプレイド・ライゼスト(9565)の初値は公開価格1170円の約5.3倍となる6200円。初値上昇率は+429.9%で、2020年10月2日に上場したタスキ(2987:初値上昇率+655.2%)以来の高水準だ。ウェルプレイド・ライゼストはカヤック傘下でeスポーツ事業を展開しており、株式市場では新味のある事業内容が物色の材料となったようだ。
2020年といえばIT・インターネット企業を中心とするグロース株の人気が非常に高かったが、その時期以来となる初値上昇率をウェルプレイド・ライゼストが記録したことに、IPO株をめぐる投資家のセンチメント(心理状態)改善が表れている。
主幹事数トップは24社のSMBC日興証券!
ネット証券ではSBI証券が13社でランキング上位に
証券各社の主幹事件数は下表のとおり。
■2022年・IPOの主幹事件数ランキング | |||
順位 | 証券会社名 | 主幹事件数 | |
2022年 | 2021年 | ||
1位 | SMBC日興証券 | 24件 | 26件 |
2位 | みずほ証券 | 19件 | 33件 |
3位 | 大和証券 | 17件 | 16件 |
4位 | SBI証券 | 13件 | 21件 |
5位 | 野村證券 | 11件 | 28件 |
6位 | 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 | 5件 | 5件 |
7位 | 東海東京証券 | 3件 | 4件 |
8位 | いちよし証券 | 2件 | 4件 |
9位 | 岡三証券 | 2件 | 4件 |
※ 国内IPOの主幹事件数を集計し、2件以上の証券会社をランキング。共同主幹事の案件はそれぞれ1件ずつカウント。 |
主幹事証券はIPO株の割当数が多く、その分ブックビルディングでの当選が狙いやすくなる。2022年の主幹事証券のトップ5は、順位の変動こそあったが前年と顔ぶれは変わらず。24社でトップとなったのはSMBC日興証券で、ソシオネクスト(6526)、大栄環境(9336)といった大型IPOに加え、初値上昇率ランキングに入った7月28日上場のunerry(5034)や10月28日上場のpluszero(5132)の主幹事証券も務めた。
SMBC日興証券にみずほ証券と銀行系の証券会社が1位、2位を占めたが、銀行との連携による案件発掘などの取り組みが奏功したとみられる。この2社は今後も主幹事獲得に期待できそうだ。
全体のIPO件数が前年より減るなかで、主幹事数を17社に増やした3位の大和証券は、スカイマーク(9204)やANYCOLOR(5032)、それにメディア投稿プラットフォームとして知名度が高い12月21日上場のnote(5243)などの主幹事証券を担当した。
一方で野村證券は主幹事数こそ11社とやや減った形だが、6月27日上場のサンウェルズ(9229)や6月28日上場のM&A総合研究所(9552)といった機関投資家からの評価が高く、株価も大きく上昇した銘柄を手掛けている。
ネット証券では、ウェルプレイド・ライゼスト(9565)などの主幹事証券を務めたSBI証券が、13社と引き続きランキング上位に食い込んでいる。SBI証券はIPO全91社のうち89社の幹事団に入っており、ほぼすべてのIPOに参加可能だったという点にも注目だ。
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2023年は約100社が新規上場する見通しで
住信SBIネット銀行や楽天銀行、レオスのIPOに期待!
さて、ここまで見てきた通り、2022年は前半こそIPO市場全体が低迷気味だったが、後半にかけて企業の上場環境やIPO株への投資意欲は改善傾向が見られた。海外投資家の国内IPOへの参加を危ぶむ声もあるが、例えばスカイマーク(9204)は上場直後に米国の大手運用会社が大量保有報告書を提出しており、海外勢のIPO株の需要は堅調と言えるだろう。
最後に2023年にIPOが期待できる企業を挙げていこう。
現在、上場申請していることを公表済みなのは、ネット銀行大手の住信SBIネット銀行や楽天銀行、「ひふみ投信」で知られるレオス・キャピタルワークス、KDDI(9433)傘下でIoT(モノのインターネット)サービスを展開するソラコムなどだ。住信SBIネット銀行やレオス・キャピタルワークスはどちらも過去に一度上場を申請したものの、その後に上場中止となった経緯があるため、再挑戦に期待したい。
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また、かねてからIPO間近の銘柄として名前の挙がる沖縄のオリオンビールも各種報道を見ると準備を進めているようだ。
一方、ローソン傘下で高級スーパーの成城石井は2023年9月9日に東証に上場申請をしたが、12月16日になって申請取り下げを発表。半導体のキオクシアホールディングスは2020年の上場中止後、足ぶみが続いているようだが、この2社も環境が整えば候補として浮上してきそうだ。
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2023年は株式市場に大きな混乱が生じない限り、年間で100社前後の上場が見込め、パフォーマンスの面でもIPO株投資は有望とみておきたい。
ここまでの内容をまとめると以下の通り。
1)2022年のIPOも件数、初値パフォーマンスは例年並みの水準をキープ。特に年後半は改善傾向にあり、IPO株投資は引き続き有望
2)2022年も従来通りに大手証券、SBI証券が多く主幹事を獲得
3)2023年は上場申請中の住信SBIネット銀行や楽天銀行を中心に、有力企業の上場が見込まれる
これらを踏まえ、2023年もIPO株投資を積極的に検討してほしい。
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ダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ アナリスト。早稲田大学法学部卒、早稲田大学大学院ファイナンス研究科(現経営管理研究科)修了(MBA)。独立系金融情報会社を経て現職。市場動向から個別株まで、日本株全般を分析。特に新興市場で豊富な調査歴を持つ。
【2023年版】本気でIPO当選を狙うなら口座を持っておきたい! 「より多くのIPOに申し込める」おすすめ証券会社 |
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証券会社名 | IPO取扱銘柄数 (主幹事数) |
口座開設 | |
2022年 | 2021年 | ||
SBI証券 |
89社 (13社) |
122社 (21社) |
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楽天証券 |
65社 (0社) |
74社 (0社) |
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マネックス証券 |
61社 (0社) |
65社 (0社) |
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松井証券 |
55社 (0社) |
56社 (0社) |
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SMBC日興証券 |
47社 (24社) |
80社 (26社) |
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大和証券 |
42社 (17社) |
49社 (16社) |
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CONNECT |
42社 (0社) |
42社 (0社) |
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岡三オンライン |
38社 (0社) |
47社 (0社) |
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auカブコム証券 |
23社 (0社) |
42社 (0社) |
|
※ 取扱銘柄数は委託幹事を含む。 |
■「IPO株が当たらない!」という人は、まずこちらの記事へ!
⇒IPOに当選して儲けたいなら「主幹事証券」を狙え! 通常の引受証券の50~100倍も割当がある主幹事と主幹事のグループ会社の攻略がIPOで勝つ秘訣!
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【2024年12月2日時点】
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◆SMBC日興証券 | ||||
主幹事数(上)/取扱銘柄数(下) | ネット配分・抽選方法 | 口座数 | ||
2023 | 2022 | 2021 | ||
19社 52社 |
24社 47社 |
26社 80社 |
10%:1人1票の平等抽選 最大5%:「ステージ別抽選」※1 |
345万 |
【ポイント】 大手証券の中でもIPOに力を入れており、例年、主幹事数・取り扱い銘柄数ともに全証券会社中でトップクラス! また、国内五大証券会社のひとつだけあり「日本郵政グループ3社」や「JR九州」「ソフトバンク」などの超大型IPOでは、主幹事証券の1社として名を連ねることも多い。10%分の同率抽選では、1人1単元しか申し込めないので資金量に関係なく誰でも同じ当選確率となっているのがメリット。さらに、2019年2月からは、預かり資産などによって当選確率が変わる「ステージ別抽選」がスタート。平等抽選に外れた人を対象にした追加抽選で、最高ランクの「プラチナ」だと1人25票が割り当てられて当選確率が大幅にアップする。 ※1 預かり資産残高などによって決まる「ステージ」ごとに、別途抽選票数が割り当てられる。 |
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◆SBI証券 | ||||
主幹事数(上)/取扱銘柄数(下) | ネット配分・抽選方法 | 口座数 | ||
2023 | 2022 | 2021 | ||
21社 91社 |
13社 89社 |
21社 122社 |
60%:1単元1票の平等抽選 30%:「IPOチャレンジポイント」順に配分 10%:知識・経験・資力と取引状況を踏まえて配分 |
1245万 ※ |
【ポイント】 ネット証券にもかかわらず、主幹事数、取扱銘柄数ともに大手証券会社に引けをとらない実績を誇る。特に取扱銘柄数がダントツで、2023年は全96社中91社と約95%のIPO銘柄を取り扱った。つまり、SBI証券の口座さえ持っていれば、ほとんどのIPO銘柄に申し込めると考えていいだろう。個人投資家への配分の100%がネット投資家へ配分されるのも魅力。1単元1票の抽選なので、多くの単元を申し込むほど当選確率は高くなる。当選確率がアップする「IPOチャレンジポイント」が、資金量・取引量と関係なく、IPOに申し込み続ければ誰にでも貯められるのもメリットだ。また、スマートフォン専用サイトでIPOの申し込みや情報確認ができるのも便利。 ※SBIネオトレード証券、FOLIOの口座数を含んだSBIグループ全体の口座数。 |
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※ 主幹事数、取扱銘柄数はREITを除く。口座数は2023年12月末時点。 |