タバコのニコチン含有量に関して
FDAが新ルールの検討を発表
7月28日(金)、米国食品医薬品局(FDA)が「タバコのニコチン含有量を、ニコチン依存症にならない水準にまで引き下げることを義務付ける新ルールの検討に入る」と発表しました。
アメリカでは、オバマ政権時代の2009年に、家族喫煙防止タバコ規制法(FSPTCA)という法律が定められました。つまり、これは比較的新しい法律だという点をまずおさえておいてください。
その法律では、「タバコ製品に含まれるタール、ニコチン、その他の有害な物質の量を規制する権限はFDAが持つ」と明記されています。言い換えれば、FDAは、家族喫煙防止タバコ規制法により新しく付与された「伝家の宝刀」を、いままで抜かなかったのです。
しかし、トランプ大統領が新しく任命したスコット・ゴットリーブFDA長官は、タバコの害について個人的に多大な関心を持っています。彼は新法制定後8年間、何も新機軸が打ち出されなかったFDAの、事なかれ主義的なやり方に、新風を吹き込んだのです。
タバコのニコチン含有量を下げることで
タバコの害を抑える狙い
FDAは、先週7月28日(金)のニュース・リリースの中で、「アメリカでは毎年喫煙により48万人が死亡している」とし、さらに「喫煙が社会にもたらす医療コストならびに生産性低下は、年間3千億ドルの経済的損失となっている」と指摘しました。
タバコを止めようと思っても、なかなか止められないのは、タバコの中に含まれるニコチンが常習性を持っているためであり、FDAの見解では、ニコチン含有量を依存症にならない水準まで下げることが問題解決の道だというわけです。
電子タバコなどは申請期限が延長されるが
通常のタバコは執行猶予の対象外
FDAは、ニコチン依存症にならない水準までニコチン含有量を下げることに関し、一般との対話を開始するため、「新ルール制定に関する事前通告(ANPR)」を近く公表する考えです。
またタバコ会社は、新製品を売ろうとするたびに、その承認申請を出す必要がありました。
今回、突然ルール変更の意図が発表された関係で、FDAは、比較的最近に規制の対象に組み入れられた葉巻やパイプたばこなどに関しては申請期限を2021年8月8日まで延ばし、さらに電子タバコのような燃えないタイプの新製品についても申請期限を2022年8月8日まで延長する猶予措置を発表しました。
しかし、タバコや無煙タバコについては、昔から規制の対象であるため、猶予措置の対象とはなりません。
FDAの発表後、大手タバコ会社の株が
一時10%以上下げる大荒れの相場に
米国のタバコ市場は830億ドル市場で、毎年、-3%前後縮小しています。
そこでは、北米シガレット市場でのシェア44%を誇る「マールボロ」ブランドを持つアルトリア・グループ(ティッカーシンボル:MO)、ならびに、最近「キャメル」、「ウインストン」ブランドを持つレイノルズを100%傘下に収めたブリティッシュ・アメリカン・タバコ(ティッカーシンボル:BTI)の2社が幅を利かせています。
なお、フィリップ・モリス・インターナショナル(ティッカーシンボル:PM)は、アルトリアの海外事業を継承した関係でアメリカ国内の売上はありません。
先週7月28日(金)の立会では、アルトリア・グループ株は一時前日比-18.9%、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ株が一時前日比-14%近く下げるなど、大荒れになりました。
結局、安値でバーゲン・ハンターが出動したこともあり、大引けではアルトリア・グループが-9.49%、ブリティッシュ・アメリカン・タバコが-7.04%まで戻しました。
現在の時点では最終的にFDAがどれほどニコチン含有量を減らすか、具体的なガイドラインが未だ決まっていないので、各社の売上高に与える影響を正しく把握することは困難です。しかし「ポジティブか? それともネガティブか?」と訊かれれば、今回の発表はタバコ株にとって明らかにネガティブと言わざるを得ないでしょう。
タバコ株は成長が期待できない代り、業績が安定し、配当利回りが高い点が魅力となっています。例えばアルトリア・グループの場合、利益の80%程度を配当に回すという配当方針を持っています。
今回のFDAの発表は、新しい不確実性をもたらすため、ある程度、株価評価が剥げると考えた方が自然だと思います。しかし、先週金曜日のザラバに見られたような「-18.9%も下げなければいけない材料か?」と言えば、それはオーバー・リアクションだと思います。
一般に、投資家は新しく出た悪材料は過剰に反応し、その悪材料が持つ長期的な含蓄については軽く考えすぎる習性があります。それが何を意味するかというと、目先はオーバー・リアクションの反動で、短期的な買い場が来ていると考えられます。
しかし中長期では、ここ数年、タバコ株が投資家にもたらした目を見張るようなリターンが、ずっと継続するとは考えない方が良いかもしれません。
下はアルトリア・グループの一株当たりの業績のチャートです。なお2016年のEPSはABインベブとSABミラーの事業統合にまつわる特別益(一株当たり$7.10)を含んでいます。
【今週のまとめ】
タバコ会社株は短期的には買い場かもしれないが
長期的には慎重に
先週7月28日(金)にFDAが発表した、ニコチン含有量に対する新ルール導入は、投資家にとってサプライズでした。2009年に制定された新法が、明らかにFDAにその権限を与えていることから、FDAがルール制定に乗り出せば、それが実現する可能性は高いです。
しかし、具体的なガイドラインは未だ決まっていないため、いま正確にそのインパクトを測ることは不可能です。このような場合、投資家はオーバー・リアクションすることが知られているので、短期では買い場だと思います。
しかし同様に、投資家は長期でこの悪材料がもつ含蓄を軽視する傾向があるので、「いままでと同じだ」と決め付け、楽観的すぎるシナリオを描かない方が良いと思います。
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