【今回のまとめ】
1.ニューヨーク市場は調整局面に逆戻りした
2.欧州、米国の経済指標は悪かった
3.フランスの大統領選挙ではオランド候補が勝利
4.ギリシャ総選挙では急進左派連合が躍進
5.Facebookの上場が近い
米国株式市場は大きく下げた
先週(4月30日~5月4日)の米国株式市場は、ダウ工業株価平均指数が-1.4%、S&P500指数が-2.4%、ナスダック総合指数が-3.7%でした。とくに先週のS&P500指数の下げ幅は今年最大でした。
このため、せっかく上昇トレンドを再開したと思われたS&P500指数は早くも調整局面に逆戻りしています。

ニューヨーク市場が調整局面に逆戻りしたと判定する根拠としては、S&P500指数が先週の4月25日のフォロースルー(一段高)の水準を下回ったことに加え、NYSEの騰落比で1:3と下落銘柄が上昇銘柄を圧倒したこと、ナスダックの新高値/新安値が34/63と悪化したことなどによります。
悪化する欧米の経済指標
先週の相場の地合が悪くなった原因は、欧州と米国の景気減速を示す経済指標が相次いで出たことにあります。
たとえば5月2日に発表された4月のドイツの失業率は、市場予想より悪い6.8%でした。また、ユーロ圏の3月の失業率は10.9%、さらに米国では5月4日に発表された4月の非農業部門雇用者数は、市場予想を下回る+11.5万人にとどまりました。



これらはいずれも、先進国各国が雇用促進のために何か手を打たなければいけないことを示唆しています。
しかし、残念ながら先週の欧州中央銀行(ECB)の政策金利発表の場では、その対策は発表されませんでした。
次に、まさに結果が出たばかりのフランス大統領選、ギリシャ総選挙の結果から、今後の経済情勢を占います。(次のページへ)
「オランド仏大統領」がドイツとうまくやっていける理由
5月6日にフランス大統領選挙の決選投票が実施されました。今回の決選投票は、与党・国民運動連合(UMP)の現職ニコラ・サルコジと、野党・社会党の前第一書記フランソワ・オランドとの一騎打ちになりました。
結果は、オランド前第一書記が当選しました。市場は「オランド大統領」の誕生をどう受け止めるのでしょうか?
ユーロ/米ドルは5月7日に急落[1時間足チャート:ザイFX!/セントラル短資FX]
まず、市場関係者は彼の政治経験の浅さを懸念しています。また、欧州財政危機問題に関して、ドイツのメルケル首相とうまく協力できるかを不安視する投資家もいます。
しかし私の考えでは、オランド大統領もメルケル首相とうまくやっていけると思います。
なぜなら、彼の師匠は、ミッテラン政権下で蔵相を務め、さらにEC委員会委員長も務めた「ジャック・ドロール」だからです。ドロールはEUと通貨ユーロをまとめ上げるのに尽力した人物であり、もしオランド大統領がドロールの情熱を継承しているのであれば、EUにとってまずいことをするはずがないからです。
これはメルケル首相の師匠が、同じく欧州統合に情熱を燃やしたヘルムート・コールであるのと似ています。
つまり、欧州の運営をどうするか? という問題に関して、「今まで以上に一致協力することが重要だ」という大筋での価値観をオランドとメルケルは共有しているわけです。
次にオランド大統領の所属する社会党の、市場参加者からの評価はどうでしょうか?
社会党政権といえば、81年から95年まで大統領を務めたミッテランが思い出されます。社会党は野党である間は過激な言動が多いのですが、ひとたび政権の座につくと、意外に保守的な財政政策を取ると言われています。
実際、ミッテラン政権はそれまでの社会主義的経済政策を改め、「市場経済志向」へと大きく舵を切りました。
ただ社会党政権は、市場に対して“意表を突く行動”に出る場合もあります。
上に書きました「市場経済志向」への転換を打ち出したわずか18カ月後、ミッテラン政権は、当時のフランスの通貨だったフランを故意に通貨安に導くことで、輸出競争力確保を狙いました。そのようなエピソードをまだ覚えている投資家がいるかもしれません。
なおオランド大統領は、就任早々ドイツのメルケル首相と会談したいという意欲を表明しています。そして欧州の経済成長をいかに導き出すかについてフランスの考えを伝えたいとしています。さらに、ドイツのショイブレ財務相がEUの蔵相の集まりであるユーログループの議長になることを支持する立場を表明しています。これはオランドが、早くもドイツの顔を立てる意思表示をしたと理解できます。
一方、国内的には、選挙戦を戦っていた際の公約として、「欧州安定化債の発行」という案を持っています。欧州安定化債とは、インフラ投資に向けた、ヨーロッパ政府が共同で出す公債を指します。現状では、ドイツがこのような超国家公債の発行に賛成するとは思えません。
またオランドは選挙戦の過程で、年間所得100万ユーロ以上の裕福層に対して最高税率75%の課税比率を適用してはどうかという考えを表明しています。現在の最高税率は41%ですから、75%というのはかなり極端な数字です。したがって、この税制改革については実現可能性を疑問視する投資家も多いようです。
一方、5月6日にはギリシャでも総選挙がありました。(次のページへ)
ギリシャ総選挙の結果が、さらなるユーロ安を呼ぶ?
一方、5月6日にはギリシャでも総選挙がありました。
これを書いている時点(日本時間5月7日朝7時)では、各政党の最終的な獲得議席数の情報は未だ入っていません。
しかし、今回の選挙ではこれまでの第一党だった全ギリシャ社会主義運動(PASOK)が、議席比率を解散前の43%から14%前後に落とし、第三党に転落した模様です。逆に、第二党だった新民主主義党(ND)が第一党に躍り出ました。
ギリシャの総選挙では第一党には50議席(16.6%)のボーナス議席が与えられることになっています。従って、今回獲得議席数約58議席(19%)とボーナス議席を合算した議席数は108議席(36%)程度になると見込まれています。
今回最大の番狂わせとしては、急進左派連合(シリザ)が議席比率を解散前の4%から16%前後に伸ばし、全ギリシャ社会主義運動を蹴落として、第ニ党に躍進した事です。
今回の結果をグラフで示すと下のようになります。内側の円が今回の結果で、第一党となった新民主主義党の議席比率にはボーナス議席の16.6%を含めてあります。新民主主義党ひとつでは過半数に満たないわけですから、どこかの政党と組んで多数派を形成しなければいけません。

その場合、伝統的には全ギリシャ社会主義運動が交渉の相手となってきました。しかし今回は新民主主義党の36%と全ギリシャ社会主義運動の14%を合計しても過半数の51%に届かないかもしれないのです。その場合は、急進左派連合と組まなければいけません。
そのへんの話し合いがどうなるかは未知数だと思います。幸い急進左派連合はユーロにとどまることを主張しています。
なお新民主主義党、全ギリシャ社会主義運動、急進左派連合の各政党は、いずれもIMF(国際通貨基金)と合意したギリシャ救済合意の条件緩和を主張しています。したがって、今後の多数派工作がどう転んでも、ギリシャ救済合意の条件は再交渉される可能性が高くなっています。
切り詰めだけでは、努力が水の泡になる
今回のフランスとギリシャの選挙で浮き彫りになったことは、せっかく、苦労して財政切り詰めの合意をしても、選挙で次々にそれらの政党が国民から退けられることで、努力が水の泡になっているということです。
その意味でも、たんにぎゅうぎゅう締め付けるだけではなく、どうやって成長や雇用を創出していくかという問題に欧州が取り組まなければいけない、ということが再認識されました。
なお、ギリシャ救済合意の再交渉に代表される、過去の取り決めの後退は、ユーロ安要因です。
ユーロ安という事自体は、こと成長という観点からみれば、むしろ歓迎される展開です。とりわけ欧州株にとっては政治家の関心が成長戦略にシフトしてきていることは強気要因です。
FacebookのIPO間近で、若いネット企業も連想高?
最後に、米国ではいよいよFacebookのIPO(新規株式公開)に向けた「ロードショー」がスタートしました。ロードショーとは、各地で開催される会社説明会のことです。
値決め予定日はいまのところ5月17日、取引開始は18日だと予想されています。初値設定は28ドル~35ドルになっています。セカンドマーケットなどの未公開株私設取引市場では44ドルの株価がついていたので、今回の初値設定はかなり低めだと思います。
主幹事証券の狙いとしては、ロードショーの進行過程で需要が積み上がるにしたがい、この初値レンジを切り上げることを目指していると思われます。
初値レンジ切り上げのニュースは早ければ今週中にも発表されると思います。その場合、過去1年くらいの間に株式公開された、若いネット企業の株価が連想から連れ高を演じる可能性があります。
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