メディア露出の経済価値は10.4億円
上士幌町のふるさと納税に関する取り組みは、これまでに数多くのメディアに取り上げられている。今後町を発展させていくためには、町の全国的な知名度向上は非常に重要であると考えられるため、今回、メディア露出効果の経済価値を試算した。
具体的には、上士幌町が把握している平成26年度にメディアに取り上げられた媒体の情報をリストとして提供してもらい、それら各媒体に広告出稿をしたならばかかる費用を推計し、その合計値を経済価値とした。ただし、各媒体の広告出稿費用については、公表されているものが非常に限定されているため、放送、新聞、広告業界の関係者に一般論としてヒアリングを行い、概算として計算した。
結果は、テレビ・ラジオで約9.8億円、新聞雑誌で約6300万円、ウェブメディアで約300万円、合計約10.4億円となった。
ただし、ウェブメディアにはふるさと納税のポータルサイトでの紹介や掲載は含まず、報道ベースのみとした。テレビ・ラジオの金額が大きくなっているが、TBS「中居正広の金曜日のスマたちへ」、NHK「クローズアップ現代」など、全国ネットの人気テレビ番組で長い尺分数をかけて何度か取り上げられたことの影響が大きい。テレビでとりあげられた回数は地方局の番組も合わせると50回を超えた。
なお、メディア報道によって上士幌町へのふるさと納税の金額が押し上げられたと考えられることから、メディア報道の経済価値は、一部は上で試算したふるさと納税の経済波及効果に反映されていると考えられる。よって、経済波及効果とメディア露出の経済価値には重複部分が存在する点は留意が必要である。
観光客増加による観光消費額は約1800万円
上士幌町が2015年1月に実施した「ふるさと納税感謝祭in東京」のアンケート結果によると、感謝祭への参加希望者のうち約7割の人たちが上士幌町への観光に関心を持っていることが判明している。
したがって、ふるさと納税は自治体への観光客の押し上げ効果が期待される。そこで、ふるさと納税をきっかけとした観光客の増加による、観光消費額を計算してみた。
平成26年度の観光客入込数のデータはまだ発表されたものがないため、ふるさと納税でのメディア露出で取り上げられた町の店舗へのヒアリングなどを通じて、ふるさと納税をきっかけとした上士幌町への観光客の増加数を年間1200人と仮定した。月100人、1日3.3人ということになる。
このうち、平成25年度の同町の観光客入込数データなどを参考にして、13.4%を道外客(1泊宿泊と想定)、残りを日帰り道内客と想定した。観光消費額の金額は、北海道観光産業経済効果調査委員会のもの(平成23年3月)を使用したが、上士幌町の面積は北海道のそれに比べると非常に小さいため、道外客の消費金額をそのまま適用すると大きくなりすぎると思われるため、道外客の消費金額は道内客の宿泊客と同じ金額を適用した。
計算結果は、ふるさと納税をきっかけとして上士幌町で増加した観光客による観光消費額は約1800万円であった。
ふるさと納税どうすべき?
ふるさと納税については、資金調達がうまくいっている自治体では制度の恒久化を望んでいる一方、住民税の資金流出となっている自治体にとっては頭の痛い問題となりつつある。おそらく、国全体での効率的な税金の使い道としてふるさと納税が適切かどうかに関しては、別途議論の余地があろう。
今回の試算では、北海道上士幌町では10億円の徴税に対して12.2億円の経済波及効果と82人の雇用者誘発人数となったが、この10億円は、もともとは別の自治体の住民税であり、それら自治体で住民税として納められていた場合の経済波及効果と比較して、どちらがより高い経済効果をもたらすかを比較検討してみる必要も、本来はある。
ただ、ふるさと納税は、我が国で唯一納税者が納税先とその使途を指定できる税金であり、納税者の納税意識と納税先に対するモニタリング意識の高まりには貢献することが考えられる。それらを通じて、税金を使う側の自治体もより効果的に税金を使おうと意識を変えざるを得なくなると考えられ、その意味ではふるさと納税を通じて国全体としてより効率的な税金の使用の意識が高まるという副次的効果は期待できよう。
また、寄付金控除において、2000円は控除対象外であるため、国全体としては納税金額が大きくなるという効果もふるさと納税は持ち合わせている。それらをも勘案して、経済波及効果等の観点も含め、ふるさと納税に関しては今後健全な議論がなされていくべきだろう。
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