シャープ(6753)の時価総額が1600億円を切るというレベルにまで低迷してきている。つい2年ほど前には時価総額は1.4兆円に届こうかというレベルであったことからは、今のシャープの状況を想像できた人はいまい。
特にこの1週間の株価の下落が顕著であり、時価総額ベースで500億円消滅している。格付機関や証券会社の株式アナリストのレポートでもポジティブなニュースは出てこない。こうなってくると株価の下限について何かアイデアが欲しくなってくる。
今の時価総額はほぼ精算価値に近い
収益やキャッシュフローをもとに株価を算出するという従来のやり方を、それらの先行きが読めない今の状況のシャープに当てはめることは難しい。そこで保有資産を見てみることにする。大きなものとしては工場がある。
同社の直近の有価証券報告書によると亀山工場の簿価は1800億円、三重工場で720億円、堺工場のシャープ分で670億円、子会社のシャープディスプレイプロダクトの分で1800億円となっている。これらを合計すると、約5000億円である。現在の坪単価などを考慮すると約6000億円ぐらいと考えてよいだろう。
また持ち合い株などの有価証券をいくつか保有している。有価証券報告書には29の株式銘柄の保有株数が記載されているが、それらの直近の株価を下に保有株の時価を計算すると355億円となり、工場と土地、保有株を合計するとざっと約7000億円となる。
そのほかにも海外も含めて工場や社屋、そして子会社株などを保有しており、一部メディアでは上には含んでいない海外の工場や子会社株の売却によって2000億円を捻出する方向などとも言われている。そして、特許など無形資産も有する。それらも合わせて考えるとざっくりと最低でも1兆円超程度の資産バリューはあると見ておけばいいだろう。
一方、6月末時点では有利子負債は1.2兆円、現預金が2000億円強であり、ネットでの借入金が1兆円という状況である。
事業からのキャッシュフローが読めない以上は、保有資産のバリューからネットでの借入金を差し引いた金額が時価総額に近くなるが、それに加えて今後行なうであろうリストラの費用も見ておく必要がある。
そのように考えると、最近の時価総額2000億円前後というのは清算価値に近い金額と見ておいて良いだろう。保有資産の価値はあまり低下しないので、今の精算価値に近い時価総額はもし今後の業績回復を期待するならば、ボトムに近い時価総額と捉えることができる。
現段階での資本提携は無形資産をタダで渡すことと同じ
しかし、もし経営破綻のような最悪の状況も視野に入れて考えるのであれば、ボトムとは判断できなくなってしまう。シャープの株価に対する判断というのは、独立経営が維持できる可能性が高いと見るか、あるいは、経営破綻の可能性が高いと判断するのかという構図になってくる。
その意味では、銀行団がシャープをどこまで支えるのか、借り換えに応じるのかという点が最重要になる。もっとも、銀行団にしてみるとリストラや資産圧縮を行う一方で、外部パートナーからの資本注入による財務基盤の強化と信用補完をしてくれれば融資に応じるということになるはずである。
となると、カギは鴻海をはじめとする外部パートナーとの資本提携になるが、シャープにしてみるとほぼ清算価値になってしまっている今の株価で資本提携をするのは避けたいところだ。なぜなら、今まで培ってきた事業ノウハウや特許などの無形資産をほぼタダ同然で引き渡してしまうことになるからである。
そのあたりのせめぎ合いが、ポジティブなニュースがなにも出てこずに時間だけが過ぎていく今のシャープの状況といえよう。
しかし、一方で、シャープの持つ有形無形の資産や事業に興味がある企業やファンドにしてみると、今の時価総額であれば買収金額そのものはたいして大きくないので、勝手にTOB(株式公開買付)をかけてしまい買収に乗り出すことも不可能ではない。
もしそんなことになれば、経営陣が決断できずにいる間に、結局事業が他者の手にわたってしまう。シャープ経営陣もそのあたりの時間的リスクや早期決断の必要性は分かっているはずだが、なかなかシャープにとって都合のいいパートナーが見つからないのであろう。
官製ファンドの支援には大義名分が必要
半導体周りでは、官製ファンドを軸として国をあげて企業をサポートするような流れが出てきており、シャープでも同様のことが起こる可能性はある。
特に優先株を用いるなどすれば、シャープ経営陣にとっては受け入れやすい提案となる可能性は高い。しかし、いたずらに官製ファンドが個別企業を支援するような構図は、国のお金の使い方としてはやや公平・公正に欠ける節がある。もしそのような流れにする場合は、何らかの大義名分が必要であろう。
個人的には経営陣が簡単にバンザイするとは思えず、外部パートナーとの条件をギリギリのところまでつめて、最終的には信用補完をしていくものと想像し、ややゲーム感覚的ではあるが、今の時価総額であれば新規に株式投資の対象とするには面白いと思うが、いかんせん事業環境の変化が最も激しい業界に属する企業である。
今月に入っての株価の急激な下落は、経営陣に対しての意思決定スピードを早めるように、という警告だとも見て取れる。
筆頭株主のパイオニアに注目するワケ
あと、株式投資ネタという点では、シャープが筆頭株主であるパイオニア(6773)には注目しておきたい。
今は銀行融資の担保に入ってしまっているので、これを売るには相応分の借入金を返済する、または別の担保を入れる必要があるため、すぐに動かすことはできないかもしれないが、どこかのタイミングでシャープが手放すことがあれば、パイオニアも新たなパートナーを探す必要が出てくるはずで、それとのシナジー創出を見越して今の段階でパイオニア株を仕込んでおくというのはアリかもしれない。
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