ウォール街を騒がせた、米キャタピラー社の問題発言とは?
先週の火曜日、建設機械大手のキャタピラー(ティッカーシンボル:CAT)が第1四半期の決算を発表しました。その内容は、EPSが予想$2.10に対し$2.82、売上高が予想119.9億ドルに対し128.6億ドル、売上高成長率は前年同期比+30.9%と、コンセンサスを楽々と上回りました。
しかし決算カンファレンスコールの中で「材料費の高騰で、マージンは今期がハイ・ウォーターマークになる」というコメントが出ました。
これが「問題発言だ!」としてウォール街で大いに話題になりました。
ウォーターマークとは「浸水の跡」を指します。つまり、洪水の際などに「ここまで水があがってきた」というしるしです。もっと単純な言い方に直せば「ここがピークだった」ということです。
なお、キャタピラーの経営陣の発言は、あくまでも「利幅に関しては今期がピークになる」という意味なのですが、市場関係者はそれを景気サイクルそのもののピークアウトとして捉えてしまった感があります。両者は似て非なるものです。
キャタピラーが言っていたことは、トランプ政権が中国と貿易戦争を繰り広げる中で鉄鋼やアルミニウムなどの関税を引き上げ、それが材料コストの高騰を招いたという指摘です。だから「需要が暗転した」と言ったわけではありません。
各社の第1四半期決算発表が、絶好調ゆえに生まれる懸念
それでも、ウォール街は「ハイ・ウォーターマーク」、つまりピークというものに対して、いまピリピリしています。「なるほど、足下の業績は絶好調だ……だけどこれがいつまで続くことやら」というわけです。
下の表は、米国を代表する株価指数であるS&P500に採用された企業の、一株当たり利益(EPS)が前年同期比でどれだけ変化したかを四半期ベースで示したチャートです。
これを見ると2018年第1四半期、すなわち現在、決算発表が行われている四半期の前年比の成長率は+22.4%になっています。これは素晴らしい数字です。今回の決算発表シーズンが始まる前はこの予想数字は+18.6%でした。しかし、これまでに決算発表を済ませた企業の約8割がコンセンサス予想を上回る素晴らしい決算を出した結果、+22.4%に増えたのです。
ところが、あまりにも華々しい業績が出てしまっただけに、今回の数字が「変化率」という観点ではピーク、すなわち「ハイ・ウォーターマーク」になる可能性があり、来期以降も高い成長率が続く見通しには違いないけれど、その成長率は今回よりも低くなるかもしれないということです。
株式投資では成長の⊿(デルタ=変化率)が問題にされることが多いです。しかも、単に成長率がプラスであるだけではダメで、その成長率の数字自体が前期比で増加していることが好ましいのです。その観点からは今がいちばん成長率の高くなった瞬間であり、今後は「旬を過ぎた」という風に解釈される懸念があるということです。
10年に1回、来るか来ないかというような好景気の真只中にいま我々は居るわけですが、株式市場の参加者は一足先に将来を案じています。
「もし未来が今よりショボいのなら……株の売りどきは今じゃないのか?」
それでも、NY市場は割高とは言えない
なるほど、上に書いたような懸念は一理あると思います。しかし現在の米国株式市場は向こう12ヵ月のEPSに基づいて株価収益率(PER)16.3倍で取引されており、これは過去5年間の平均PERである16.1倍とほぼ同じです。つまり、米国株は割高とは言えないのです。
少なくとも今年いっぱいは今回のような高い成長が続くのであれば、もうすこし粘って株価が上がるのを待ちたい……そう考える投資家も居るはずです。
このシナリオを台無しにするリスク要因は二つ考えられます。ひとつは金利がどんどん上昇してしまうというシナリオです。株式市場と市中金利は競争関係にあります。その意味するところは、金利が上がってしまうと株式のバリュエーションは下がるということです。最近、米10年債利回りはスルスル上昇しています。
これは投資家が「払っても良いな」と考えるバリュエーションが下がってくることを意味します。
もうひとつの懸念点は5月1日(火)引け後に発表されるアップル(ティッカーシンボル:AAPL)の決算です。コンセンサス予想はEPSが$2.69、売上高が610.5億ドルです。このところ「iPhone Xがどうやら、あまり売れていないらしい」ということが市場参加者の間で囁かれています。アップルはとても売上規模が大きいので、その業績見通しが暗転すればS&P500の一株当たり利益にも大きく影響してくることが考えられます。
【今週のまとめ】
米国株は割高とは言えないが、囁かれる"ピーク"への懸念……
注目のアップル決算発表はいかに!?
先週のキャタピラーの決算発表の際、「ハイ・ウォーターマーク」という言葉が物議を醸しだしました。いま、アメリカの企業業績はすこぶる良いし、株式市場全体のバリュエーションも適正です。しかし、長期金利が上昇している折、市場参加者は「業績のピークが来るのではないか?」とピリピリしています。全体としては未だ心配には及びませんが、図体の大きいアップルがちゃんとした決算を出すことが出来るかどうかに注目したいと思います。
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