リスクオフの時代に、プロも個人も注目する「債券」
株や為替をやっていれば耳にすることこそあれ、実際の投資経験者は少ないのが債券。「面白くなさそう」「金持ち向け」「投資期間が長すぎる」などなど、不満の声が続々と聞こえてきそう。でも、最近は個人向けの債券が充実してきているのだ。
「株をやっているような人は債券にもぜひ興味を持ってほしい。株や投資信託のようなリスク性資産と違った、『コア資産』として債券はとても便利。大した金利のつかない預金よりも資金効率よく運用でき、満期前でも換金しやすい債券だってあります」
そう教えてくれたのは、久保田博幸さん。かつて債券ディーラーとして活躍し、「牛熊」の名で始めた債券情報ホームページはプロなら誰でもチェックする、東京市場屈指の債券通として知られた存在だ。
リスクオン/リスクオフなんて言葉もよく聞かれるが、リスクオフ(景気減速や経済危機などで、株や商品などリスクの高い資産が投資対象から外される状態)で機関投資家から買われやすくなるのが、日本や米国などの国債。株価が低迷しても債券は安定して利回りを確保してくれる可能性が高い。いわばポートフォリオの保険、救命器具が債券なのだ。この理屈は、個人投資家にとってもそのままあてはまる。
地味な印象の債券、なにが魅力なの?
「個人向けの債券で、とくに人気が高いのがSBIホールディングスの発行するSBI債。満期1年で1.6%ほどの年利で、購入単位は10万円。発売されると抽選になるほどの人気です」(久保田さん・以下カギカッコ内同様)
ほかにマネックス証券で不定期に発行される「マネックス債」も人気が高い。またそれらに加えて、主に金融機関が発行する「劣後債」も最近では人気、バリエーションも増えてきて定期預金代わりとしても便利に使えるようになってきた。
でも「劣後債」と急に言われても、「?」という人が大半だろう。ここは牛熊さんに、債券の種類や特徴について基本から教えてもらうことにしよう。
個人向け国債の魅力度は高くない
「債券には発行体や種類によってさまざまな債券があります。基本的には発行体(債券を発行する国や企業、機関)の経営の安定性が高いと利率が低くなり、リスクが高い発行体だと金利が高くなります。また償還までの期間が長いほど金利は高くなります」
「債券にはいろいろな種類がありますが、もっとも馴染みがあるのが個人向け国債ではないでしょうか。今は『個人向け復興国債』と名前が変わっています。発行から1年たてばいつでも財務省が額面で買い取ってくれるので流動性リスクや価格変動リスクがない、とても便利な債券です」
固定金利で満期が5年と3年のタイプ、それに変動金利で満期10年のタイプがある。金利は固定3年で直近発行のものが税引き後0.557795%と「ないよりはマシ」程度なのが難だ。
一方、国債のなかにはもう少し魅力的な商品も存在する。
プロが取引する国債も、ネット証券で買える!
「国債には『新窓販国債』と呼ばれるものもあります。プロも取引するような債券を個人向けにバラ売りするもので、個人向け国債と違って価格が変動するのが特徴。中途換金するとき、債券価格が上がっていると値上がり益を得られる可能性もあります」
個人向け復興国債と比べると馴染みは薄いが、新窓販国債も便利。個人向け復興国債と同様、SBI証券や安藤証券などのネット証券でも取り扱っている。日本の国債はリスクオフのときに買われやすい傾向があるし、自分で少し持っていると債券市場が気になってきて、株やFXの情報としても役立つ。なお、新窓販国債の販売前には、ネット証券では下記のような情報が公開される。
財政難で名高い大阪市の債券だって意外と安全性は高い!?
「国債と似ていますが、もう少し利率が高いのが地方公募債。地方自治体の発行する債券です。住民向けなどの条件がつくこともありますが、個人向けの地方債(ミニ公募地方債、正式名称は住民参加型市場公募地方債)もあります。発売の情報は地方自治体の広報誌などでチェックするか、総務省のサイトでまとめて見ることもできます」(久保田さん・以下カギカッコ内同様)
なにかと話題の大阪市なんかも「みおつくし債」と銘打ち、積極的に個人向けに販売している。次回の発行は12月だ。前回6月に発行したときは1万円から購入できて利率は0.32%(税引き後0.256%)。個人向け国債の固定5年が税引き前0.17%だから、ちょっとお得。
「大阪市は財政難がありますから、格付けも低い。そのぶん、金利が高くなっています。夕張市のように財政破綻した自治体もありますが、地方公募債には『最後は国が助けてくれる』という期待もあり、格付けが低くてもデフォルトのリスクは低めです」
ブームの「劣後債」は利率の高さが魅力!
次に紹介したいのがちょっと変わった名前の債券。「劣後債」だ。
「会社が発行する普通の社債に比べ、利率が高めに設定されているのが特徴です。その代わり『劣後』の名前の通り、もしも発行体の企業が倒産したとき支払いの順位が後回しになります」
リスクが高くなる代わりにリターンも高いのが劣後債。どのくらい利率がよくなるかというと、2012年9月に野村ホールディングスが募集した通常の社債が利率1.04%。2011年末に発行した劣後債だと2.24%。発行時点が違うので厳密には比較できないが、だいぶ高めになっている。でも、劣後債の償還期日を見ると10年後が中心。ちょっと長すぎて使いづらい…。
だが、実際の償還期間は、当初案内されるよりも短くなる可能性が高いという。その理由は?
劣後債の償還期限は「見た目」よりも短い
「劣後債にはもうひとつ大きな特徴があります。それは残存期間5年を切ると繰上償還される可能性が高いということです。
専門的な話になりますが、金融機関にとって、劣後債は自己資本に組み入れることができ、自己資本比率を高められるメリットがあります。でも、残存期間が5年を切ると組み入れられる比率が低減してくる。そこで発行体の金融機関は、残存期間が5年を切るとその劣後債を償還して、借り替えなどを行なうことが多いんです」(久保田さん・以下カギカッコ内同様)
つまり、償還まで8年の社債なら3年後に、償還まで10年の社債なら5年後に償還される可能性が高いわけだ。すべての劣後債が当てはまるわけではないが、繰上償還特約がついていたり、当初5年とその後の利率が違う劣後債などは、繰上償還を見込んでいる可能性が高い。
「逆にそうした劣後債が繰上償還されなかった場合は、金融機関の経営が上手くいっていない可能性があります。2009年ころにも劣後債がブームがありました。今またブームなのは当時の劣後債を償還して借り換える需要が発生しているためです」
ただ、劣後債には難点も。それは額面の大きさ。
「最低単位は100万円とか250万円といった債券が主流でやや高い印象でしたが、最近では住信SBIネット銀行のように10万円から買える劣後債も登場しています」
償還期限が短めで利率も高めの劣後債、使えそうなので注目を。
初心者が避けるべき「仕組み債」と「外債」
では個人投資家は、債券をどのように投資していけばいいのだろうか。
「初心者にオススメできないのは『仕組み債』。デリバティブの組み込まれた債券で株価や為替によって利率が変わるものなどがあり、仕組みが複雑なので初心者は避けたほうが無難です。あとは外貨建ての債券。南アフリカ建てやトルコリラ建てなどの債券は多いですが、為替リスクを負うことになるので、『数年後に使う資金をそれまで少しでも有利に運用したい』という目的には合いません」
為替リスクを覚悟の上なら外債も悪くない選択肢だが、リスクを考えるとなかなか手が出しづらい。「南アフリカランドが上がる!」と思ったら、償還期限のないFXで投資したほうが機動的に動けるはずだ。
将来のインフレをにらんで債券を賢く選ぶ
「デフレが続いていますが、日本銀行は『物価上昇率1%』を目標として明示していて、将来的にはインフレで金利が上昇する可能性もあります。そのときに備えて今は短めの債券をつないでいったほうがいい。金利が上昇してきたら、デフォルトリスクにも気をつけながら、長めの債券に乗り換えればよいのでは」
久保田さんは、1年もののような短い債券に投資、1年後の償還期限時点で金利が上昇していたら、長めの債券に、金利が相変わらず低空飛行だったら、また1年もので様子を見て、といった投資を勧める。
「そうした使い方をするときにも、個人向け復興国債は中途換金が容易なので便利です。もし個人向け復興国債が機関投資家向けに販売されていたら、プロは殺到するでしょうね。価格変動リスクもなく、いつでも解約できるわけですから」
劣後債やSBI債などの社債、地方債や日本国債など、使いやすい商品が増えてきた債券。ネット証券のホームページをこまめに確認すると、お買い得な債券が見つかるかも。チェックしてみよう。
(取材・文/高城 泰)
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