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徳川宗家第19代当主・徳川家広さんが、贅沢とは言えなかった幼少期や現在のお金との向き合い方を語る!大河ドラマで注目の江戸時代から今学べることとは?

2023年10月7日公開(2023年10月2日更新)
ザイ編集部
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NHK大河ドラマ『どうする家康』の影響で、2023年は改めて脚光を浴びた徳川家康。その末裔にあたる徳川宗家19代当主・徳川家広さんのインタビューを公開!

ダイヤモンド・ザイでは、毎号異なるゲストに「お金との向き合い方」について聞くインタビュー記事「おカネの本音!」を掲載中。発売中のダイヤモンド・ザイ11月号のゲストは、徳川宗家第19代当主で、翻訳家・経済評論家の徳川家広さん。

徳川家広さんは2023年1月から徳川宗家第19代当主に就任し、公益財団法人徳川記念財団の理事長も務める。今回は”将軍家の末裔”の幼少期のエピソードから、江戸時代の隠れた”名君”の逸話まで、貴重なお話を伺った!
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父は日本郵船に勤めており、米国で幼少時代の一時期を過ごす
家の手伝いでお小遣いをコツコツもらうのが楽しみだった

──帰国子女だそうですね。

徳川家広さん徳川家広さん●1965年、東京都生まれ。翻訳家で作家。徳川宗家19代目。ミシガン大学で経済学修士号を取得。国連食糧農業機関(FAO)などに勤務後、コロンビア大学で政治学修士号を取得。訳書にシルヴィア・ナサー『大いなる探究』(新潮社)、グレッグ・スミス『訣別 ゴールドマン・サックス』(講談社)、ウィリアム・バーンスタイン『「豊かさ」の誕生』(日経BP)など多数。著書に『なぜ日本経済が21世紀をリードするのか』(NHK出版新書)、『自分を守る経済学』(ちくま新書)など。
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徳川 日本郵船に勤めていた父の転勤で、小学1年生から3年生までの間、ニューヨークに住んでいました。街の中心部ではなく、スコット・フィッツジェラルドの小説『グレート・ギャツビー』の舞台にもなった、おカネ持ちが住む郊外のエリアです。

 もっとも、駐在員として赴任した父は、決しておカネ持ちではなかったので、立派な屋敷を借りていたわけではありません。どちらかと言えば、庶民的な家でした。

 米国に移り住んだときは、1ドル360円の時代の終わりでしたが、米国と日本の経済力の差は依然として圧倒的でしたね。

──当時、お父さま(徳川恒孝氏)は徳川宗家の第18代当主となっておられましたが、“将軍の末裔”でも、贅沢な海外生活を楽しめるという感じではなかったのですか?

徳川 生活水準も米国の中間層と同じぐらいだったのではないでしょうか。あのころ、米国の子どもたちは、家のお手伝いをすると親からお小遣いをもらえたものですが、わたしも庭の芝刈りで15セント、皿洗いで25セントと、お小遣いをコツコツもらうのが楽しみでした。

 25セントあれば、キャンディやプラスチック製のおもちゃが買えた時代です。日本の子どもが駄菓子屋でお小遣いを遣うのと同じ感覚ですね。

──“将軍”イコール“おカネ持ち”という勝手なイメージがあったので、ちょっと意外です。

徳川 戦前の徳川宗家(公爵家)は、現在の東京体育館がある場所に約2万坪(6万坪という説も)の屋敷を所有していました。

 16代の家達が亡くなり、曾祖父(第17代・徳川家正氏)の代になるとともに原宿に引っ越したのですが、敷地も家も狭くなり、隣近所の音が聞こえてくるような環境に移り住んだことで「夜眠れなくなった」と16代未亡人は祖母に訴えていたそうです。

──なぜ、引っ越すことになったのでしょうか。

徳川 長く貴族院議長を務めた16代の家達の最後の公務が、1940年に予定されていた東京オリンピック(結局、開催されず「幻の東京オリンピック」として記憶されている)の実行委員長でした。

 軍国色が強まるなか、平和主義の代表的人物として、公にどう貢献するかを考えた結果、苦渋の選択で千駄ヶ谷の屋敷をオリンピックの会場として、東京市に寄附したのです。

 結局、東京オリンピックは開催されることなく、建物はそのまま。空襲にも遭わず、戦後は占領軍の米軍将校クラブとして使用され、独立とともに建物は壊されてしまったということです。

寄附で財産を減らすも、銀行家の祖父に投資で増やす考えはなかった
自身も贅沢はしないが、お金は本や音楽などに遣うのが専門

──オリンピック施設がまるまる御実家だったなんて、すごい話ですね。ところで、父方のおじいさま(松平一郎氏)は、幕末の会津藩主・松平容保公のお孫さんだそうですね。

徳川 会津松平家の系譜です。徳川家は直系のほか、尾張・紀伊・水戸の御三家、田安家・一橋家・清水家の御三卿から後継者を決めていましたが、第18代の当主である父は、最後の会津藩主である松平容保のひ孫にあたります。

 父の祖父にあたる松平恒雄(容保の4男)が、外交官として16代の家達を支える仕事をして親しくなり、恒雄の長男で私の祖父にあたる松平一郎と、家達の孫娘の豊子とが結婚して、父が生まれたというわけです。その父も今年1月、高齢を理由に家督をわたしに譲りました。

 また、父は徳川宗家に代々伝わる古文書や文化財の保存・研究・公開を目的とする公益財団法人徳川記念財団を2003年4月に設立しましたが、その理事長の職も、わたしが引き継いでいます。

──寄附などで財産を減らしたというお話でしたが、失った財産を投資で増やすといったことは考えなかったのでしょうか。

徳川 少なくとも、祖父はまったく考えていなかったようですね。祖父の松平一郎は、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)とカリフォルニア・ファーストバンクの会長を務めた銀行家でしたが、個人資産を増やすために利殖をするのは恥ずかしいと思っていたようです。

 また、祖父の妹の勢津子は、昭和天皇の弟にあたる秩父宮雍仁親王の妃となっています。皇族と親戚関係になったので、みっともないことはできないというのも、投資をためらった理由かもしれません。

──家広さんも、そのスタンスを受け継いでいるのですか?

徳川 おカネはもっぱら遣うだけです。と言っても、贅沢な買物をしているわけではありません。子どものころから読書と映画、音楽が好きだったので、もっぱらそれらにおカネを注ぎ込んでいます。あとは、おいしいものを食べることぐらいでしょうか。

 食べ物に関して言うと、大学を卒業して、国連食糧農業機関(FAO)に就職したときが最高に恵まれていましたね。最初の赴任地はFAOの本部があるローマだったのですが、何しろ“美食の都”ですから。

 国際公務員は、基本的に所得税がかからないので、もらった給料を丸々遣えるんです。おかげでいろんな食事を楽しめましたし、好きな本もたくさん買うことができた。とても幸せな時間でした。

 その後、FAOの支部があるベトナムの首都ハノイに転勤したのですが、物価は安いけれど、あまりモノがない時代だったので買物についてはさほどの思い出がありません。ただし、ここで妻(ベトナム人女性)と知り合って結婚したのですから、忘れがたい国ではあります(笑)。

──徳川宗家は、そもそも読書好きの家系なのでしょうか。

徳川 それはどうかわかりませんが、今年の大河ドラマ『どうする家康』で再び脚光を浴びている徳川家康は、無類の読書好きだったみたいですね。10代のころから『論語』や『史記』など中国の古典を読み漁り、人心掌握術や、君主として国や民をいかに治めていくべきか、ということをかなり学んだようです。

 しかも家康の場合、ただ書物を読むのではなく、学んだことは必ず実践して自分のものにする、という取り組み方が素晴らしかった。「神君」(神のように偉大な君主)と崇め奉られるのには、それなりの理由があったわけです。

「生類憐みの令」の綱吉公が行った「貨幣改鋳」は、
悪手と見なされる場合が多いが、実は大成功だった!

──やはり、徳川歴代将軍のことはかなり深く研究されていらっしゃるのですね。家広さんの著書の中で非常に印象的だったのは、5代将軍の徳川綱吉公が行った「貨幣改鋳」は、実はそれほど悪い政策ではなかった、というエピソードです。

徳川 綱吉が行った貨幣改鋳とは、簡単に説明すると、金貨に含まれる金の含有量を減らすことでした。江戸時代の初めごろまで、日本は金銀の産出量が世界有数の“鉱物資源大国”でした。幕府の主たる収入源も鉱山経営の収益だったのですが、綱吉公の代になると、全国の金山や銀山が枯渇してしまったのです。

 そこで、綱吉は苦肉の策として貨幣改鋳に踏み切るわけですが、これが後世の人々から、かなり否定的に評価されました。反対派だった新井白石の自伝『折たく柴の記』が読み継がれている影響です。

──金の含有量を減らせば、金貨そのものの価値が下がって、インフレを招く恐れがあります。

徳川 ところが、実際にはインフレは起こらなかった。改鋳しても通貨価値が大きく下落することはありませんでした。つまり、当時の幕府の信用力は、金貨の品位の下落分を補って余りあったということです。

 苦肉の策の貨幣改鋳でしたが、これによって日本は世界に先駆け、国家の信用が貨幣価値の裏付けとなる管理通貨制に移行したのです。

 実際にはそこまで意図していなかったとはいえ、経済の大きな混乱を招くことなく、制度を刷新することができたのですから、結果は大成功だったと言えるでしょう。綱吉と言えば「生類憐みの令」で庶民を苦しめたことから、暴君のイメージが強いようですが、大胆で革新的な政策にいくつも取り組んできた、名君の顔も併せ持っているのです。

──一面的な評価だけでは語り尽くせない人物だということですね。近年は、江戸時代の文化や伝統についても、色々と研究が進んでいます。今の時代に生かせそうな江戸のいいところは何かありますか。

徳川 一つ挙げるとすれば、新参者でも気軽に受け入れる江戸っ子の懐の広さですかね。江戸以外の人々は、ほかの場所からやってきた人々を、何世代を経ても“よそ者”扱いしますが、江戸にやってきた人は、すぐに溶け込めるし、たった3代続くだけで自分も江戸っ子になれる。

 多様性などという言葉もなかった時代なのに、いろいろなバックグラウンドを持つ人が共生できる社会が、自然にできあがっていたわけです。

 人口減少がますます加速し、国内経済が縮小の一途をたどるなか、海外からの人材や、海外企業の積極的な誘致が求められています。かつての江戸っ子のように広い心を持って、日本に来てくれる人々を迎え入れるべきではないでしょうか。

──円安で給料も安いけれど、来てくれるでしょうか。

徳川 幸い、日本国内には質の高い社会インフラが整っています。人口減少によって利用者が減るインフラを放置しておくのはもったいない。だからこそ、進出してくる海外人材や海外企業に日本のインフラを使い倒してもらうのです。

 きっと、さまざまな国の人々が大きな魅力を感じてくれるでしょう。それが経済発展を促し、日本を救うことにつながるはずです。
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