【今回のまとめ】
1. ジョージ・ソロスは財政ファイナンスを肯定している
2. 財政ファイナンスとは中央銀行が新発債を直接買い入れることを指す
3. 財政ファイナンスが「禁じ手」なのは一度はじめると病みつきになるため
4. これからは預金や日本国債はダメ。株や外国債などにシフトせよ
5. 欧州は日本の二の舞を演じている
6. ECB(欧州中央銀行)は金融緩和の余地があるのに緩和していない。ユーロがそれほど下がっていないのはそのため
「新しい経済学」を考えるための会議
4月4日から7日にかけて、香港でアイネット(INET: Institute for New Economic Thinking)のカンファレンスが開催されました。
アイネットとは、現在の世界が直面する経済問題に対して、真に役立つ指針を提供する新しい経済学を構築するために設立された機関です。
その運営資金はあのジョージ・ソロスを座長とする篤志家から出ており、研究開発費の援助、学生に対する奨学金、市場関係者からのアドバイス、カンファレンスなどを通じて、開かれた学びとコラボレーションの場を提供することを目的としています。
元「金融の番人」からの大胆な提言
今年のカンファレンスで基調演説を行ったのは、英国のFSA(Financial Services Authority、金融サービス機構。金融サービス全般を監督する官庁、日本の金融庁に相当)の元長官、ロード・ターナーでした。
その演説は、これまでタブーとされてきた財政ファイナンスを積極的に奨励する、型破りなものでした。
財政ファイナンスとは、日本銀行などの各国の中央銀行が、新発債を直接買い入れることを指します。なおソロスは、ターナーの主張を自らの信念に理論的な裏付けを付与するものとして全面的に支持しています。
ターナーは「財政ファイナンスはこれまで各国の中央銀行が行ってきたQE(量的緩和政策)やLTRO(3年物流動性供給オペ)などと理論的にはほとんど差異はない」と主張しています。
「モルヒネ」は「緩慢な死」よりマシ
それにもかかわらず財政ファイナンスがとりわけ「危ない」とタブー視されるのは、その経済学上の運営・管理のむずかしさ故ではなく、むしろ政治的な理由によると彼は主張します。
つまり、いちど財政ファイナンスを始めてしまうと、国民はそれのもたらすモルヒネ注射のような気持ちの良さの虜になってしまい、止めなければいけない時期が来ても、今度は「なぜ止めるんだ!」という意見が強くなって止められなくなってしまう、そこが「危ない」というわけです。
こうした点で、ターナーは財政ファイナンスの孕んでいるリスクを決して軽く見ているわけではありません。
しかし、日本が過去25年間辿ってきた「緩慢な死」への道を歩むよりは、リスキーでもこれを試してみる価値はあるというわけです。
「禁じ手」OK時代の資産運用
4月4日に発表された日銀の緩和政策は、日銀による新発債の買い入れもそのスコープの中に含められていたので、いよいよ財政ファイナンスという「禁じ手」が始まったと考えていいと思います。
月々7兆円という金額は市場が予想していたよりも多いものでした。この点についてソロスは、「買い入れ額は米国のFRBのペースとほぼ同じだが、アメリカ経済の方が日本より3倍大きいことを考えると、今回の日本の買い入れプログラムは3倍パワフルだ」とコメントしています。
私の考えでは、日本のGDPに対する国債流通量(下図の棒グラフの赤い部分)はアメリカのそれよりも遥かに多いので、その分、買い入れプログラムも大きくする必要があると思います。

日本国債や預貯金から株や外国債へとお金が動く
ソロスは今後のシナリオについて、デフレが解消すると人々は日本国債の僅かな利回りでは満足しなくなるので、より有利な投資対象に向けてお金が動き始めるとしています。
また、人々が「円安基調が定着する」と考え始めると海外投資を加速させる可能性も指摘しています。
それは言い換えれば、これまで日本国債や預金といった、極めて保守的な投資対象に眠っていた資金が、よりハイリスク・ハイリターンな様々な資産へと飛び出してゆくことを意味します。日本株もそのようなお金の行き先でしょうし、外国債券や外国株式もしかりです。
欧州は日本の二の舞になる?
ソロスは敢えてリスクを取りに行っている日銀の今回の采配を高く評価しています。それと同時にEUの経済政策は「日本の失われた25年の二の舞だ」と酷評しています。
欧州ではリーマンショックの後、ギリシャ危機が起こりました。この問題を解決するためのEUの処方は、各国政府になるべく財政を切り詰め、実質的な賃金の切り下げによる競争力の回復を強要するものでした。
一方、レバレッジを下げてリスク回避するために欧州の金融機関はバランスシートの圧縮を進めました。その結果、流動性はリーマンショック前に比べて71%も減少しました。しかも資本フローの実に52%を公的資金が占めるようになったのです。

これは中小企業などの借り手からすれば、急にお金が借りにくくなったことを意味します。またECBなどの公的主体は、もっと果敢に流動性の枯渇に対して取り組む余地があることを示唆しています。
依然ユーロ高が続きやすい局面に
このことはFXの投資戦略という観点からすればユーロを巡る金融政策は依然、引締め的すぎることを意味し、より大胆な緩和政策を打ち出した日本よりも通貨高(ユーロ高)になりやすいことを示唆しています。
ただ、実際のところ下の失業率のグラフに見られるように欧州の景気は凄く悪いわけですから、ECBはそろそろ次の一手を打ち出さないといけない瀬戸際に来ているのです。

当面はそのあたりのニュースがユーロの水準を決めることになると思います。
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