株ニュースの新解釈

ヤクルトの敵対的買収報道は意図的なリークの可能性も。投資家はヤクルト株に飛びつくな!

【第73回】 2012年4月27日公開(2025年3月21日更新)
保田 隆明
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 ダノンによるヤクルト株の買い増しの可能性が注目されている。

 ダノンは既にヤクルト本社(2267)の20%の株式を保有する筆頭株主であるが、この持分比率を引き上げないという両者間の契約が来月半ばに切れる。

計数面ではダノンにとって
ヤクルト株の取得は大成功

 もともと両者が2004年に合意した内容は、向こう5年間は持分比率を20%よりも引き上げない、その後5年間も実質的な経営権を握るまでには経営権を引き上げないというものであった。2007年に前半の5年間の部分を3年間延長することが合意され、今回切れるのはこの通算8年にわたる「20%は超えない」という部分である。

 これが切れれば、ダノンはヤクルト株を実質的な経営権を握らないぐらいまでであれば株式を買い増せることになる。

 実質的な経営権とは何パーセントを指すのかについては、両者のこれまでのプレスリリースなどからは具体的な数値は示されていない。

 ヤクルトはダノンの連結決算上は既に持分適用企業であり、ヤクルトが利益を上げてくれればその分はダノンの連結決算にプラスに影響してくれる。多少のブレはあるが、ヤクルトはコンスタントに利益をたたき出す企業である。

 また、ダノンがヤクルト株を5%から20%に買い増した2003年に比べると、ヤクルトの株価はほぼ2倍になっている。このように、数字面からはダノンにとってヤクルトの株式取得はこれまでのところは成功と言える。

役員の選任議案の賛否に見る
ヤクルト内部者によるダノンへの拒絶反応

 一方、昨年の株主総会での取締役選任議案に対する株主による賛成比率の数値が興味深い。同社には15名の役員がおり、うち10名が内部者、5名が社外取締役である。社外のうち、3名がダノンの人間だ。社内10名の役員に関しては、選任への賛成率はみな94.0%であり、社外取締役のうちダノン以外の2人についてもほぼ同じ水準である。

 一方、ダノンからの3人に関しては賛成率が88.6%にとどまる。十分に高い賛成率を得ているとはいえ、株主のうち誰かが明らかにダノンからの役員派遣に対して苦々しく思っていることが分かる。おそらく内部者の株主の一部が反対に回った結果であろう。ここからは両社の確執はまだ深いものがあると考えられる。

 したがって、今後の両者の関係が友好的な形で発展していくとはなかなか考えにくい。そうすると、今後の考えうるシナリオとしては、究極的にはダノンによる敵対的買収、あるいは、ヤクルトが株式の売却を迫る、のどちらかになると思われる。しかし、この両方ともすんなりとは実現しそうにはない。

シナリオとしては、自社株買いまたは
敵対的TOBなど考えられるが・・・

 ヤクルトがダノンに株式の売却を迫った場合だが、先に述べたように株価はダノンが取得したときの倍になっているため、ダノンとしては売却をしやすい状況にはある。しかし、事業戦略上重要であり、かつ、安定的に収益を稼いでくれるヤクルト株を手放すインセンティブはダノン側にはほぼないはずだ。

 また、ヤクルトにしてみると最もキレイなのは自社株買いで応じることであるが、ダノンが保有するヤクルト株の時価は1000億円強である。一方、同社が保有する実質的なネットキャッシュ(現預金から有利子負債を差し引いた金額)は300億円程度しかない。よって、なんらかの資金手当てをしない限り自社株買いで全額応じることは難しい。

スズキ-VWに似た構図
敵対的買収はできない

 ヤクルトには買収防衛策は導入されていない。ゆえに、ダノンは比較的敵対的買収を仕掛けやすい状況にはある。

 しかし、敵対的買収を仕掛けてホワイトナイトが登場すると、買収金額が高くつくだけでなく、場合によってはホワイトナイトにヤクルトを取られてしまう可能性もある。ホワイトナイトに取られても、保有しているヤクルト株式を高値で売却できればいいじゃないかという意見があるかもしれないが、そこはマネーゲームとは異なり、ダノンにとってヤクルトは戦略的にどうしても欲しい企業である。

 したがって、やすやすと手放すわけにはいかない。敵対的買収は手っ取り早いが、ダノンにとってのリスクも非常に大きく、これは抜くに抜けない刀だと考えるべきである。それはスズキ-VW(フォルクスワーゲン)の事例からもうかがえる。

 軽自動車のスズキは、昨年、同社株の19.9%を保有するVWに戦略的提携の破断を申し入れ、株式の売却を迫った。しかし、VWはそれには応じず、硬直状態が続いている。自主独立を維持したいスズキの状況は、ヤクルトと似ている。

 スズキのケースでは、昨年提携解消の動きとなった時点では、スズキの株価はVWが株式を取得した時よりも下がっていたこともあり、VWは株を売るという選択肢は取れなかったはずである。むしろ株価が下がっているならば、スズキに対して敵対的買収を仕掛けるという選択肢も考えられたであろう。

 しかし、そういう行動には出ていない。その理由のひとつは、当初は非常に友好的であった関係(少なくとも表面上は)に対して、たった2年弱で敵対的TOBに踏み切るわけにいかないということが考えられる。そして、一番大きな理由としては、まだ日本では敵対的買収の成功事例がほとんど存在しないことであろう。

 ダノン、VWともに、事業戦略上どうしても手放したくない株式だからこそ、敵対的買収に打って出にくいという状況なのである。

じわじわと株を買い増す時間稼ぎが
両者にとっては都合のいい落としどころか

 このようにヤクルト、ダノン両者にとってやや手詰まり感がある状況での解決策は、これまで同様の時間稼ぎで終わる可能性が少なくない。

 ヤクルトにしてみると敵対的買収を仕掛けられるのがもっとも怖い。だからこそ、2004年以降は提携推進室を設けて表面上は関係の修復に動いている。ただ、これはヤクルト側にしてみると、時間稼ぎの側面が大きいであろう。何か提携に向けて前向きな姿勢をポーズとして見せておかないと、いつダノンが敵対的買収を仕掛けてくるかわからないからだ。

 一方、提携推進室設置から既に8年が経過し、その間の果実と言えばインドやベトナムでの合弁会社の設立程度であり、ダノンにしてみると、もっと具体的な果実が欲しい、あるいは、いつまでもヤクルトの時間稼ぎに付き合っていられないという状況になっているとしても不思議ではない。

 これ以上ダノンを焦らすわけにはいかないため、ヤクルトとしては多少の持分引き上げは飲み込まざるをえない。ヤクルトは既にダノンの持分適用企業である。したがって、多少持分比率を引き上げられたところで、実質的には何も変わらない。

 ただ、3割に迫るとダノンから社外役員の人数を増やしてくれという圧力を受けかねないので、できれば20%台半ばあたりで収めたいところである。一方、ダノンにとっては持分割合を増やすことができれば、8年間続いた硬直状態を少し動かすことができる。実態としての果実は大きくはないが、表面上は大きな前進であろう。

4月21日の日本経済新聞報道後に株価は急騰した(ヤクルト・日足チャート)

 今回のニュース、発信元が欧州だったことから考えても、ヤクルトから何らかの果実を引き出そうとしたダノンがメディアに意図的に「敵対的買収の可能性もあり」と刺激的な内容でリークしたと考えるのがしっくりとくる。ヤクルトをビビらせて持分引き上げに合意させようということであろう。投資家としては敵対的買収を期待して焦って同社株に飛びつく必要はなさそうである。

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