大阪都構想が否決された。ちょうど投票日の夜から翌日にかけて関西出張だったので、開票の行方および大阪維新の会の敗戦の会見などをテレビで見ることができた。
そして、翌朝の新聞は現地ですべての主要紙を購入して、その報道内容を比較検討することもできた。新聞はどれも、選挙結果に対して、勝者なき結果、議論が白紙に戻っただけ、今後さらなる議論が必要という論調であった。
相対感では、読売新聞がもっとも橋下氏、維新に対して批判的である一方で、今後大阪市について何を議論すべきかというポスト住民投票という視点での記事を掲載していた。
内容は自民党の代替案を紹介するものであったが、それでも他の新聞が結果を報道するにとどまったことに比べると、より建設的な議論を促したいという意図は見えた。もう少し報道の仕方に色が出るかなと期待をしていたのだが、やはり選挙結果が僅差だったことで、どちらかに寄せた書き方をしにくい状況であったのだと想像する。
投票者の5人に1人の70代以上が反対多数だった
新聞、テレビなど、各種メディアの出口調査による投票の中身を見ると興味深い。
年代別では、70代以上は反対多数、60代で賛否拮抗、それ以下の世代では賛成多数である。そして、投票者の5人に1人が70代ということで、結局、日々時間があって、寿命まで平穏に過ごしたい、このままの体制で逃げ延びたいという70代以上の民意によって大阪の運命が決定されたわけである。
これほど明確に世代間の意識格差が表れた事例は、他でもなかなかないのではないかと思われる。若い世代にとっては、自らが投票に行かないと高齢者層にとって都合のいい政策が選ばれてしまう、ということをまざまざと認識することになったわけだ。わが国の選挙が置かれている現状を理解するには非常にいいケーススタディとなった。もっと若い世代が投票に行っていれば、という思いがもたげるが、若い層に投票に行きたいと思わせることができなかった点も、賛成派の大きな敗因の一つでもある。
また、出口調査では、居住エリア別の得票率のデータを出しているものもいくつかあった。それを見ると、大阪市をザックリと南北で分けると、北側エリアで賛成多数、南側エリアで反対多数という結果であった。北側エリアには梅田などビジネスの中心地が含まれるが、いわゆる下町では反対が多数となったわけだ。
各党を横断して議論をまとめるのは不可能
また、いくつかの新聞では、大阪都構想は大阪維新の会が主導して作ったものであり、他の党の意見を入れ込むことや超党派ですり合わせができていないことを批判していた。
この点は、確かに党を横断する形で建設的な議論ができれば理想であろうが、大阪市議会、大阪府議会で野党の立場である維新以外の党にしてみると、手柄を大阪維新の会に渡したくない。ゆえに、この法案そのものに反対の姿勢を取る必要があり、党を横断して議論をまとめていくというのは、現実的には不可能である。
国会運営においても、多数派である与党が案をまとめる一方、他の野党が反対をするというのは、通常の構図だ。したがって、この構図を敗因の一つとして掲げてみても、あまり意味はない。
タウンミーティングなど住民に対する説明およびヒアリングの機会をもっと設けるべきであったという主張はもっともであるが、すでに5年以上この議題についやしており、これ以上の時間の空費をさけるべきという意見も納得できる。
結局、どんなに議論を尽くしても分からないことは残るし、やってみないと分からないことも山ほどある。その意味では、やってみなはれで行くのか、不安がある限り現状維持とするのか、結局、住民は究極の判断を迫られることには変わりなく、時間をかけてもあまり結果は変わらなかったのではないかと思われる。
経済の地盤沈下が続く大阪圏、相対的に上昇する中京圏
大阪圏、関西圏の地盤沈下は著しい。大阪に本社があった企業は軒並み東京に本社を移している。
東日本大震災で第2本社の必要性を実感する企業が増えたが、それすら関西圏はビジネスチャンスに変えることがなかなかできていない。この20年ほどの間に、東京は空路、鉄路、陸路とすべてにおいて交通インフラが整備されてきた一方、関西は空路が空港間で綱引きを続けており、それを受けて鉄路もあまり発展しない。
人口変化率を見ても、首都圏はプラスの一方、関西圏はすべてマイナスである。そのように、なんらかの変化が必要な時期に出てきた大阪都構想であったわけだ。ただ、どうにかしないといけないのは経済である。
今回の大阪都構想は、まず行政の無駄を省いてスリム化し、その上で経済発展をして行こうという趣旨だったが、経済発展のところがやや見えにくかったということはあろう。「アベノミクス」という標語や、そこでの「3本の矢」のような分かりやすい経済政策があればもう少し話は変わっていたかもしれない。
毎週、関西に出張しているがとにかくアクセスが悪い。新幹線だと、新大阪で乗り換えが必要だし、空路では伊丹空港に乗り入れている鉄道はなく、関空、神戸空港では大阪の中心地からやや遠い。
それに対して、名古屋圏はリニアの開通が控えている。現状ではますます大阪圏の地盤沈下と相対的な中京圏の上昇が進んでいくと考えられ、何らかの大胆な手を大阪は打つ必要がある。その代替案は、どの党も提示できていないし、各種メディアもノーアイデアである。残された時間はあまり多くはないと考えるべきであろう。
東京と大阪、朝刊1面の橋下氏の写真が表すもの
出張から東京に戻って各種新聞を見ると、使用している写真が違うことに気付いた。東京では、1面の橋下氏の写真に苦虫をつぶしたような苦渋の写真を使用している。大阪での朝刊はどれも清々しい、ややもすると笑顔に見える橋下氏の写真を用いていた。実際記者会見での橋下氏は、きれいさっぱりした表情で受け答えしていた。清々しい表情の写真を用いたところに、在阪メディアによる橋下氏への一定の功績をたたえる思いを見た気がした。
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