今回は資産運用の世界で、従来から提唱されてきたさまざまなポートフォリオ戦略について整理し、それぞれの戦略の特徴と課題を紹介したいと思います。
そして、それらを検討した上で、私が最適と考える戦略も提示します。
(1)「60/40ポートフォリオ」(伝統的モデル)
「60/40ポートフォリオ」は株式60%、債券40%という割合でポートフォリオを構成する方法です。
この資産配分は、過去数十年間にわたり「黄金比」と呼ばれてきました。株が下落すれば債券が上昇しやすく、逆もまた然りなので、リスク分散効果が期待できると考えられてきたからです。
実際、2000年から2025年までの年率リターンは約6.89%と堅実な成果を残しました。
[参考記事]
●投資初心者にオススメ! 低コストで簡単に実践できる「60・40ポートフォリオ」の今後10年がこれまでよりも魅力的なものになる理由とは?
ただし近年、高インフレの時や金利上昇局面では株と債券が同時に下落する場面も増え、分散効果の限界が指摘されています。
今後、金利が低下基調に入れば、それは債券価格が上がるということですし、株も金利低下によって上昇しやすくなるため、このポートフォリオは中期的には良好に機能する可能性が高いでしょう。
しかし、金利低下局面では株式の上昇幅が大きいため、最終的には株の比率が高いポートフォリオにパフォーマンスが劣後するリスクがあります。価格変動を受け入れられる投資家であれば、株式オンリーの戦略も選択肢となり得ます。
(2)25/25/25/25の「パーマネント・ポートフォリオ」
「パーマネント・ポートフォリオ」は作家、政治活動家などとして活躍したハリー・ブラウンが提唱したものです。これは株式、債券、コモディティ(金(ゴールド)など)、現金を25%ずつ保有する戦略になります。
この戦略は「どんな経済局面でも一定の安定性を確保する」ことを目的としています。株式は成長とキャピタルゲイン、債券は利子収入と安定、コモディティはインフレや通貨下落のヘッジ、現金は流動性確保と安全資産という役割を担います。
景気拡大、リセッション、インフレ、デフレといったさまざまな環境に対応し、長期的な安定を目指しているのが特徴です。
ただし、特定の資産が大きく上昇する局面ではリターンが限定されがちです。
長期的に見れば、現金部分はインフレに負けやすく、コモディティもインフレ以上のリターンを得るのが難しいため、実質的な成長を担うのは株式の25%部分に限られます。
結果として、これは極めて保守的なポートフォリオになります。
(3)「オールウェザー・ポートフォリオ」(ブリッジウォーターモデル)
「オールウェザー・ポートフォリオ」(全天候型ポートフォリオ)は、投資家レイ・ダリオが創業したブリッジウォーターが提唱したモデルです。
その典型的な資産配分は、株式30%、長期国債40%、中期国債15%、金7.5%、その他コモディティ7.5%というものです。
市場環境が変化しても自動的に耐えられるように設計されており、長期国債は景気後退やデフレ時に安定性を、金やコモディティはインフレや地政学リスクのヘッジを担います。アルゴリズムを用いて資産配分を自動的に動かすことも可能で、理論上は幅広い環境で機能します。
ただし、この戦略を個人投資家が自身で本格的に実行しようとすれば、マクロ経済環境を常に監視しながら調整を行う必要があるため、かなりハードルが高い戦略と言えるでしょう。
(4)「30/70ポートフォリオ」(逆転モデル)
「30/70ポートフォリオ」は株式30%、債券70%と配分するポートフォリオです。
最初に紹介した伝統的な「60/40ポートフォリオ」では、株式の割合が債券より多くなっていますが、「30/70ポートフォリオ」ではそれを逆転させ、株式の割合を債券よりも少なくしています。
これは保守的な投資家向けの戦略です。
この戦略の背景には「高金利下では株式のリスクプレミアムが縮小し、株を持たなくても債券中心で同等のリターンを期待できる」という前提があります。
株式部分はバリュー株や小型株、海外株などを取り入れて分散し、債券部分は米国投資適格債や長期国債を軸にポートフォリオを構成します。
株価が高値圏にある局面で調整リスクを抑えつつ、安定的な運用を志向する投資家に適しています。
ただし、これは極めて保守的なアプローチであり、長期的には高いリターンを得にくい可能性が大きいです。
そして、現在のアメリカの金利水準は過去より高いとはいえ、歴史的に見て極端に高いわけではありません。
従来からある4つのポートフォリオ戦略のまとめ
ここまで紹介してきた各ポートフォリオ戦略の要点をまとめると、以下のようになるでしょう。
●25/25/25/25の「パーマネント・ポートフォリオ」…万能型で安定重視だが、リターンは限定的
●「オールウェザー・ポートフォリオ」…市場環境に柔軟に対応できるが、本格的に実施するのは個人投資家にとって難易度が高い
●「30/70ポートフォリオ」…高金利時代を想定した最も保守的なアプローチ
筆者の見解:一定の資産があるなら、地域や業種を分散して株式だけに投資すれば十分
私は一定の資産がある投資家であれば、投資対象は株式だけとし、その株式の中で地域や業種を分散するだけで十分だと思います。
5年以上使う予定のない資金であれば、米国・欧州・新興国といった国々の株式中心の分散投資が最も合理的です。
歴史的に見て、債券やコモディティの長期的なパフォーマンスは株式に劣後してきました。

最後に数学的な現実を示したいと思います。
たとえば、100万ドル(約1億4700万円)を年7%で複利運用すると、150年後にはどうなるでしょうか。
年7%複利運用の計算式は1.07^{150}=2万5560であり、100万ドルは150年後に約256億ドルになる計算です。
ここで使った年7%という数字は株式投資では無理なリターンではありません。現にS&P500はこれまで平均して年7%程度のリターンを達成してきました。
[長期投資、複利運用に関する参考記事]
●公務員の彼は40歳で100万ドル(約1億6000万円)の資産を築き、FIREを達成した! 給与は高くなくても、節約と複利の力でFIREは十分達成可能だ
●1万ドルが5億ドルに! 1965年にバークシャー株を買い、持ち続けたパフォーマンスから実感する長期投資のスゴさ。50歳過ぎてもお奨めは長期的な視点の投資
●短期的な株価下落に恐怖して株を売ってはいけない。長期投資で「複利の力」を最大限に活かし、雪だるま式に資産を増加させるために必要なことは?
また、1人の人が150年間、生きるのは現時点での科学水準では難しいでしょうが、自らの子孫に資産を受け継いでいくことを考えれば、150年というのも意味のある仮定になります。
もちろん、150年に渡って安定した政権が保たれたり、安定した税制が維持されることは現実的には困難でしょう。そうなると、長期的に安定した政権が維持されるであろう場所に投資することの重要性がわかると思います。
いずれにしても、この数字が端的に示していることは、株式への長期投資の持つ力と重要性に他なりません。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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