中国、欧州のみならず、我が国の足元景気も減速・悪化しています。中国向けの輸出の減少などが響き、1月の鉱工業生産指数は前月比3.7%低下の100.8と、3カ月連続で低下しました。また、1月の機械受注統計では、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額は前月比5.4%減と、こちらも3カ月連続で減少しました。
これだけマクロ指標が悪化しているのに、足元の日経平均株価は底堅い動きを続けています。
現在の日経平均株価の底堅さは
「不景気の株高」によるもの
「なぜ、不景気なのに日経平均株価は強いのか?」―――その答えは、やはり、現在は、「不景気の株高」が発生していると考えるのが妥当でしょう。「不景気の株高」のメカニズムは、こうです。
まず、足元及び先行きが不景気ということで、日銀は緩和的な金融政策を維持、または強化します。しかしながら、ジャブジャブに供給されたマネーがあるからといって、先行きの景気・経済に慎重な見方を崩さない企業経営者はマネーを設備投資に回しません。その一方で、マネーは実際に十分余っているわけです。そうなると、そのマネーが出口(収益獲得)を求めて流動性の高い株式市場に入ってきます。その結果として株式相場が上がるという現象が発生するのです。これが「不景気の株高」と呼ばれます。
「不景気の株高」局面では、日銀の動向が重要!
次回の金融政策決定会合は要注目
「不景気の株高」の局面では、投資家が最も注視するべきは日銀の動向です。このため、あなたは、今まで以上に日銀の一挙手一投足に注意を払っておくべきです。
その日銀は、3月14~15日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、大規模緩和策(短期の政策金利をマイナス0.1%、長期金利である10年物国債金利をゼロ%程度に誘導する金融緩和策)の維持を決めました。また、株式市場での注目度の高い、国債以外の資産買い入れ方針についても、ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う方針を維持しました。
日銀は、我が国の景気に関しては、「輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられる」としています。まず、生産については、「鉱工業生産は、足もとでは弱めの動きとなっているが、緩やかな増加基調にある」と判断しています。一方、輸出については、「足もとでは弱めの動きとなっている」と判断を下方修正しました。
しかしながら、先行きに関しては、「輸出も、当面、弱めの動きとなるものの、海外経済が総じてみれば緩やかに成長していくことを背景に、基調としては緩やかに増加していくとみられる」として、やや楽観視しています。実際、黒田日銀総裁は政策決定会合後の記者会見で、今年後半には中国と欧州の経済が持ち直すとの見方を示しています。現時点では、日銀は先行きに対して「強気」維持です。
そうは言っても、日銀は、万が一、経済・物価の下方リスクが顕在化するようなら機敏な政策対応をするでしょう。
ちなみに、次回の金融政策決定会合は4月24~25日の予定です。ここでは、3カ月に1度改定する「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」が取りまとめられます。これで物価や成長率予測が引き下げられるようなら、日銀による更なる金融緩和の強化が期待できるでしょう。3月の会合で、「生産・輸出」の判断を引き下げたことは、その地ならしだった可能性もあると、私はみています。
日経平均株価の上値が重いのは、
海外投資家や国内金融法人による需給要因の影響
ただし、「不景気の株高」局面とはいえ、日経平均株価は底堅い一方で、上値が重いことも事実です。これは多分に需給要因が影響していると考えます。具体的には、売り越しを継続する海外投資家と、3月期末接近で保有株を売り急ぐ国内金融法人の存在です。両者の売りが日経平均株価の上値を抑えています。
3月第1週(4日~8日)の投資部門別株式売買動向では、海外投資家は5688億円の売り越しでした。売り越しは6週連続です。一方、この週の先物に関しては、海外投資家は4週連続買い越しで、日経平均先物とTOPIX先物を合算した買い越し額は3207億円でした。つまり、先物と現物株との合算では、海外投資家は2480億円の売り越しでした。
中国の景気減速が鮮明で、その中国と地理的に近く、企業収益へのインパクトが相対的に大きい日本株に関し、年金など長期スタンスの海外投資家は現物を売り続けていると観測されます。残念ながら、長期スタンスの海外勢からの現物売りは暫く続くのかもしれません。
一方、この週の金融機関は3週連続の売り越しでした。金融機関は3月期末にかけ、運用リスクの軽減及び益出しのために保有株式の売却を継続しているもようです。ちなみに、今年は改定コーポレートガバナンス・コード(金融庁と東京証券取引所が中心になってまとめた、企業統治のための行動規範)に持ち合い株の縮減方針が盛り込まれたため、例年に増して売りが膨らんでいるとみられています。ただし、この期末特有の金融機関からの売りが一巡すれば、売り方は海外勢だけとなり、月末にかけて日経平均株価の上値は軽くなる可能性があります。
日経平均株価は、当面の間、
2万0938.00円~2万1860.39円のレンジ相場に
以上のことから、日経平均株価の当面の下値メドは3月11日安値の2万0938.00円です。一方、上値メドは4日高値の2万1860.39円です。
そして、3月のSQ値2万1348.40円が、「強気」「弱気」を判断する基準値です。今後、SQ値を下回るようなら2万0938.00円方向を目指し、逆に、上回っている限り、2万1860.39円方向を目指すと考えます。よって、当面の日経平均株価の想定レンジは2万0938.00円~2万1860.39円です。
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このレンジを上にブレイクしたら「踏み上げ」が、逆に、下にブレイクなら「ナイアガラ」が発生する見通しです。しかしながら、海外勢の売りが続く限り「上方ブレイク」は期待薄でしょう。その一方で、想定外の外部環境の悪化がなければ「下方ブレイク」もないでしょう。よって、今週は「レンジ相場」が続くという前提で、相場に臨みましょう。
3月26日の権利付最終売買日以降、
レンジ相場からの「上方ブレイク」に期待!
ただし、3月26日は、3月決算期末の配当権利付き最終売買日です。特殊な需給として、26日の大引けや、27日の寄り付き付近では、パッシブ運用を行っている機関投資家からの配当の再投資の買い(配当落ちと同時に株価指数先物に買いを入れること)が入ることが見込まれます。この再投資の規模は、日本株全体で7000億円程度に達するとの市場観測があるようです。
このため、権利付き最終売買日の3月26日以降、日本株の需給は季節要因で大幅に改善していく見通しです。これが先述のレンジの「上方ブレイク」の原動力になる可能性はありそうです。
運用戦略としては、現在のような全体相場の膠着場面で、権利付き最終売買日である3月26日の前までに「押し目買い」狙いで、仕込むべきものは仕込んでおくべきだと考えています。
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