2018年1月からスタートする「つみたてNISA(積立型の少額投資非課税制度)」と従来の「NISA」は、基本的に併用はできません。となると、気になるのはどちらの制度を選んだほうがよいのか、ということでしょう。
今回は、「つみたてNISA(積立NISA)」と従来の「NISA」の違いを改めて見ていくとともに、それぞれの制度に向いているのはどんな人か、また従来の「NISA」から「つみたてNISA」に移行する場合の注意点や手続きについてお話したいと思います。
「つみたてNISA」も従来の「NISA」も利益は全額非課税!
非課税枠・期間・投資方法・対象商品の違いに注意!
はじめに、「つみたてNISA」と従来の「NISA」の違いを再確認しておきましょう。どちらの制度も、一定額までの投資から得られた利益が全額非課税になる点が最大の特徴であり、メリットです。しかし、非課税で投資できる金額と非課税期間には違いがあります。
「つみたてNISA」の場合は、非課税投資枠は年間40万円で非課税期間は最大20年。制度のイメージを一言で説明するなら「少額で長期」です。非課税投資枠の総額は、年間40万円×20年で800万円になります。
一方、従来の「NISA」の非課税投資枠は年間120万円、非課税期間は最大5年なので、「高額で短期」と言えます。ただし、非課税投資枠の合計は120万円×5年間=600万円で、「つみたてNISA」よりも少なくなっています。
また、「つみたてNISA」と従来の「NISA」では、利用できる投資方法が異なります。「つみたてNISA」では、「毎月1回」など定期的に買い付ける積立投資しか選べません。従来の「NISA」の場合は、一括で購入してもいいし、積立で投資することも可能で、「つみたてNISA」に比べて自由度が高くなっています。
投資対象商品にも違いがあります。従来の「NISA」では、上場株式、ETF(上場投資信託)、リート(不動産投資信託)、投資信託と、幅広い商品が非課税投資の対象です。対する「つみたてNISA」は、金融庁による一定要件を満たした投資信託とETFのみが投資対象です。11月22日時点で投資対象となっているのは、インデックス型投信(109本)とアクティブ型投信(15本)を合わせて124本。国内の株式投資信託が5000本以上あることを考えると、本数が大幅に絞り込まれて選びやすくなっていると言えます。なお、11月22日時点では投資対象となっているETFはまだありません。
「つみたてNISA」は、長期で資産形成をしたい人、
従来の「NISA」口座を使いこなせていない投資初心者におすすめ!
では、両者の違いを踏まえた上で、どんな人にどちらの制度が向いているのかを考えていきましょう。
まず、長期で資産形成をしたいという人には、「つみたてNISA」が向いています。理由は、従来の「NISA」に比べて非課税投資期間が長く、さらに非課税投資額の合計も「つみたてNISA」は800万円、従来の「NISA」は600万円と、「つみたてNISA」のほうが大きいためです。
次に、今まで従来の「NISA」で投信の積立投資をしていた人で、毎月の積立金額が3万円(年間36万円)という人にも「つみたてNISA」をおすすめします。少額で積立投資をするのであれば、投資期間が長い「つみたてNISA」を利用したほうがメリットは大きいからです。なお、「つみたてNISA」では対象になる商品数が限られているため、従来の「NISA」で購入していた投資商品と同じものを購入するというのは難しいかもしれません。
とはいえ、124本の投資信託が用意されているます。まったく同じ商品にこだわらなければ、インデックス型投信なら、似たような商品は見つかります。アクティブ型投信も人気の高いスタンダードな商品がそろっているので、比較的似ている商品があれば乗り換えを検討してもよいでしょう。
また、従来の「NISA」口座を開設したものの、まったくあるいはほとんど使っていないという人も、「つみたてNISA」のほうが向いている可能性があります。せっかく「NISA」口座を開いたのに使わなかった理由はいろいろあると思いますが、「銘柄選びが難しい」「買うタイミングがわからない」という人もいるのではないでしょうか。
その点、「つみたてNISA」なら前述のとおり商品数がかなり絞られているため、従来の「NISA」と比べると投資する商品を選びやすくなっています。また、投資方法は積立に限られているので、「買いタイミングを図っていたら結局買えなかった」ということもなくなります。
まとまったお金を運用したいなら従来の「NISA」!
従来の「NISA」を選べば、上場株式やリートも取引できる
逆に、従来の「NISA」を選んだほうがよいのはどんな人でしょうか。
ひとつは、まとまったお金を運用したいと考える人です。「つみたてNISA」は年間40万円、それも積立投資のみという制限があります。それ以上の金額を運用したいのであれば、従来の「NISA」を選ぶことになります。
また、「つみたてNISA」は投資対象が一定の要件を満たす投資信託(とETF)に限られます。そのため、上場株式やリートを自由に取引したいという人も、従来の「NISA」が向いています。投資信託に関しても、従来の「NISA」を選べばリートや債券といった株式以外の資産に投資するものや、毎月分配型など幅広い銘柄から商品を選ぶことが可能です(「つみたてNISA」では、対象資産に株式を含まないものや毎月分配型の商品は対象外)。
つまり、ある程度まとまったお金があって、上場株式やリートも含むさまざまな商品を、積立投資に限らない方法で取引したいという人には、従来の「NISA」が向いていると言えるのです。
「つみたてNISA」に切り替えると、ロールオーバーができない!
従来の「NISA」を利用中の人は、移行のタイミングを考えよう
さて、従来の「NISA」の口座を開設していない人で、ここまでの説明から「自分は『つみたてNISA』向き」だとわかった人は、すぐに金融機関選び→口座開設手続きへと進んでいって構いません(金融機関選びについては次回の第5回、口座開設は第6回で詳しく解説します)。
しかし、すでに従来の「NISA」口座を開設済みで、「NISA」口座に資産を保有しているという人は、「つみたてNISA」に移行する前に考えるべきことがあります。それは、従来の「NISA」口座で保有している資産をどうするのか、ということです。
冒頭で、「つみたてNISA」と従来の「NISA」は「基本的に併用はできない」と説明しました。ただし、従来の「NISA」口座ですでに保有している残高は、「つみたてNISA」に移行した後も非課税期間が終わるまではそのまま持ち続けられます。「休眠口座」のような感じで、新たに投資商品を買うことはできませんが、途中で売ることは可能です。
それなら問題ないと思うかもしれません。ただ、従来の「NISA」から「つみたてNISA」に移行してしまうと、従来の「NISA」の5年間の非課税期間が終わった後に、次の非課税期間に資産を繰り越すこと(ロールオーバー)はできません。
利益が出ているなら、それまでに売るか課税口座に移せばよいのですが、問題は含み損が出ている場合です。ロールオーバーができなければ、損失を確定することになってしまいます。また、課税口座に移した場合も時価で再評価されるため、いったん損失を確定したのと同様の状態になり、値が戻った際に支払う税金が多くなってしまいます。
例えば、NISA口座を使い100万円で購入した株が80万円に下落したタイミングで課税口座に移管されると、取得単価は80万円となります。もし株価が90万円へと値を戻した場合、実際に購入した100万円より安い状態にもかかわらず、「90万円-80万円=10万円」が利益として計上され、税金を支払うことになってしまうのです。
そのため、もし従来の「NISA」口座に含み損状態の資産があり、ロールオーバーして値上がりを待ちたいという場合は、「つみたてNISA」に切り替えるのは待ったほうがよいかもしれません。特に、「NISA」がスタートした2014年に購入した商品が含み損になっている人は要注意です。来年2018年が従来の「NISA」の非課税期間の最後の年になるため、「つみたてNISA」に切り替えると、そのままではロールオーバーができなくなってしまいます。
「つみたてNISA」と従来の「NISA」は1年ごとに切り替えできるため、2019年に再び「NISA」に移行すれば、上記のような2018年に従来の「NISA」の非課税期間の最後の年を迎える場合に、ロールオーバーが可能になります。ただ、たった1年で「つみたてNISA」をストップして従来の「NISA」に戻してしまうことはおすすめできません。なぜなら、それでは積立投資によって中長期の資産を形成するという「つみたてNISA」のメリットを活かすことができないからです。
そう考えると、2018年は従来の「NISA」のままで、2019年にロールオーバーをしてから「つみたてNISA」に切り替えるという方法もあります。
同様に、2015年に購入した分は2019年に、2016年の分は2020年に、2017年の分は2021年に非課税期間が終了します。従来の「NISA」口座で残高がある人は、まずロールオーバーをするのかしないのか、その点をよく検討することが大切です。
従来の「NISA」から「つみたてNISA」に切り替えるには?
金融機関を変更しないのであれば、手続きは書類提出のみ
最後に、従来の「NISA」から「つみたてNISA」に口座を切り替える場合の手続きについて説明します。金融機関はそのままで、口座の種類を「NISA」から「つみたてNISA」に変更するだけという場合は、各金融機関が用意している変更書類(「非課税口座異動届出書(勘定変更用)」)を提出するだけで済みます。
一方、従来の「NISA」から「つみたてNISA」へ移行する際に併せて金融機関を変更する場合は、別の手続きが必要です。まず、変更前の金融機関に「金融商品取引業者等変更届出書」を提出し、「勘定廃止通知書」の交付を受けます。その後、変更しようとする金融機関に対して、「非課税口座開設届出書」に、「勘定廃止通知書」を添付し提出する必要があります。手続きの申込方法は証券会社によって異なるので、移行する際は各社のホームページをチェックすることをおすすめします。
ちなみに、「NISA」口座を開設していても、2017年9月末までにマイナンバーを提出していない場合は、2018年以後のNISA口座を利用することができません(2014年~2017年の年分のNISA口座で保有している上場株式等は、非課税期間が終了するまでは非課税の対象になる)。2016年1月1日より、証券口座を利用する場合には取引をする金融機関へのマイナンバーの提出が義務付けられているからです。
もし、2018年以後も「NISA」口座や「つみたてNISA」口座を利用したい場合は、マイナンバーを提出のうえ、再度ゼロから「NISA」あるいは「つみたてNISA」の口座開設手続きを行うことになります。
また、「NISA」口座と「つみたてNISA」の口座は、1年に一度に限って切り替えが可能ですが、一度でも取引をしてしまうとその年は変更ができなくなります。2018年から「つみたてNISA」に切り替えたいと考えている人は、2017年中に手続きを済ませるか、2018年になってからうっかり「NISA」口座で取引をしないように(特に積立投資をしている人は注意!)気を付けてほしいと思います。
次回は、「つみたてNISA」口座を開く金融機関の上手な選び方についてお話します。
【※関連記事はこちら!】
⇒つみたてNISA(積立NISA)を始めるなら、おすすめの証券会社はココだ!手数料や投資信託の取扱数などで比較した「つみたてNISA」のおすすめ証券会社とは?
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⇒つみたてNISA(積立NISA)を始めるなら、おすすめの証券会社はココだ!手数料や投資信託の取扱数などで比較した「つみたてNISA」のおすすめ証券会社とは?
(構成:肥後紀子)
ファイナンシャルリサーチ代表。AFP、1級ファイナンシャルプランニング技能士。クレジット会社勤務を3年間経て1989年4月に独立系FP会社に入社。1996年1月に独立し、現職。あらゆるマネー商品に精通し、わかりやすい解説に定評がある。主な著書に『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない』『ジュニアNISA入門』(ダイヤモンド社)など多数。
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投資信託 | 株式売買手数料(税込) | 投資信託 | ||
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150本 | 137〜2200円 (約定代金による) |
− | 536本 | − |
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91本 | 実質無料 | − | 332本 | − |
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※手数料などの情報は定期的に見直しを行っていますが、更新の関係で最新の情報と異なる場合があります。最新情報は各証券会社の公式サイトをご確認ください。売買手数料は、1回の注文が複数の約定に分かれた場合、同一日であれば約定代金を合算し、1回の注文として計算します。投資信託の取扱数は、各証券会社の投資信託の検索機能をもとに計測しており、実際の購入可能本数と異なる場合が場合があります。※1 年会費無料のクレジットカードの場合。※2 1約定ごとプランで約定金額240万円までの売買手数料。 |