来年10月の消費税増税にあわせて
さらなる追加緩和の可能性が
―― 追加緩和では、マネタリーベース増加額(日銀が1年間に市場に流す通貨の量)が年間80兆円に拡大されることなどが決まりましたが、金融緩和の規模としてはどの程度のものだと考えればいいのでしょうか?
永濱 規模としてはそれほど大きくはありません。これまでの量的緩和でもマネタリーベースで年間60兆〜70兆円くらい増やすことになっていたのを、10兆〜20兆円増やすだけですから。最初に述べたように、いろんな意味でサプライズ感を出したことで「ものすごいことが決まった」という感じがしますけど、よくよく考えると、そこまで大胆なことをやっているわけではないんですよ。
ただ、見方を変えると、日銀はさらなる追加金融緩和の余地を残しているとも言えます。多分そのタイミングは、消費税率が上がる可能性が高い来年の10月でしょう。黒田総裁も、「原油価格下落の影響で、来年の前半まで物価が減速するのは致し方ない」と言っています。つまり、来年の前半でそれなりに物価が下がったとしても、追加緩和には動かない。しかし、さすがに来年の後半になっても物価上昇率が上がってこないとなると、追加緩和をやると思います。私としては、インフレ率2%はなかなかすぐには実現しないと思いますので、来年の10月、もう一段の金融緩和の可能性はあるのではないでしょうか。
―― それは消費税増税の前でしょうか? それとも後?
永濱 消費税が上がった直後くらいでしょう。1年後の10月にまた「展望レポート」の発表があるので、そのくらいにやるんじゃないですかね。
―― そのときはどの程度の規模になりそうですか?
永濱 今回10兆円増やしたので、また10兆円増やす程度だと思います。金融緩和の中身としては、そうはいっても国債を無制限に買えるわけではないので、多分今よりもETFなどのリスク資産の購入比率を上げるのではないでしょうか。
―― そもそも、消費税は政府の予定通り来年の10月に増税されると思いますか?
永濱 増税先送りのシナリオがまったくないとは言えません。マーケット的には先送りになったほうがポジティブだという見方もあります。今年4月に消費税を上げた時とは違いますね。前回は、ほとんどの外国人投資家が「ちゃんと消費税を増税しないと安倍総理の実行力が問われる」と言っていたのに対し、今回は、アメリカ財務省が「慎重にやれ」と言っていることもありますが、外国人投資家も「ここで消費税上げると世界経済への影響が大きく、アベノミクスが失敗するリスクが出てくる」という見方が多いようです。それは春の増税のダメージが予想以上に大きかった上に、世界経済的にもユーロ圏や中国がいろいろときな臭いことになっていますから。アメリカだけがんばってもさすがに厳しい、ということです。
しかしそうは言っても、6:4で来年10月に消費税は上がるのではないでしょうか。もし今回の追加緩和がなかったら5分5分くらいで、下手したら先送りの可能性のほうが高いかと思っていました。しかし黒田総裁がバズーカを放ってしまったので。
先送りは難しいでしょうね。その場合は、消費税を上げるタイミングに合わせて、新たなバズーカを放つでしょう。QQE3ですね、多分。
円安による家計の負担は一時的なもの
じきに賃金の上昇が追い付いてくる
―― 永濱さんとしては、今回のサプライズを高く評価しているのでしょうか?
永濱 はい、評価しています。100点満点中100点に近いのではないでしょうか。強いて言えば、もっと事前に根回しをして、反対が4人も出ないようにして欲しかったですね。根回し不足というのは少し感じます(笑)。
「今だって景気回復の実感なんてないのに、円安で中小企業や家計の負担が増える」と、金融緩和の悪い面ばかり取り上げる人もいますが、それは誤りです。なぜ今、景気回復の実感が湧いていないかというと、消費税を上げたからですよ。これまで金融緩和を実施したことにより、今年の春闘では実に15年ぶりの賃上げ率が実現しました。マクロのデータで見たら、あきらかに家計の収入は増えている。前年比で2%以上も増えているんですよ。それは公共事業でお金をばらまいたからそうなったわけではなく、間違いなく円安株高の効果ですよね。実際に、消費税率を除いたインフレ率は2%くらいで済んでおり、物価の値上がりよりも家計の収入増加の方が上回っていたはずです。それが、消費税のおかげで物価が4%上がってしまったから家計が厳しいわけです。そう考えると、「今、生活が苦しいのは、金融緩和で円安になって輸入品の値段が上がったから」という見方は間違っているのがわかると思います。
短期的に見ると、円安になって輸入品の価格が上がって家計が苦しくなった面もあるでしょう。しかしその理由は、賃金が上がるまでにタイムラグがあるからです。今回、金融緩和をして円安になりましたが、賃金が上がるのは来年の春闘以降なのでまだ先の話です。しかし、円安にともなう輸入品の価格上昇は、それよりも前に来てしまう。そこにタイムラグが起きてしまいます。だから短期的に考えたら、家計の負担の方が先に出るのは確かですが、ただそれは一時的なものであって、日本経済全体で考えれば円安のほうが間違いなくプラスとなります。
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