最悪の場合は“物々交換”の時代へ逆戻り
このように小切手の動きを封じるとなると、キプロス国内のあらゆる商取引がやりにくくなることが予想されます。上に書いたように現金の引き出しも制限されているわけですから、この規制が長引けば、最悪の場合“物々交換”の時代にもどるような不都合さが生じるリスクがあるのです。
さらに、3つ目の方策として「連帯投資基金」の設立が可決されました。これはキプロス政府の持つ資産をこの基金に移管し、その信用力を担保にお金を前借りするという仕組みです。具体的には地中海沖の天然ガス田の権益やキプロス市民の年金ファンドの資産などを「ちょっと拝借」することになると言われています。
もちろんキプロス政府は「何とか銀行を救おう」という善意からこれらの非常事態下での措置を講じようとしているだと思いますが、ちょっと間違えば、庶民は銀行預金の一部だけでなく年金も失うリスクに晒されるわけで、政府が国民の財産の処分に関して勝手に判断を差し挟むことを可能にする、上記の一連の立法には批判の声もあります。
この連帯投資基金が実際に実行に移されるかどうかに関しては、現在のところ判然としません。
日本は、戦後で唯一“預金封鎖に成功”した国
なお預金税は過去にいろいろな国で導入が試みられましたが、その大半は失敗に終わっています。第二次世界大戦以降で唯一、預金封鎖に成功したのは日本です。
当時日本は戦争で多額の債務を抱えており、しかも太平洋戦争の過程で財閥の経済支配が強まり、貧富の差が拡大しました。そこで戦後の国家の立て直しに際しては、偏在する富を是正することが欠かせないと、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)は考えたのです。そこで預金封鎖をした上で、旧円を新円に切り替えることを実施しました。
ギリシャ、スペインに飛び火するか注目
さて、話をキプロスにもどすと、キプロス政府がEUの意向に沿うと決めたことで、当面、欧州中央銀行(ECB)からの緊急流動性支援プログラム(ELA)は継続されると思います。
これは言わばキプロスに対する「酸素補給」です。しかし、これでキプロスの危機が一件落着するかどうかは、まだ予断を許しません。
実は、今回の騒動で当初の予想より上手くいっていたこともあります。それは少なくともこれまでのところギリシャやスペインなどの近隣国では取り付け騒ぎが起こっていないということです。
ただ、今回、ライキバンクの大口預金者が10万ユーロ以上の部分に関して全てを失う可能性が出たことを見て、近隣国の預金者が浮足立つ可能性が無いとは言い切れなくなってきました。
とくにイタリアの場合、先の選挙の後、現在もまだ多数派形成ができておらず、政治は空白になっています。仮に再選挙ということになった場合、ユーロ離脱派が大幅に得票を伸ばす可能性もあります。
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