米国の天然ガス輸出が本格化するのは、11月の大統領選以降?
シェールガスは、天然ガス価格にも大きな影響を与えている。米国内ではシェールガスの供給過剰により、天然ガス価格の低迷が続いている。ヘンリーハブ価格(NYMEXで取引される天然ガス先物価格)は2008年7月の13.69ドル(100万BTUあたり)をピークに急落し、今年に入って採算割れといわれる2ドル程度(同)まで下がった。
「採算割れを解消するには、天然ガスの国内への供給を絞り、その分輸出を増やす必要があります。ただ、輸出には米国エネルギー省の認可が必要ですが、これがなかなか下りません。なぜかというと、11月に大統領選を控えているからです。輸出による天然ガスの価格上昇を懸念する消費者団体などへの配慮から、大統領選が終わるまでは輸出認可に消極的でしょう。さらに認可が下りたとしても、液化するための設備の開発に数年かかります。
しかし、米国政府としてもエネルギー政策上、在来型ガスを多く算出する中東の影響力を緩和するという狙いからも輸出する意義は大きいため、将来的には輸出量が増えていくと思います」(宮前さん)
2006年時点では天然ガスの輸入増を計画していた米国が、将来的には輸出国に転じようとしている。こうしたダイナミックな変化が「シェールガス革命」といわれるゆえんだ。さらに、カナダでもシェールガス生産が始まったほか、欧州や中国でも生産の検討に入ったという。米国発のシェールガス革命は世界へ波及していく可能性もありそうだ。
米国で2ドルなのに、欧州12ドル、日本向けは16ドル!の理由
シェールガス革命によって天然ガスが安く輸入できるようになれば、日本経済にとっては大きなメリットだが、今のところ米国からの輸入はなく、価格も安くはなっていない。むしろ2011年以降、欧米に比べて高い状態が続いている。天然ガス価格は今年6月現在、米国が2ドル程度(ヘンリーハブ・スポット価格)、欧州は12ドル程度(ロシア産価格)なのに対し、日本は16ドル程度(インドネシア産LNG価格)といった状況だ。なぜこれほどの違いがあるのか。
価格が異なる要因の1つは、天然ガス価格の決定方法が地域によって違うことだ。日本向けの天然ガス(LNG)価格は、日本向け原油平均価格にリンクする価格フォーミュラ(価格決定方式)に基づいて決められている。日本のLNG価格は、原油価格が上昇すれば、追随して上がり、逆に原油価格が下落すれば、追随して下がる。欧州でも、石油や石炭などとの競合が可能なように、競合燃料価格を指標とする価格フォーミュラによって決定されている。このため、日本と欧州の天然ガス価格は、原油相場の動向に大きく影響される。
これに対し、米国では、天然ガスの需給関係などにより市場で決定され、ヘンリーハブ価格が指標として用いられている。現在、日本と欧州の天然ガス価格が米国に比べて高いのは、原油価格が高止まりしているからだ。
シェールガス革命は震災後の危機から日本を救った?
さらに欧州に比べて日本の価格が高いのは、日本が輸入している天然ガスは、運ぶためにまず液化し「LNG」に変え、さらにタンカーで輸送するという二重のコストがかかっていることや、2011年の東日本大震災以降、スポット価格に“ジャパンプレミアム”がついていることが関係している。
「東日本大震災後、天然ガスを急遽手に入れるため、スポット購入の割合が増えたようです。もともと割高なスポット価格にジャパンプレミアムが5ドルくらいついたと推測されます。震災以降、原発による電力供給が減り、化石燃料の需要が増えるだろうという予測から、”足元を見られた”わけです」(宮前さん)
実際、電力会社による2011年度の燃料輸入額は、原発停止の影響から前年度に比べて1.8兆円程度増加している。そのうち、LNG消費量は前年度比で約1.3倍、金額ベースでは前年度比で1兆3400億円程度も増えている。この増加額は、原油や重油に比べると約3倍も多い。
ただ震災後、日本が天然ガスをスポットで大量に緊急調達できたのは、シェールガスの大量生産で米国の輸入が大幅に減り、天然ガスがだぶついていたからだという。もし米国でシェールガス革命が起こらず、これまでと同じように天然ガスを輸入していたら、日本はエネルギー需給が逼迫して原発事故を乗り切れず、経済は深刻な事態に陥っていたかもしれない。
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