極端な話、自治体が1万円を受け取って、還元率100%として1万円相当の地元の特産品を提供した場合、自治体に残るお金はゼロとなる。しかし、地元の産業振興にお金が回ると考えればそれで十分だという自治体の判断もあり得る。
もしふるさと納税による「特需」で生産量を増やす必要が出てくれば、新たな投資や雇用を生み出す可能性すらある。現金として自治体に残らなくとも、経済的はプラスに働くわけだ。したがって、高い還元率をいとわない自治体が登場したとしても不思議ではない。
実際、今月になって宮崎県都城市が肉や焼酎などで最大8割還元の特産品の提供を始めたが、2日間で2500万円のふるさと納税が集まったという人気ぶりである。
他の自治体からは、「あのおかげでうちの自治体へのふるさと納税が減った」という声も聞こえるぐらいである。還元率を上げてふるさと納税の獲得に成功すれば、他の自治体から羨みややっかみの対象となると同時に、次の高還元率自治体の登場を促す。一種のチキンレースであるが、上で述べたように自治体にとっては産業振興と割り切ればOKであり、消費者にとっては純粋にお得度が上がる。
ただ、ふるさと納税の根底にある「地方を応援しよう」という想いの部分は風化して、完全に資本主義的なお得度競争となってしまい、ややギスギスした感が沸き起こる。それでも、地方におカネが回るほうが大事だという議論と、いや、バランスを取ったほうがいいという議論とさまざまであろう。なんらかの規制をかけて還元率の上限を定めるべきだという議論も出てきうるが、産業振興につながるのなら極論100%還元でもいいじゃないかという議論も当然ある。
特産品の換金性が今後の焦点
さて、前出の宮津市の事例に戻るが、1000万円のふるさと納税に対して750万円相当の土地なので、還元率は75%だ。都城市の80%より低い。では、なぜ宮津市の土地はNGで80%の都城市はOKなのか。
一つには換金性の高さがあろう。肉も焼酎もフリーマーケットで売れば現金化できる。しかし、食品には賞味期限がある。特に肉の場合は足が速いので、現金化するのは容易ではない。せいぜい、近所の人たちにおすそ分けして恩を売るぐらいであろう(もっとも冷凍肉であれば転売も可能となるが)。
あとは、750万円という金額自体の大きさも目を引いたことは間違いない。現行制度上、ふるさと納税を実施して税控除が受けられるのは、住民税の1割程度が上限となっており、国民の大多数にとっては、税控除が受けられるふるさと納税の金額の上限は数万円の単位であり、それに対してたとえ100%の還元率が適用されても納税者の懐に入るのは、数万円相当の特産品である。それを転売して現金化したところで、実質的に得られるキャッシュは目をつぶってもいいぐらいとなる。
しかし、やはり2000円で750万円を獲得したとあっては、話は変わってしまう。ここには、理論的な整合性はなく、結局感情面をも考慮した「程度の問題」なのだ。なお、来年度には税控除を受けられる金額の上限が住民税の2割に引き上げられることが検討されているので、そうなると一般市民でも10万円程度まで寄付金控除の範囲内で寄付ができるようになる。
また寄付金控除の対象外となる金額が2000円から1000円に引き下げられることも検討されているようなので、そうなった状況で還元率が100%の特産品が登場すると、実質負担1000円で10万円相当のモノを獲得することができるようになる。それが転売可能なものであれば、1000円で10万円のキャッシュを手に入れることになるので、そうなると換金性の高い特産品に関してはやや扱いが微妙になってくるかもしれない。
このように考えると、特産品に関しては換金性の高さと金額自体の高さ、この二つが今後要注意ということになる。それ以外に関しては、例えば還元率に上限を設けるという規制などは行わない方がふるさと納税のさらなる発展のためにはよかろう。
というのも、メディアで取り上げられることが多くなったふるさと納税ではあるが、まだ実際に行っている人はわずかであり、これから市場を拡大していく必要があるからだ。
もっとも、そもそも特産品の提供は、本来のふるさと納税の趣旨に反するという考えのもと、ふるさと納税をしてくれた人に対して特産品を提供していない自治体も多く存在する。
そういう自治体にしてみると、特産品の提供自体を禁止するように規制してほしいという意見もあろうが、特産品を提供すれば納税額が増えるのは現実であり、首都圏の自治体への税収が減ることを除けば誰も損をしない以上、特産品を禁止するのもなかなか難しい。
よって、しばらくは還元率競争は続くのではないかと思われる。消費者にとっては朗報だが、自治体にとっては還元率以外のユニークさなどで勝負する必要が出てこよう。
ふるさと納税の特産品が人気の自治体の中には、実際にふるさと納税のおかげで特産品の生産が間に合わず、新規投資や雇用が必要になっている事例も登場しつつある。政府による地方へのバラマキよりは効果的な地方経済活性策にもなりつつあるので、健全な発展を遂げていくことが利害関係者の一致した願いでもあろう。
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